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市場トレンド

近年注目される新たなデータ基盤、
オブジェクトストレージとは?

近年、肥大化するデータ保管の解決策の一つとして「オブジェクトストレージ」が注目を集めています。背景には、従来のファイルストレージと比べ、オブジェクトストレージはデータの急増に対応し柔軟に拡張がしやすいこと、これまでデータとして活用しきれなかった、文書や画像、各種ログなどの非構造化データの効率的な管理に適していることなどがあります。そこで、今後のデータ基盤として期待されるオブジェクトストレージとはどんなものなのか、特徴や主な使い方などを解説します。

企業が利用する非構造化データの増加が普及を後押し

オブジェクトストレージはユーザーの立場からはあまりなじみがないと思いますが、実は、普段私たちがSNS や動画・画像共有サービスにアップロードしたデータの保存先として、すでによく使われているストレージ基盤です。ファイルストレージとは異なり、データをメタデータと結合した「オブジェクト」の形で管理することからその名前がつけられています。

いまオブジェクトストレージが注目されている背景としては、企業が保有する非構造化データの急増が挙げられます。文書や画像、各種ログやバックアップ、アーカイブなど、従来あまり活用できていなかったデータが、近年ではビッグデータ分析や人工知能(AI)といった技術が急速に発展・普及し、その活用の道が大きく開けてきました。さらにはIoT の導入が広がり、より多くのデータを集められるようになってきています。
こうした流れを受けて、多種多様なデータを分析・活用するためのストレージとして、あるいは将来的な活用に備えた保管場所として、拡張性に優れたオブジェクトストレージへのニーズが高まっているのです。

特徴① 「ディレクトリ+ファイル」の考えを使わずデータを管理

オブジェクトストレージの具体的な特徴の1つが、データの管理法です。ファイルサーバやNAS(Network Attached Storage)などのファイルストレージでは、階層構造のディレクトリでデータを管理するファイルシステム*1が使用されており、個々のデータは「ディレクトリ+ファイル名」で識別されます。それに対しオブジェクトストレージでは、階層構造を持たずフラットな空間にデータを格納し、個々のデータに固有のID を付与することで識別するシンプルな管理方法です。

そして、このアーキテクチャの違いにより、ストレージの格納場所にデータが縛られないことも特徴です。数多くあるファイルシステムのいずれも、システム全体でのファイル数の上限が決まっています。しかも、これらの上限を増やすとファイル/ディレクトリ管理のための情報量が増え、実効容量やパフォーマンスに悪影響を及ぼすジレンマもあります。一方オブジェクトストレージでは、各データはIDとひもづいており、ユーザーはどこに保存されているかを意識する必要がなく、格納場所が変わってもデータを呼び出すことができます。そのためデータの分散保存がしやすいのも特徴です。
さらに、検索性の高さも挙げられます。カスタマイズ可能なメタデータ*2をデータに豊富に付与でき、多様な観点でデータを探すことができます。

  • *1 記録装置(HDDなど)上にデータを保存・管理するためにOSが提供する機能
  • *2 本体のデータに関する付随情報が記載されたデータ
     

特徴② 高い拡張性でスケールアウトが容易

オブジェクトストレージは「ファイルシステム」や「ディレクトリ」に縛られないためデータ管理の制約が少なく、原理上はデータの大きさにもデータの数にも制限はありません。オブジェクトストレージとして市場に提供されている主な製品をみても、優れた拡張性をメリットの1 つとして挙げ、ハードウエアを増設するスケールアウトによりストレージ容量をシンプルに拡張できます。

従来のファイルストレージとオブジェクトストレージ

特徴③ Web との親和性に優れ、クラウドにもオンプレにもデータを置ける

オブジェクトストレージでは、データ固有のID をURI(Uniform Resource Identifier)*3の形で記述し、さらに通常はREST API*4によってHTTP*5でアクセスするため、Webとの親和性が極めて高く、データがオンプレミス環境にあろうとクラウド上にあろうと、ほとんど変わらず利用できるようになります。

例えば、オブジェクトストレージの代表格である「Amazon Simple Storage Service(S3)」はパブリッククラウドサービスとして提供されていて、このS3で使われるAPIが事実上の業界標準のような位置付けとなっており、オンプレミス環境向けのオブジェクトストレージ製品にも「S3互換API」をうたうものが少なくありません。そのため、Amazon S3への接続を前提として作られたアプリケーションを、プログラムにほとんど手を加えることなく、オンプレミス環境のオブジェクトストレージでも利用できるというわけです。
こうした製品・サービス間の互換性によって、場所を問わずにデータを置くことが可能になり、ビジネス環境の変化などに伴いデータの置き場所をクラウドからオンプレへ、あるいはその逆へ移行することも比較的容易に行えます。

