デザインレビューとは?「目的や効率的な進め方のコツ、種類やフェーズ」について

2021.11.01

デザインレビューとは?「目的や効率的な進め方のコツ、種類やフェーズ」について

デザインレビューとは?「目的や効率的な進め方のコツ、種類やフェーズ」について

このコラムでは、製造業におけるデザインレビューとは何か?その定義や意味、そして目的、必要性、実施するメリット、進め方、種類・フェーズ「DR1、DR2、DR3、DR4」について解説します。

目次

デザインレビューとは?定義、意味

デザインレビューとは、開発の手戻りを未然防止するために実施する設計審議会のことです。フェーズを分けて繰り返し実施し、商品コンセプトと採用技術の整合性、設計方針・設計根拠の妥当性、重要部品の課題対応策・検証法の妥当性、設計検証モデルによる設計品質獲得を段階的に確認します。十分な準備をしてレビューを実施し、技術の議論を尽くしてフェーズ移行可否を判断します。

デザインレビューの目的・ねらい

商品QCDの確実な達成を狙い、各フェーズのデザインレビューで設定されたクライテリア(判定基準)を満足することを第三者の視点を入れて点検・審議し、次のフェーズに進んで良いことを判断します。

また、開発の結果からデザインレビューの在り方を見直し、仕組みを改善していくことが組織としての設計力強化・開発効率化にもつながります。

デザインレビューの必要性、なぜ必要か?

デザインレビューの根幹は、品質を支える設計根拠を明らかにすることです。そのために、設計者は根拠を示す設計情報を提出し、アセッサー(判定基準の評価・査定を行う担当者)が第三者の視点で技術的視点から提出された設計情報を審議して設計が到達すべきレベルに達していることを確認します。

このプロセスを確実に、また効率的に実施するためにフェーズという概念を取り入れます。開発する商品の最上位の要求品質から部品の設計まで確実につなげるために、商品企画・構想設計・詳細設計・試作評価と段階的にデザインレビューを実施します。各フェーズで構築すべき設計根拠と達成レベルを事前に設定し、役割を明確にした参加者による活発な議論で審議を尽くして後戻りを防ぎます。

デザインレビューを実施するメリット、期待できる効果

設計根拠が不明確なまま開発を進めると、開発中に発生するトラブルの真因究明に時間を要す、大きな後戻りを起こす原因となります。さらに、品質が安定せずに生産トラブルや市場トラブル(流通後の品質トラブルやクレーム)に繋がります。これらは全て品質ロスコストとなります。適切なデザインレビューを実施することで品質ロスコストを削減し、商品QCDの確実な達成を実現できます。

デザインレビューのもうひとつの側面として組織としての開発力の強化があります。商品QCDを達成しつづけるためには、従来の反省も踏まえて、デザインレビューのあるべき姿を考え、必要な開発プロセスの見直しを適宜実施することが必要です。これにより、デザインレビューの形骸化を防ぎます。

デザインレビューの定義をインターネットで検索すると、DR0、DR1、DR2、DR3、DR4・・・の形式で表現される多様な情報がヒットします。ここまで述べた様に、デザインレビューは、品質損失コストを抑制して商品QCDを達成するためのあるべき姿を追求した結果であるため、企業ごとに異なる形態となっています。

ここからは、弊社(富士フイルムビジネスイノベーション)のデザインレビューを素材として記述していきます。弊社は、オフィス用複合機、デジタル印刷機の製造販売を主力事業とし、企画から開発、生産、販売、そして保守まで一貫して自社で実施しているため、機構設計分野中心の自己完結色が濃いデザインレビューとなっています。

DR1(商品企画フェーズ)の主なレビュー内容とレビュー観点

DR1(商品企画フェーズ)の目的は、市場動向や要求、新商品を支えるために先行開発している技術の状況を勘案しながら、魅力ある商品の狙いと概要を設定し、要求仕様にまとめます。また、開発に必要な資源と計画を提示します。

経営戦略に則って策定した商品提供のロードマップをベースに、最新の市場動向や自社商品の市場競争力と照らし合わせ、市場における商品の必要性(競争力)を客観的に判断します。ベンチマークによって自社の現状を客観的に把握し、自社の強みと結びついたセールスポイントを設定します。また、変化する法規制に的確に対応することが重要です。

ここでまとめる要求仕様は次のフェーズ(構想設計)のインプットとなるため、設計者が設計思想を明確にするために必要な情報として点検部門が入って確実に展開することが重要です。この目標値展開に過不足があると、市場ニーズと不一致を起こす、競争力が劣る、採算性が悪化する結果となります。

