日本

ポータブルエコーのインタビュー

総合診療科で活用されるワイヤレスエコー
~POC超音波で診断の精度や患者満足度が向上

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

医師 / 総合診療科
豊田地域医療センター
上松 東宏 先生

患者さんの主訴に向き合い、問診、診察、検査などを手がかりとして最終的な診断をつける――。総合診療科には、腹痛、頭痛、発熱、食欲不振、体重減少、慢性疾患の管理や幅広い健康相談など、実に多種多様な主訴を持った患者さんがいらっしゃいます。そのような主訴も年齢も病歴も異なる患者さんに向き合うプライマリ・ケアにおいては、問診、診察が特に重視され、私自身も問診、診察を非常に大切にしています。

その一方で、問診、診察だけでは診断が難しい、あるいは、より確実な診断をつけたいと感じるケースもあり、そのような場面で有効な手法として注目されているのが、医師などがその場で迅速に行う「ポイントオブケア超音波(以下、POC超音波)」です。

総合診療科でPOC超音波が必要とされる場面は外来、病棟、在宅とさまざま。その中で求められているのは、どこにでも手軽に持ち運んで使用できる小型・軽量の装置です。そして、急性期においては、腹部エコーに適したコンベックスプローブだけでも多くの場面で対応できると感じています。

豊田地域医療センターの総合診療科では、小児から老年期まで幅広い患者さんのプライマリ・ケアを行い、同時に訪問診療も積極的に行っています。その中で、私が担当しているのは外来と在宅です。外来では、指導医として全体に目を配りながら指導・教育を行うほか、自ら診療も行い、そこでポケットサイズのワイヤレスエコーを活用しています。

私が本格的にエコーに取り組むきっかけになったのは、アメリカのフェローシッププログラム「Ultrasound Leadership Academy」です。そのプログラムでPOC超音波の知識や臨床への応用方法などを系統的に学び、現在は診療のさまざまな場面でエコーを活用すると共に、研修医等にPOC超音波のレクチャーを行う機会も多くあります。

実際に総合診療科でPOC超音波を行うケースとして、急性期では、右季肋部痛、水腎症の評価、尿管結石とそれに伴う大動脈の評価、FASTを含めた胸腹水の評価、胸腹水穿刺のガイドとしての使用、心機能評価、深部静脈血栓症(DVT)の評価などがあります。そして、普段、定期外来でみるような比較的慢性期の病態では、筋骨格系の評価、残尿測定と併せた前立腺の評価、婦人科疾患、腹部大動脈瘤のスクリーニングなどでエコーを使用しています。

超音波検査というと、専門医や技師が行う「スクリーニングや精密検査」のことだと思われる方もいますが、POC超音波とスクリーニング検査は目的も適用場面も大きく異なります。その違いは「緊急性」と「得たい情報量」の2つの軸を用いて整理すると分かりやすいでしょう。

まず、①緊急性が高くて、得たい情報が多い場合は、広範な情報を多く得られるCTなどが適しています。次に、②緊急性は低いが、得たい情報が多い場合は、検査室でスクリーニング検査を受けたり、専門の診療科を受診したりするのが適しているでしょう。③緊急性が高くて、得たい情報が少ない場合というのは、救急外来や病棟・在宅での急変がそれにあたり、どちらかというと急性期の対応ということになります。

そして、④緊急性が低くて、得たい情報が少ない場合、外来や病棟・在宅の定期回診や定期訪問にあたり、慢性期の対応になります。③と④がPOC超音波に最も適した場面と言えます。このような場合にPOC超音波を活用することで、医師はその場でより最適な意思決定ができ、患者さんは再度、専門医を受診したり、検査に訪れたりといった間接コストが削減できるというメリットがあります。

私がポケットサイズの腹部ワイヤレスエコーに価値を感じたのは、「小型・軽量」で持ち運びやすく、片手で簡単に操作できること。そして、「ワイヤレス」でスキャンしながら自由に本体を移動させられる点です。

プライマリ・ケア領域においては患者中心が重要な要素とされ、患者と医師がエビデンスを共有して一緒に治療方針を決定する「シェアード・ディシジョン・メイキング(以下、SDM)」が重視される傾向にあります。

このような流れを考えると、エコーを使用する際は患者さんに画像を見せながらスキャンをするのがベストと言えますが、大型のエコーは装置本体や画面を移動させるのに手間がかかります。また、ポケットエコーであっても有線であれば、スキャン中はプローブのコードが届く範囲でしか本体を移動させられません。

その点、ポケットサイズのワイヤレスエコーであれば、スキャンをしながらでもストレスなく本体を移動させられ、患者さんの状態や使用環境に左右されることなく簡単に画面を見せることができるので、SDMを実践する上で非常に有効と言えます。また、医師が手に持った端末を患者さんに見せることで、ある種の“温かみ”のようなものが伝わり、信頼関係を醸成する効果も期待できるのではないかと感じています。

POC超音波を用いて診療を行ったケースで、患者さんに問診、診察、エコーという診療のプロセスの中で最も満足したところを聞いたところ、「エコー」と回答した人が最も多かったという海外の調査結果*1があります。

POC超音波には診断精度や患者満足度の向上といったメリットがあるものの、総合診療医や一般内科医の中でさえその概念を正しく理解して導入している人はごく一部で、まだまだ浸透していないのが現状です。日本の医師は研修を含めてエコーに触れる機会が多く、POC超音波についても書籍やセミナーが多数あるので、能力やスキルは十分にお持ちだと思います。今後、ポケットサイズのワイヤレスエコーが一つの後押しとなって、より多くの臨床現場でPOC超音波が活用されていくことに期待していますし、私自身もPOC超音波に始める方々のサポートを続けていきたいと考えています。

  • *1 Mathews BK, Miller PE, Olson APJ. Point-of-Care Ultrasound Improves Shared Diagnostic Understanding Between Patients and Providers.
    South Med J. 2018 Jul;111(7):395-400. doi: 10.14423/SMJ.0000000000000833.