このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
副センター長 整形外科部長
桑沢 綾乃 先生
相馬 孝太朗 先生

桑沢先生
膝のMRIは軟骨や半月板、靱帯や骨髄の状態に至るまで詳細に把握が可能であり、膝関節の状態を知るためには極めて重要な検査として位置づけられている。しかしsliceごとに描出された画像からでは、軟骨が欠損していることは理解できても、全体的な軟骨欠損の大きさなどの評価は厳しく、現状では必要に応じて関節鏡検査を追加し患部の全体像や状態を把握・確認する必要があった。
新たにSYNAPSE VINCENTに搭載された“膝関節解析”は、富士フイルムのメディカルAI技術ブランド「REiL(I レイリ)」による深層学習(Deep Learning)技術を活用して開発したアルゴリズムを用いて、ソフトが自動的に大腿骨・脛骨・膝蓋骨、それぞれの軟骨、半月板を抽出し、3Dを構築する。
これにより、軟骨・半月板領域の定量評価を簡便に行い、膝の全体的な状態を、非侵襲的に把握することが可能となった。
当院では、再生医療の治療を受けられる患者さまを中心に“膝関節解析”を行い、軟骨の状態把握や患者さま説明に活用している。本稿では、この経験をもとに、膝関節解析の活用症例や今後の改善課題などを述べる。
膝関節解析は、MRIのプロトン密度強調画像とT2*強調画像を用いて3D構成を行い、膝の全体像把握、さらに軟骨の厚さ、体積、欠損面積の計測や半月板の逸脱長計測が可能な3D解析アプリケーションソフトである。
軟骨領域では、3D構成により軟骨の有無を確認するモード(図1-①)と軟骨の厚みを色で表現した2種類のモード(図1-②)で描出され全体像が把握できる。通常のMRI画像では困難であった軟骨欠損領域の定量化や、軟骨の厚みを色調で表現することで軟骨の摩耗状態を把握することに有用であると感じる。
軟骨定量化機能は、それぞれの軟骨体積・軟骨欠損面積の計測(図1-③.④)が可能である。自家軟骨培養移植の適応判断となる軟骨欠損面積の定量的な評価にも有用であると感じる。
さらに半月板では、3D構成により脛骨関節面との位置関係や逸脱の幅、体積の計測が可能である(図2)。

図1

図2
当院の再生医療外来では、医師による診察の後、各検査依頼がかかる。遠方から来院される患者さまが多いことからMRI検査も診察当日の対応を求められる。MRI検査室では、このような当日の検査依頼を見越して再生医療外来専用の当日予約枠を設け対応しているが、その予約枠以上に検査依頼をうけることもある。予約枠外検査は平均5件前後であるが、予約も常にすべて埋まっている中でこの追加件数をこなすことは決して容易なことではない。しかし、再生医療を受けられた患者さまは、治療前後の効果判定など経時的な定量評価が重要な目的となる。そのため我々、放射線画像診断科では一般的な診断を目的とするルーティンの膝MRI検査との差別化を行い、検査オーダーも別物として扱っている。このため当院では「膝関節MRI」とは別に「VINCENT膝関節MRI」というオーダーを作成し、運用している。
当院での膝関節解析を行うための撮像条件を下記に記す(表1・図3)。
VINCENTで精度の高い解析を行うためには、一般的な膝MRIと比較しthin sliceでの撮像が必須となる。図4はsliceの設定の違いにより3D構築画像の精度が異なることを示した画像である。このように詳細な3Dの描出を行うためには、通常ルーティンで行う膝MRI撮像よりも時間を要するため、当院では膝関節解析導入前に予約枠の時間調整などMRI検査運用の見直しを行った。新設した「VINCENT膝関節MRI」枠は、遠方から来られた初診患者さまの対応を見越して作成したが、予約枠以上に検査依頼があり、患者さまの入れ替え時間を短縮するなど、できうる限りの対策を施して検査を回しているのが実情である。また、1シーケンス7~10分要するため、撮像中の体動によるアーチファクトや折り返しアーチファクトに細心の注意を払っている。患者さまへの十分な説明と最適かつ再現性あるポジショニングは我々技師の腕の見せ所である。
| 使用機器 | PHILIPS社 Ingenia 3.0T | |
|---|---|---|
| 3D FFE | 3D PDW | |
| FOV(mm) | ||
| FH(freq) | 150 | 150 |
| AP(phase) | 150 | 150 |
| RL | 96 | 96 |
| ACQ Voxel size(mm) | ||
| FH | 0.6 | 0.6 |
| AP | 0.6 | 0.6 |
| RL | 0.6 | 0.6 |
| Recon Voxel size(mm) | ||
| FH | 0.3 | 0.3 |
| AP | 0.3 | 0.3 |
| RL | 0.3 | 0.3 |
| SENSE | ||
| P reduction(AP) | 1 | 2 |
| S reduction(RL) | 2 | 3 |
| Slices | 320 | 320 |
| Slice orientation | sagittal | sagittal |
| Scam mode | 3D | 3D |
| technipue | FFE | SE |
| Fat suppression | ProSet | no |
| pulse type | 1331 | no |
| NSA | 1 | 1 |
| Total scan duration | 07:30,0 | 07:30,0 |
| TR | 20 | 1000 |
| TE | 7 | 35 |
| FA | 35 | 90 |
| Echoes | 2 | |
| TE1(ms) | 7 | |
| TE2(ms) | 13.8 | |
| Coil | dStream T/R Knee 16ch coil or dStream Knee 8ch coil | |

