富士フイルムヘルスケア株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:山本 章雄)は、超音波診断装置の画質を大幅に向上させるノイズ除去技術を開発しました。本技術は、AI技術*1を活用してエコー信号とノイズを区別し、診断に必要な信号を選択的に抽出します。この新しいノイズ除去技術により、体内深部からの信号が弱く診断が難しかったケースでも高画質な画像を提供できる超音波診断装置を実現し、より正確な超音波検査を支援します。
超音波診断装置は、被検者の体表にあてた超音波プローブから体内に向けて超音波を送信し、体の組織から反射するエコー信号を利用して被検者体内の組織構造を映像化する装置です。一般的に、エコー信号は体内を伝搬する過程で減衰します。一方、装置の電気回路などからランダムに発生する電気ノイズは、体内の情報とは無関係に常に発生します。そのため、音の伝搬距離の長くなる深部の臓器や、強い減衰特性を持つ脂肪肝などの組織からのエコー信号は、電気ノイズに埋もれやすくなります。したがって、取得したエコー信号から、混在する電気ノイズをどの程度除去できるかが超音波診断装置を設計する上で重要です。
またエコー信号には、画像上の特徴が電気ノイズと類似する微弱なスペックル信号*2も含まれています。スペックル信号は、体内の組織状態の微妙な違いを表現する情報として役立ちます。このため、ノイズ除去に伴ってスペックル信号まで除去してしまうと、診断画像としての質が低下します。したがって、微弱なスペックル信号と電気ノイズを区別した上で、超音波画像から電気ノイズだけを適切に除去することが求められます。
当社は、スペックル信号を維持しながら、超音波画像診断に不要な電気ノイズを除去する技術を、AI技術を活用して開発しました。
技術の特長
(1)小さな特徴の違いも逃さない、AI技術とRAWデータ*3との組み合わせ
特徴の似ているスペックル信号と電気ノイズを区別する目的で活用したのが、映像化処理する前のエコー信号のデータ(RAWデータ)と、小さな特徴の違いを高精度に認識できるAI技術です。超音波診断装置上の映像は、信号処理や画像処理の過程で、本来エコー信号に含まれる様々な情報が圧縮された状態で構築されます。一方、映像化する前のRAWデータには、音波の周波数や位相など、体内組織の状態を反映したより多くの情報が含まれているため、電気ノイズとスペックル信号の違いを区別し得る特徴が残っています。このRAWデータに対し、AI技術を適用することで、超音波画像から不要な電気ノイズを効果的に除去することに成功しました。
(2)AI技術を活用したノイズ除去処理の最適設計
装置のノイズ除去処理を最適に設計する環境を、AI技術を活用して構築しました。超音波検査では、検査者が超音波プローブを動かしながら画像を確認するため、リアルタイムに画像を表示する必要があります。このリアルタイム性を維持しながら情報量の多いRAWデータを処理するには、装置の計算量を抑える処理の効率化が求められます。AI技術を活用して構築した設計環境で、あらかじめ用意した複数のノイズ除去処理の中から、エコー信号の特徴に応じて最適な処理方法を高速に選択する仕組みを実現し、RAWデータのノイズ除去処理の効率化に成功しました。これにより、AI技術を活用した高いノイズ除去性能と超音波診断装置に求められるリアルタイム性の両立を実現しました。
今回、AI技術を活用して開発したノイズ除去技術により、エコー信号から電気ノイズを効果的に除去し、超音波画像に求められる基本性能の向上を実現しました。これにより、ノイズに埋もれやすかった体内深部まで、組織の形状や動態を明瞭に描出することが可能となり、より正確な超音波検査への貢献が期待されます。
今後は、医療機関と連携して本技術を活用した装置の開発を進め、早期製品化を実現し、超音波検査の質の向上に貢献します。
開発したノイズ除去技術適用後の超音波画像の比較
(腹部の肝臓と血管の断層像。血管内や体内深部のノイズが除去され画質がクリアになっている。)
従来
本技術(ノイズ除去後)
お問い合わせ
本件に関するお問い合わせは、下記にお願いいたします。
富士フイルムメディカル株式会社
マーケティング部
E-mail:shm-fms-hansoku@fujifilm.com