日本

ポータブルエコーのインタビュー

アドヒアランス向上につながる野球肘・運動器のポータブルエコーの活用

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

北海道大学病院整形外科
スポーツ医学診療センター 助教
門間 太輔 先生

北海道大学病院整形外科でスポーツ診療に携わっています。現在、当院とプロ野球球団の北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)が業務提携を結んでいるため、アスリートの中でも野球選手を診察する機会が多くあります。私は小学2年生から野球をはじめ現在も野球をしており、その経験を診察にも生かしています。スポーツ診療の専門医となって約10年になりますが、野球をはじめとするスポーツ界において、ポータブルエコーのニーズ、そして存在意義の高まりを感じています。

私が担当する患者さんの多くはアスリートです。下は少年野球を始める小学生から、上は社会人やプロ野球選手に至るまで、10代から30代の方を主に診察しています。診察の際、病変の経過の確認をするために、ほぼ毎回ポータブルエコーを使用しています。

中でも、ポータブルエコーが最もその効果を発揮しているのはスポーツの現場です。その理由は主に3つあります。1点目はポータブル性が優れていること、2点目は可視化できること、3点目は怪我の早期発見につながりやすいことです。

まずは1点目のポータブル性についてです。小型で、軽量のため、競技場やグラウンドなどに持っていくことできます。ファイターズの事例になるのですが、現在4台のポータブルエコーを所持していて、今や練習や試合をはじめ遠征の際も持ち歩く必需品になっています。

なぜ複数台を購入したのかというと、チームは1軍と2軍に編成されていて、時には本拠地の鎌ヶ谷と、合宿先の沖縄などに分かれます。その際、どちらでも使えるようにしておきたいという意図があります。

ファイターズでは、以前ラップトップ型のポータブルエコーを使用していました。機器一式を収納すると、キャリーバッグ1個分の大きさになっていたそうです。これは、西武ライオンズとのアウェイ戦での話なのですが、所沢の球場はトレーナールームに行くまでに長い階段を昇り降りしなくてはならず、重いキャリーバッグの持ち運びに苦労をしていたそうです。

「球場とトレーナールーム両方にエコーが必要なため、暑い真夏だと持ち運びが本当にしんどい。もっと小さいのがあったらいいのに」と、ポータブル性の悪さが現場の声としてあがっていましたが、ラップトップ型からスマートフォンサイズのポータブルエコーに替えたことで、その悩みが解決されたと聞いています。

タピックスタジアム名護

タピックスタジアム名護

札幌ドーム球場

次に、2点目の可視化についでです。ポータブルエコーの使用により、体の内部が見るようになりました。例えば肉離れの症状の場合、繊維の状態までも見えます。その画面を選手と供覧することで、選手自身が自分の体に興味を持ち始めたり、意識を高めたりしているという実感はあります。

練習や試合時、選手に怪我などのアクシデントが起きた場合、ポータブルエコーをその場で当てることで、患部の状態を定性的に確認することができます。これまでは経験を積んだ人の「手」の感覚に頼っていたところがあります。筋肉が張っている、熱っぽい、などの“勘所”により選手の状態を判断しているのが主流でした。

それが、患部を可視化できるようになり、「このまま競技を続けても問題ない」もしくは「すぐに病院に行くべき」と判断できるようになりました。ポータブルエコーが判断材料の一つの指標になっています。

また、選手の肩や肘へのインターベンション治療の際、医師と選手は注射針が正確な位置に入っているか実感を得ながら治療することができます。自分の体に対して高い意識を持つ選手は、インターベンション治療にも興味を持つため、アドヒアランスの向上につながっています。

このように、ポータブルエコーは「診断」と「治療」の両面で活躍しています。ポータブルエコーで診断をし、病巣と思われる位置に確実に注射をして、治療効果を確認することもできます。治療自体が診断を兼ねていることもあり、表裏一体の合わせ技と言えます。

