日本

ポータブルエコーのインタビュー

透析領域におけるポータブルエコー使用のメリットについて

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

京都市立病院
腎臓内科副部長
鎌田 正 先生

日本は超高齢社会なので、透析を受けられる方も高齢者が多いです。高齢者は血管が細い・もろいなど、血管確保においては一筋縄ではいかないことも少なくありません。特に女性や糖尿病の方はその傾向が強いです。透析の現場で問題になるのは、シャントは造ったけれど、穿刺が難しいというケースです。そこで求められることは穿刺の「正確性」です。この穿刺の精度を上げるために、ポータブルエコーは必要不可欠だと考えています。

私が勤務する京都市立病院血液浄化センターでは、1日に通院と入院を合わせて20~30人の患者さんの透析を行っています。穿刺の際にポータブルエコーを使うかどうかは患者さんによります。ポータブルエコーを使わない通常の穿刺手技(ブラインド穿刺)を基本としていますが、その一方で「穿刺が非常に難しい症例」もあります。その場合、医師がポータブルエコーを使って針先と血管を確認しながら穿刺(エコーガイド下穿刺)をしています。臨床工学技士がブラインド穿刺を行う場合でも、症例によっては穿刺の途中からポータブルエコーを使って針の位置を調整することで穿刺ミスを減らしています。

私の考える「穿刺が難しい症例」の定義は、ブラインド穿刺で失敗しやすい、あるいは失敗されることを極度に嫌う症例などです。その一方、初診の方でも「簡単な症例」の場合は、ポータブルエコーは基本的には使用しません。

当院での穿刺業務は基本的に臨床工学技士が担当しており、1日に5人ほどの患者さんにポータブルエコーを使っています。その中には、他の施設から入院して来られる患者さんの血管の状態を把握する場合の数も含まれています。ポータブルエコーによる血管の観察は、状態が悪くなってきたシャントを早めに見つけ出す意味でも有用です。

臨床工学技士が理学所見などから「このシャントは問題がありそう」と思ったらポータブルエコーをあて、医師に「血管が細くなっています」などの報告をあげてくれます。これにより医師が実際に確認に行き、PTAなどのシャントの治療にもつながっています。

現在、透析の際に毎回ポータブルエコーを使って穿刺する患者さんは1名おられます。10年ほど通院されている80歳代後半の女性です。最初に申し上げましたが、女性の中には元々血管が細い方が多く、バスキュラーアクセスにおいて苦労することも多いです。

この方は透析導入当初はエコーを使わずに穿刺をしていたのですが、徐々に血管の状態が悪くなり、血管が閉塞しては再手術、あるいは穿刺部位を変えるというような対応をしていました。ここ数年はエコーなしでは穿刺が厳しく、毎回医師がポータブルエコーを使用して穿刺をしています。

ブラインド穿刺で対応可能と考えられている症例でも、最終的に穿刺が成功しても実際には血管にダメージを強く与えてしまっている場合があります。そのような症例ではエコーで観察すると血管の後壁に針が刺さってしまって、血管の荒廃が進んでいることがわかります。血管保護という観点からもエコー下穿刺は有用です。

ポータブルエコーがなかった時代、シャントの穿刺が難しくなった場合は人工血管を留置したり、透析用の長期留置型中心静脈カテーテルを挿入したりといった対応をしていました。血管に穿刺ができないため致し方ないのですが、アクセス閉塞や感染症といった合併症が起こりやすい。つまり、患者さんにとってはリスクを伴う方法で透析を続けざるをえませんでした。

そのような観点から、穿刺にエコーを使用することで自己血管を用いた透析が続けられるメリットは大きいと考えます。

血管確保という観点からポータブルエコーに求められるのは「ポータビリティー」、「画質の良さ」、そして「あらゆる血管穿刺に使える」という3点です。

「ポータビリティー」については、単に持ち運べるというだけではなく「置き場所を選ばない」レベルが理想です。ポータブルエコーを使用している当院の臨床工学技士は、患者さんのベッドサイドにも置くことができるエコーを「非常に使いやすい」と評価しています。私自身、病棟の看護師から「点滴や採血のための血管確保が困難」という連絡を受けたら、ポータブルエコーを持ってすぐに病室のベッドサイドに駆けつけることができているので、やはりポータビリティーは重要ですね。

画質に関しては多重反射やサイドローブ等のアーチファクトが少なく、複雑な画像処理パラメータを調整しなくても最小限の設定調整で常に一定レベル以上の画質が得られることが重要です。

3点目の「あらゆる血管穿刺に使える」というのは、深い大腿静脈から末梢血管まで対応できるということです。これまでエコーガイド下穿刺といえば中心静脈穿刺でした。ポータブルエコーの普及に伴い、今後はあらゆる穿刺困難な血管が対象になってくると考えます。例えば、「何とか穿刺に成功したけれど上肢の血管が細いため十分な量の採血ができない」場合、従来は触診を頼りに大腿動脈を穿刺して採血していたのですが、体の深い部位でも針先が描出可能なポータブルエコーを使うことでベッドサイドで大腿静脈から確実に採血ができるようになったのは大きな利点だと考えます。体深部での動脈穿刺は止血不充分による血腫形成のリスクがあるので、静脈から採血できればより安全なわけです。

最近ではICUでモニターのために橈骨動脈ラインを確保する際にもエコーガイド下穿刺が行われるようになってきました。様々な医療器材がひしめくICUのベッドサイドではポータブルエコーは非常に有用です。

10年以上前、まだポータブルエコーが一般的ではなかった頃はブラインド穿刺が当たり前でした。これまで院内の新人研修会の際、研修医や看護師に触診・視診によるブラインド穿刺手技を指導してきましたが、未だに技術を伝えることは難しいというのが実感です。実際の患者さんの血管は様々であり、医療者が実践によってつかみ取るしかない要素がどうしても多いからです。そういった中で、患者さん側の条件に影響されにくいのはエコーガイド下穿刺の利点ですね。このためエコー下穿刺はシミュレーション学習との相性も良いです。

血管によっては触診が容易でない場合もあります。そのような時、ポータブルエコーを使用することで適切な穿刺部を特定することができます。これにより触診の精度を上げることもできますし、一度血管の特性を把握すれば次からはエコーに頼らなくても穿刺が可能となる場合もあります。

ポータブルエコーを導入すると「ブラインド穿刺が下手になるのでは」と危惧する声を聞くことがありますが、エコーの使い方次第ではブラインド穿刺の精度を上げることが可能です。端的に言うと「答え合わせ」ができるということです。触診の精度を上げることができるだけでなく、「末梢血管のブラインド穿刺で上手く血液が返ってこなかった時に、どちら側に針がずれているのか」、「深く刺しすぎていないか」など、ポータブルエコーをあててみればブラインド穿刺の問題点の確認も可能です。

心がけ次第では、ポータブルエコーで「答え合わせ」をしつつ、ブラインド穿刺の技術も上げることができる。その結果、穿刺の正確性を高めることにつながります。これがポータブルエコーの使用方法として理想の形の一つだと考えます。

末梢静脈穿刺

内頸静脈

大腿静脈

シミュレーション学習