  • *3 Web 上にあるリソースを識別するための文字列。正確には異なるが、Web サイトを一意に特定するURL と似たようなものと想像するとよい
  • *4 API の一種。特定のパラメータをつけてURI にアクセスしてデータの取得や更新、削除などを行うことができる
  • *5 Web サーバと通信して情報のやり取りをするためのプロトコル

ファイルストレージ、ブロックストレージと比べたオブジェクトストレージの優位性

データストレージには様々な種類があり、それぞれに用途や目的に合わせたメリット・デメリットがあります。

ユーザーが業務で触れる機会が最も多いファイルストレージは、そもそも人が直感的にデータを扱えることを目的とした構造で、データの管理がしやすいことが利点ですが、格納できるデータ量にシステム上限があり、増やすためにはシステム単位で増設する必要があるため拡張性・可用性に難があります。

ブロックストレージという形式は、格納するデータを小さなブロック単位に切り分け、最適な場所に配置します。LinuxとWindowsなど異なる環境にも分散配置が可能で、データの切り分けと復元はストレージソフトウエアが行います。非常に高速なデータ取得が可能で、更新頻度の高いデータ管理に向いていますが、現状ではシステムを組むのにとても高額な費用がかかることが難点です。

そしてオブジェクトストレージは、HTTPによるアクセスの容易性、拡張性と可用性、容量に対するコストパフォーマンスに優れており、一方で通信速度が他に比べて低速なので、大容量データを将来にわたって低コストで管理することに最適なストレージと評価されています。

ブロックストレージ、ファイルストレージ、オブジェクトストレージ比較表

オブジェクトストレージの多彩な用途

ストレージはデータの器であり、その活用方法はさまざまです。オブジェクトストレージも、特性を生かした幅広い目的で利用されています。その代表的なユースケースとしては、アーカイブデータを資源として活用することを主とした用途と、どちらかというとアクセス頻度が少なめで保管することに主眼を置いた用途に大別できます。この目的次第でストレージの要件にも違いが出てくるので、選定の際には要件に見合った選択が重要です。

データ分析の基盤として

前者の使い方の代表といえるのが、ビッグデータ分析に供するデータ基盤です。分析システムを本格的に立ち上げる前のPoC(Proof of Concept:概念実証)段階では、構築や変更を迅速に行えるよう、クラウドサービスで提供されているツールを組み合わせて作ることが多いでしょう。このとき組み合わせるオブジェクトストレージも、同じクラウドプラットフォーム上のものを選ぶのが効果的です。

ただし、オブジェクトストレージのクラウドサービスでは、データ保管量に応じた課金に加え、データのリクエストや外部へのデータ送信などにも課金が発生することが多く、アクセス頻度や外部への転送が多い場合には割高になりがちです。この課金を避けるため、本格的な分析基盤を立ち上げる際にオンプレミス環境へ全面的に移すケースも少なくありません。

また、とりわけ重要な機密データや個人情報を扱う場合などは、特に厳しいセキュリティポリシーを適用しなければならず、全てを自社保有の基盤で管理するのが主流となります。例えば製薬会社の研究開発データなどは、ビジネス上の重要機密でもあるうえに、患者の治験データなど個人情報に属するデータも含まれることが多く、厳重な管理が不可欠で、クラウドサービスのような社外の環境を利用することは困難といえるでしょう。

長期保管の用途として

一方、長期保管を主目的とする使い方としては、ログやコンテンツなどのアーカイブ、法令などにより長期保存が求められるデータ、別システムのデータバックアップや災害対策(DR)などが考えられます。クラウドとオンプレミスのどちらが有利かは、保管する目的、期間や容量、ユーザー自身のIT 環境やセキュリティポリシーなど、さまざまな要因が関係するため、ケースバイケースで検討することになるでしょう。

ちなみに、クラウドとオンプレミスとのハイブリッド環境を構築することも、あまり難しいことではありません。またオンプレミス環境においても、製品やそのオプションの組み合わせにより、コスト効率を重視した構成や、パフォーマンスもある程度重視した構成など、幅を持った選択肢が考えられます。具体的な内容については、知識や経験の豊富なシステムインテグレーターなどと相談するのがよいでしょう。

オブジェクトストレージの用途の一例

オブジェクトストレージの用途の一例の図