最後に、怪我の早期発見につながることについてです。それが顕著に表れるのは「野球肘検診」の時です。野球肘検診では小中学生を対象に診るのですが、主に確認するのは、離断性骨軟骨炎になっていないかどうかです。

離断性骨軟骨炎とは、軟骨とその下の骨が剥がれてしまう病気です。特徴として、病気のなり始めは全く痛みがないにも関わらず、進行して軟骨ごと剥がれてしまうと、関節の中で悪さをし始め、自覚症状が出てくることが挙げられます。

初期状態では症状がないのが本当に難しいところで、エコーを当てみて初めて気づくことがほとんどです。痛み等の自覚症状が出ている時はかなり症状が進行した段階になっています。

肘検診の目的としては離断性骨軟骨炎が進行する以前に、早期または初期の段階で発見し適切な治療に繋げることです。初期で診断された際は、投球休止または野球をしないほうがいいことを伝えます。そうすると初期の場合は95%の確率で自然治癒します。でも、治る起点が働かないとその過程で悪化してしまうことも起こりえます。

痛みを感じて来院する場合、後期や末期のことが多いです。関節が変形してしまうので、肘の曲げ伸ばしが難しくなります。最悪の場合、野球をやめないといけなくなったり、日常生活でも困難をきたすことがあったりします。

私が野球少年時代、野球が上手だった仲間の中には怪我がきっかけでやめてしまった子もいました。もし当時ポータブルエコーがあったら、そういった子どもたちを生まなかったかもしれないと考えます。

現在、プロ野球チーム12球団のすべてが、エコーを所持しています。スポーツ分野においてポータブルエコーの可能性は無限だと考えているので、プロを筆頭に、セミプロ、アマチュアチームにも普及し、一人でも多くの選手が長く競技を続けられることを願っています。

野球肘検診

野球肘検診

離断性骨軟骨炎の臨床画像

ポータブル性以外にも、スポーツの現場で使用するポータブルエコーとして、モニターの視認性やバッテリー駆動時間やプローブの重さを重視しています。

前述した野球肘検診についてのエピソードがあります。10年ほど前、明るい屋外で野球肘検診をする際は、段ボールなどで何とか日陰を作ってモニターの視認性を高めたり、予備のバッテリーを何本も準備したりしていました。

現在は、簡易的なテントを建てるだけで視認性が確保でき、バッテリー性能も良くなっているので長時間の連続使用が問題なく、スムーズに検診することができています。また、一度にたくさんの子供たちの肘を検査する野球肘検診では、プローブが軽くワイヤレスの方が、検査者の腕が疲れにくいように思います。

その他、アスリートのメディカルチェクとしても使用できることが、ポータブルエコーの強みでもあります。サッカー選手では「オスグッド」という膝に障害が出るケースも多いです。それはポータブルエコーである程度の診断ができています。

これまでスポーツに関してお話をしましたが、整形外科の疾患のバランスにおいて、年配の方の患者さん数の方が多いのが現状です。その中で、インターベンション治療におけるポータブルエコーには高い有用性を感じています。

注射の際、「ここに入っていますよ」と針先を確認しながら打てますし、打った直後に確実に反応する病態もあるため、患者さんからの理解を得られています。

その一方で、ポータブルエコーは実際に使わないとその有用性に気がつかないものです。私自身、使用回数を重ねるごとに新たな発見が増えています。ポータブルエコーの再現性や技量を向上していくことが重要だと考えます。

もちろん、レントゲン(X線)でしかわからないこともあります。ポータブルエコーでは関節や骨の表面は評価が可能ですが、関節のアライメントまで診る場合はレントゲンが必要です。

ポータブルエコーで「あたり」をつけて、レントゲンやCT・MRIで精密検査をするという使い方もできます。運動器のポータブルエコー自体、整形外科の領域で確実に広まっています。今後、スポーツ界においてますます広がっていくと考えます。