DR2(構想設計フェーズ)の主なレビュー内容とレビュー観点

目的 商品企画の目標値を達成するために、候補となる複数の技術セットについて全体構成の成立性および採用技術の妥当性を検証し、最も有望な構想案とQCD目標を設定し、開発計画を明らかにします。
設計者 採用技術リスト・構成図・設計品質管理表等を用いて、設計項目と達成レベルの現状と計画を報告します。品質項目は展開された要求仕様に加えて、市場要求やベンチマークを踏まえて設定します。採用技術選択にあたっては、担当機能のみならず上位にシステム機能を整合させます。チャレンジ要素がある新規技術を採用し後戻りのリスクがある場合は、バックアップ策を準備します。ロジックツリーを使って品質から性能・中間特性にメカニズム展開し、中間特性の目標値を仮設定します。過去トラブルに対する対応策を明確にします。
アセッサー 第三者視点で設計が達成すべき設計品質に達しているかを合否判定します。また、残課題や次のフェーズへの対応を助言します。
点検部門 展開した目標と採用技術の整合性を確認し、懸念や課題の有無を進言し対応策要否を判断します。
議長 設計者からの報告、アセッサーの判定、点検部門の意見を総合的に判断し、フェーズ移行可否を判断します。

基本設計フェーズの活動内容

目的 機能ユニットの構造・機構を決定し、機能ユニット間・上位システムとの配置関係(レイアウト)・IF(インターフェース)が確定するとともに、システムと機能間の中間特性・キーパラメータ(重要設計パラメータ)の目標値を合意します。弊社では、フェーズ移行を判定する大掛かりなレビューは実施せず日常の活動を強化して、詳細設計フェーズと一連の活動としています。
設計者 3Dモデル・部品構成・設計品質管理表と品質確立計画を提示し、設計の達成レベルの現状と計画を報告します。基本設計フェーズでは、設計部門の責任と自由度を大きくし、組織長が指名したエキスパート(技術分野の第一人者)が日常の設計活動に入り込む活動が有効です。設計検討会を日常的に開催し、エキスパートによる第三者的な視点による客観的なアセスメントを繰り返し、設計者の気づきを引き出す支援を実施します。設計根拠は日々検討し、デザインレビューに一夜漬けのリストを持ち込むようなことを避けます。中間特性の目標値を上位システムと合意し、部品設計のキーパラメータ目標値を確定します。FMEAやDRBFM、ベンチモデルを使った重要機能の確認を実施します。
アセッサー 第三者視点で設計が達成すべき設計品質に達していることを確認します。
点検部門 日々の設計活動に参画し課題を抽出し、解決します。
議長 設計者から提出され、アセッサー、点検部門が確認したパッケージを承認します。

DR3(詳細設計フェーズ)の主なレビュー内容とレビュー観点

目的 品質目標を達成できる見通しを得て出図可能なレベルまで設計が完了していること、設計根拠の妥当性確認が終了していることを確認し、フェーズ移行か可能なことを審査します。ここを通過するとリアルな試作のフェーズに進むため、最も重要なデザインレビューとなります。
設計者 設計計画書・詳細設計完了報告書・点検結果報告書を提示して報告します。性能、中間特性の設計結果に基づいて品質を達成可能であることをメカニズムに沿って示します。基本設計フェーズで決定した設計目標値を実現する詳細設計を実施し、シミュレーションやベンチを使った実験で設計根拠を積み上げ、設計値を確定します。同時に3Dデータの詳細なモデリングを実施します。詳細設計フェーズでもエキスパートが参画する日常的な設計アセスメントを実施しますが、設計終了するフェーズのため、審査書類を作成し厳格に審議を実施します。
アセッサー 第三者視点で設計が達成すべき設計品質に達していることを確認します。
議長 フェーズ移行可否を判断します。

DR4(試作評価フェーズ)の主なレビュー内容とレビュー観点

DR3(詳細設計フェーズ)で合格の判定がされると試作用図面が発行されて部品が手配されます。設計検証モデルを使って性能評価試験を実施し、設計品質確認会で評価基準の達成状況を確認します。全ての評価基準をクリアすると評価終了(EXIT)と判定されます。

性能評価試験は評価部門により実施されますが、それに先立って設計部門として設計重要パラメータのウインドウ、外乱を含め目標通りに品質(中間特性)が得られていることを実機相当で確認します。これは念のための事前確認の意味もありますが、プレ評価に必要な評価方法や計測技術を考えることで設計を深く考察し、設計品質を向上する狙いもあります。詳細設計フェーズの評価は段階的に実施され、不具合が生じた場合は対策を施し、設計目標値を満足するまで改善と評価を実施します。