図3

図4:Slice厚の設定の違い
膝関節解析で構築した3D像と実際の関節面は、どの程度相関しているのだろう。再生医療施行後、人工膝関節置換術を希望され、術中直視下で関節面を評価できた症例を提示する。症例A(図5)では軟骨欠損部の境界は多少の誤差があるが、全体像をよくとらえていることがわかる。しかし、症例B(図6)では我々の視覚的認識と膝関節解析の判定に誤差があるようにも感じる。膝関節解析は軟骨の有無を信号値などのさまざまな特長量から判断し、厚みとして表現しているが、我々の視覚は軟骨の有無を色調や質感で判断しているため誤差が生じるものと考えている。このため、症例Bでは膝関節解析では1mm未満でも軟骨があれば色調の変化で表現した部位が、我々の視覚ではわずかに残っているだけの強い変性をともなった軟骨であるために軟骨欠損のように見えてしまう。これを考慮すると膝関節解析で描出された膝と直視下の膝では、それぞれの診断に若干の差異がある可能性も考えられる。一方で、変形性膝関節症で多く見られる骨棘に伴ってできた軟骨様の組織は(矢印)、軟骨として識別されることはなく、精度の高さも窺えた。

図5:症例A 術中と3D-MRIの違い
図6:症例B 術中と3D-MRIの違い
当院では、2018年から関節治療センターを併設し、人工関節と再生医療の2本柱で下肢の関節治療を重点的に行っている。現在、再生医療外来では、PRP(Platelet rich plasma)・次世代PRP(APS: Autologous Protein Solution)脂肪由来間葉系幹細胞を関節内注射する治療を行っている。これらの治療の際には、治療前と治療後6・12か月でMRI検査と膝関節解析を実施しており、患者さまへの説明や、軟骨の定量評価を治療の多角的評価の一つとして重要な評価ツールである。
具体例を示す。症例C(図7)は、大腿骨外顆の軟骨部分欠損例である。
slice画像で軟骨欠損は理解できても全体的な軟骨欠損の大きさは理解しにくいが、3D構築することで、位置や大きさも理解しやすい。

図7:症例C
症例D(図8)は間葉系幹細胞の関節内投与を施行した変形性膝関節症の患者さまの施行前後の画像である。この施行前後の画像を比較すると、施行後は内側の関節面は軟骨欠損部の境界域が明瞭化し欠損部全体が縮小していること、外側の関節面は色調の変化から軟骨の厚みが増加していることがわかる。このように、膝全体像の把握や経時的変化の比較に対し、3D化して視覚的に理解しやすく表現することは我々医師にとって有用なだけでなく、患者さまの理解を得る上でも大きな役割を果たしている。

図8:症例D 間葉系幹細胞 関節内投与例
さらに再生医療において、各組織の定量評価を行い組織修復作用の効果を経時的に計測し数値化することは重要である。図9は症例Dを定量解析したものだが、大腿軟骨の体積は8.18mlから9.27mlに増加、欠損面積は309.4mm2から299.0mm2へ縮小している。このように見た目だけではない数値としての評価ができることは、治療効果を見る上で客観的な評価を行うという点で非常に有用な機能であると感じる。

図9:症例D 間葉系幹細胞 関節内投与例 定量解析
当院では、これらの計測値は膝関節解析により自動解析で算出された計測値をそのまま利用して評価している。より精度を上げるために、ソフトによって自動判定された各組織の境界を、さらに手動操作で微調節することも可能だが、主観が入る可能性がるため、ソフトの自動判定による一定の再現性・公平性を重視する。
軟骨と骨とのsegmentationの向上
“膝関節解析”で最も重要なのはそれぞれの組織を抽出するために、組織の境界を判定するSegmentationである。今後、モダリティ装置の高速撮像シーケンスの改良により、撮像時間の短縮が可能になれば患者さま負担を減すことができ、さらにコントラストが良好な画像が得られるようになれば、膝関節の標準化された撮像シーケンスが普及するであろう。このような技術の進歩により今よりもさらに多くの画像が集約され、Segmentationの適応パターンが増えることが望まれる。現時点ではMRI上の信号値が低くなっている領域(軟骨辺縁部など)においては、自動で正確な境界線を描くことが難しい症例もある。(図10)手動での修正も可能だが、定量評価には主観の入らない「再現性」が重要であるため、DeepLearning技術の発展によってさらに幅広い症例で自動抽出の精度向上が感じられることを期待している。

図10:辺縁部軟骨の位置異常
活用事例を織り交ぜながら臨床における膝関節解析の有用性を述べた。
Segmentation限界など、更なる精度向上に期待したい点もあるが、現在までのMRIでは理解し得なかった膝組織全体の形態を、簡便に3次元化し、色調も利用して全体像の把握や経時的変化を観察できるVINCENTの技術は、患者さまの理解を得る上でも大きな役割を果たせるツールでありまた、新たなMRI検査の時代が到来したようにも感じさせる。

















