日本

皮膚科医によるポータブルエコーのインタビュー

しこりエコーの実施 ―粉瘤エコーとの比較―

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

この記事では、超音波診断装置(ポータブルエコー)を活用して診断した症例についてご紹介します。今回は、皮膚科医の倉繁祐太先生が診察した、80代女性の症例です。一見、粉瘤(表皮嚢腫)の症状と見受けられましたが、ポータブルエコーを活用したことで、異なる診断に至りました。

住まい:群馬県
性別:女性
年齢:80代
病状の概要:背中の痼(しこり)

80代女性の若山一恵さん(仮名)は、別の症状で通院していました。その際、「背中にある“しこり”は何でしょうか」との訴えがあり、診察を行いました。写真のように、背部中央に2cm大のやや硬い結節がみられ、臨床所見から粉瘤である可能性が高いと考えました。周囲に炎症を示唆する発赤はみられず、自覚症状も特になかったため、もしポータブルエコーを活用していなければ「おそらく粉瘤です。炎症や感染を起こすことがあるので注意してください」などと患者さんの不安を招く説明を行っていた可能性があります。

念のためポータブルエコーで観察したところ、表皮下に境界不明瞭な高エコー領域がみられ、音響陰影を伴っていました。これは嚢腫ではなく、石灰化組織に一致する所見です。臨床像は粉瘤に類似していますが、特徴的なエコー所見から「皮膚石灰沈着症」と診断し、経過観察としました。皮膚石灰沈着症は外傷などを契機に皮下組織に石灰が沈着し結節を形成した病変です。

若山さんはご高齢であり、病変部に自覚症状や炎症所見などもありませんでした。視診のみで粉瘤と説明していたとしても、おそらく積極的に手術を勧めることはなかったでしょう。

しかしながら、粉瘤の場合は「突然腫れることや化膿して痛くなることがあるので、そのような場合はすぐに来院してください」と注意喚起を行う必要がありますが、皮膚石灰沈着症であったので「腫れや痛みが出ることは稀ですから、このまま様子をみましょう。特に心配ないですよ。」と説明しました。つまり、ポータブルエコーで皮膚石灰沈着症と診断したことにより、若山さんに安心感を与える説明ができたのではないかと考えます。

最後に、今回の症例・ポータブルエコーの活用ポイントについてまとめておきます。

症状把握:背部の結節

ポータブルエコーの活用を決断した理由:    視診による臨床所見からは粉瘤を考えたが、より正確に診断するためにポータブルエコーを活用した。

活用結果:病変皮下の高エコー領域として描出され、音響陰影を伴っていた。

活用の効果:エコー所見から、粉瘤ではなく皮膚石灰沈着症と診断。

活用のポイント:患者が高齢であり炎症を伴っていなかったため、粉瘤と判断した場合でも経過観察になったと思われるが、皮膚石灰沈着症と診断したことで「悪化する心配はありません」と説明することができ、患者に安心感を与えることができた。
 

医師 / 皮膚科
倉繁皮ふ科医院 副院長
倉繁 祐太 先生

出身大学:東海大学医学部卒業、東京医科大学大学院医学研究科修了(博士・医学)

主な経歴:東京医科大学(助教)、東海大学医学部付属病院(講師)、TMGあさか医療センターなど

専門(学会等):日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本褥瘡学会認定褥瘡認定医師、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本臨床皮膚外科学会専門医

皮膚科医を志したきっかけ:医学生時代の臨床実習で、皮膚科学に強い興味を持ったことがきっかけです。皮膚疾患の診断は、熟練した“皮膚科医としての目”を必要とする、まさに“匠の技”であり、皮膚科医として18年経った現在でも、修練を重ねる毎日です。一方で皮膚科学は皮膚外科手術や皮膚病理診断などの幅広い分野を網羅した学問であり、視診・触診による臨床診断にはじまり、エコーなどによる画像診断、手術による病変の摘出・治療、病理組織による確定診断までをすべて網羅しています。そのため一人の患者さんに対して、初診から治療を終えるまで一貫して関わることができる点が大きな魅力です。

これまでは大規模な病院の勤務医として、皮膚がんの手術や薬物治療、褥瘡診療などを含む皮膚疾患全般の臨床業務を行ってきました。近年はポータブルエコーが身近な存在になったこともあり、皮膚疾患に対して、クリニックや在宅においても今まで以上に高度な診療ができるようになりました。そこで、より幅広い患者さんの診療に携わりたいと考え、母が院長を務めるクリニックに入職して地域医療に邁進しています。また、月1回在宅診療に従事しており、今後も皮膚科医として自身が活躍できるフィールドを拡げたいと考えています。