コツ1:設計する時間を十分確保し、設計者の自立・自律を支援すること

最初のコツは、「設計する時間を十分確保し、設計者の自立・自律を支援すること」です。時間がなければ、事前準備が不十分となりデザインレビューその物が無駄になります。また自立・自律を支援しなければ、指示待ちの状態となり、形骸化します。

設計者の時間を作り出すには、審議の回数や時間を最小化し、かつ審議目的と役割を明確にしましょう。

自立・自律を支援するには、構想設計の確認を充実させ、基本設計から詳細設計までの長いレンジを設計部門の責任の元、日常的なアセスメントを繰り返す「設計作り込み」に時間を充てることも有益です。設計者が力を発揮できるように、部門長・設計リーダ・ベテラン設計者が設計者と一体となって活動し育てましょう。チェックの目を細かくしすぎたイベントを重ねることは、設計者の余裕を奪い、受動的な活動となって、設計品質の向上を阻害する形骸化したデザインレビューに繋がります。

コツ2:設計を作り込む活動とフェーズ移行を審査する場を明確に分けメリハリをつける

次に、設計を作り込む活動とフェーズ移行を審査する場を明確に分けメリハリをつけることが重要です。

設計を作り込む活動は部門内で日常的に行い、ベテラン設計者が設計の中身について設計者と一緒に考え、考えさせ、育てます。ベテラン設計者が自身の育てる役割を理解することも大切です。部門長が適切なベテラン設計者を任命し、開発期間を通じて設計者の成長を支援しましょう。

フェーズ移行審査は、設計リーダが採用技術と設計の達成レベルを報告します。アセッサーは技術的見地から妥当性を検証し、設計品質の合否を判定します。点検部門は、展開した目標値と採用技術の整合性を確認し、懸念や課題の有無を進言します。議長は、設計リーダの報告、アセッサーの判定結果、点検部門の意見を総合的に勘案し、フェーズ移行を判断します。

フェーズ移行審査を効率的に、かつ技術を厳しく深く議論するためには、設計作り込み活動に十分な時間を掛けて設計根拠を追求し、懸念事項を点検部門と事前に協議を重ねるなどの十分な準備が重要です。

これを実現するためには、設計時間を十分確保し、設計者が主体的に考えつくすことが必要です。部門における設計作り込みの議論が十分できていないと、フェーズ移行審査で身内に撃たれる事態が発生します。報告する設計者にもつらく、勿体ない時間を使ってしまうので、移行審査で身内から指摘がでないことが部門作り込みの充実度の指標ともなります。

コツ3:本当に必要な仕組みを残すこと

部門長の責任は、常に業務成果を計測して組織の成長を確認するとともに、開発プロセスの改善を継続することです。部門長は、問題を分析して本質的な課題を抽出し、対応策の提案と実行をリードしましょう。大きな開発を終えたときはプロセスレビューをしっかり実施し、デザインレビューのプロセスを見直します。新しいプロセスの背景と狙いを部門内外に展開・周知するコミュニケーションがとても重要です。そして、「新しいプロセス」を本当に必要な仕組みとして残していきましょう。

コツ4:デジタル設計を活用しモノづくりにつなげること

3Dモデルやシミュレーションを活用したデジタル設計による“作らない設計”(試作は設計確認のために実施する)で開発納期を短縮する取組みが広く行われていますが、最初の試作で手間取って納期に影響を与えてしまうことがあります。理由は試作品が評価に必要な安定した動作をしない、または、中間特性が測れず評価が進まないなどがあります。そのため、詳細設計フェーズでは、試作評価を考えた設計の作り込みが重要になります。

デザインレビューを効率よく進めるコツをご紹介しましたが、やはり、重要なのは、「設計者の育成」です。自立・自律した設計者が、設計を作り込むことで、デザインレビューは効率よく進められます。ここでは、設計者の育成について、コツやポイントを解説します。

設計者を支援する仕組みと相互連携

設計者の育成には、ベテラン設計者が寄り添って考えつくす環境に加えて、設計手法の強化も重要です。さらに「複数のサブ技術が結合した設計」の場合は、部門長やベテラン設計者が相互点検・連携するようなルールを作り、設計者を支援する必要があります。

複数のサブ技術が結合した設計における設計者の支援

複数のサブ技術が結合してシステム機能を発現する設計が増えていますが、このようなシステム機能の設計力強化には、品質と設計だけでなく中間特性を含むロジックツリーでメカニズムを展開することが有効で、設計根拠を追求する助けとなります。

性能の達成状況を評価する指標となる中間特性を構想設計で確実に設計して、詳細設計へ進むことで後戻りを抑制し、戻る場所を作ります。

複数のサブ技術が結合する場合、ひとつのサブ技術の設計を変えることでシステム性能に影響するだけでなく、結合する技術に影響を与える場合があります。サブ技術が個別に設計を進めると結合テストで不整合による不具合を起こし、原因の究明と設計の見直しで時間をロスします。このような場合、相互に影響を与える技術を事前に特定し、設計活動のチェックポイントでは相互にアセスメントするチーム設計によりシステムとしての整合性を確保します。

関連するサブ技術との関係を意識する、上位のシステムの機能を考えて設計することが重要であることは設計者であれば理解しています。しかし、漏れなく実施することは現実的ではありません。仕組みとして新しい設計手法の導入や相互点検のルールなどで補う必要があり、部門長やベテラン設計者が支援すべき部分といえます。

設計者自身がすべきこと

設計者自身も、やるべきことがあります。設計根拠をしっかり考え、第三者に説明し、指摘をしっかり聞く、寄り添うベテランの知恵を引き出すことが重要です。そのためには設計確認会に日常的に参加し、設計力とコミュニケーション力を高めます。厳しく技術論争した結果を設計に反映する力を身に着け、考えつくした設計でフェーズ移行審査に臨みましょう。

ベテランと若手のコミュニケーションの質向上は重要な課題です。最後まで聞かないベテラン、質問しない若手という噛み合わない会話が発生しがちです。設計の思想が含まれた設計情報やデータを介した技術的な会話など、ルールを適用した会話などの工夫で徐々に相互理解を深めることができます。

毎日設計検討会を実施することは育成に有効ですが、それが重荷になってはつらいだけです。ベテラン設計者と複数の若手設計者でチームを作り、短時間で2つ、3つの課題について議論をし、持ち回りで検討結果を報告するようにしましょう。少し考える時間があり、別のメンバーとベテラン設計者のやり取りを傍で聞く機会を作り、負荷を掛けずに議論を続けられる工夫をしましょう。

最後に、デザインレビューについては、ISO9001でも規定がありますので、その概要をご紹介します。

8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー

※「ISO 9001(JIS Q 9001)品質マネジメントシステム-要求事項」規格書より引用

8.2.3.1

組織は,顧客に提供する製品及びサービスに関する要求事項を満たす能力をもつことを確実にしなければならない。組織は,製品及びサービスを顧客に提供することをコミットメントする前に,次の事項を含め,レビューを行わなければならない。

  • a)顧客が規定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の活動に関する要求事項を含む。
  • b)顧客が明示してはいないが,指定された用途又は意図された用途が既知である場合,それらの用途に応じた要求事項
  • c)組織が規定した要求事項
  • d)製品及びサービスに適用される法令・規制要求事項
  • e)以前に提示されたものと異なる,契約又は注文の要求事項

組織は,契約又は注文の要求事項が以前に定めたものと異なる場合には,それが解決されていることを確実にしなければならない。
顧客がその要求事項を書面で示さない場合には,組織は,顧客要求事項を受諾する前に確認しなければならない。 注記 インターネット販売などの幾つかの状況では,注文ごとの正式なレビューは実用的ではない。その代わりとして,レビューには,カタログなどの,関連する製品情報が含まれ得る。

8.2.3.2

組織は,該当する場合には,必ず,次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。

  • a) レビューの結果
  • b) 製品及びサービスに関する新たな要求事項

最も大切なことは、レビューの結果を文書として残すことです。残す目的は、そこから振り返ることができる状態を作ることです。そのためには、どのような基準で判断されたのか、判断の素材としてどのような情報が提供され、誰が何を指摘し、どのような議論がされたのかがわかる必要があります。

技術の説明を実施し、確認の質問で終了する、議事録だけが残っているデザインレビューは形骸化していると言わざるを得ません。

「顧客に提供する製品及びサービスに関する要求事項を満たす能力をもつ」ためには、要求事項を設計者が設計思想を明確にするための情報として目標値展開されていること、レビューの場で設計者から設計項目と達成レベルの現状を報告し、その成立性と妥当性をアセッサーと点検部門が技術の視点で指摘・確認することが必要です。

これを実現するために、日々の設計活動のなかで設計者と支援者が設計根拠を考え続ける環境を整え、フェーズごとのクライテリアが明記、数値基準ルールも徹底されたデザインレビューを段階的に実施します。そして、プロセスの見直しを継続します。

デザインレビューとは何か?その定義や意味、そして目的、必要性、実施するメリット、進め方、種類・フェーズ「DR1、DR2、DR3、DR4」について解説しました。

デザインレビューでは、いじめや無駄、形骸化するといったさまざまな課題が発生します。そういった課題を解決するためのコツをこのコラムで得ていただけたら幸いです