富士フイルム株式会社(社長:助野 健児)は、皮膚の最上層である角層にメラニンが滞留するメカニズムを解明しました。また血行促進効果で知られるマロニエエキスに、肌が生まれ変わるターンオーバーの一環である角層剥離※1を促進し、角層に滞留したメラニンの排出を促す効果があることを発見しました。
今回の研究成果
- AIを用いて解析を行った結果、メラニンの割合が基底層に次いで角層に多いことを実証しました。
- 肌内部でメラニンが増加することにより、角層のターンオーバーが停滞することを実証しました。
- メラニンが多く存在する角層では、ターンオーバーを促す細胞接着因子分解酵素「カリクレイン 5(KLK5)」※2が減少することを見出しました。
- マロニエエキスにKLK5を増加させる作用を見出し、角層が剥がれやすくなることを発見しました。
本研究では、角層に滞留したメラニンを排出するという、これまでの美白ケアとは異なる全く新しいアプローチで、透明感のある肌へ導くことができる可能性を見出しました。今後当社は、今回の研究成果を美白化粧品に応用する予定です。
- ※1 古い角層が剥がれること。
- ※2 細胞接着因子を分解する酵素で、酵素の増加により角層が剥がれやすくなることが知られています。
研究背景
肌は表皮と真皮から成ります。このうちシミに深く関わる表皮は、表面から順に角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層で構成されます。メラニンは紫外線が当たると皮膚内に産生され、周囲の表皮細胞に輸送された後、最終的に肌のターンオーバーにより皮膚外に排出されます(図1)。表皮の中でも最も深い基底層に存在し、メラニンを産生する色素細胞(メラノサイト)に関する美白研究は多く存在しますが、メラニンが表皮各層にどのような割合で存在しているのか、どのように皮膚外へ排出されるのか、その詳細は明らかになっていませんでした。
【図1】皮膚におけるメラニンの産生・代謝過程

今回の研究成果の詳細
1. メラニンの割合が基底層に次いで角層に多いことを実証。
従来、肌内部のどこにメラニンが存在しているかは、肌断面の顕微鏡画像を目視で確認する手法しかありませんでした。そこで、メラニンが表皮の各層にどの程度存在するのかを調べるため、AIを活用した画像認識技術※3と画像処理技術を組み合わせることで、皮膚画像から各層を識別し、さらに各層に含まれるメラニンを定量する技術を開発しました。820枚の皮膚画像を対象に解析を行った結果、メラニンの割合は基底層に次いで角層に多いことが明らかになりました(図2)。
- ※3 当社は医療画像診断分野において、AIを活用して開発した画像認識技術により、CT画像から病変の疑いのある箇所を自動で検出する機能など、医師の診断を支援したり、医師の負担を軽減するソリューションを提供しています。今回当社はこの画像認識技術を応用し、画像から皮膚の各層を識別する技術を開発しました。さらに長年培った画像処理技術と組み合わせることで、皮膚内のメラニン量を自動で定量し、数値やグラフで可視化するシステムを構築しました。
【図2】AIを活用した画像認識技術を応用した皮膚のメラニン分布解析

2. メラニンの増加が角層剥離を停滞させる一因であることを実証。
角層は主に扁平な角層細胞から構成されます。角層細胞が重層化し、その構造を形成しています。皮膚はターンオーバーにより、外側の古くなった角層が剥がれることで、その層数を一定に保っていると考えられています。メラニンが多く存在するシミ部位では角層の層数が増えるという報告がありましたが、その原因は分かっていませんでした。そこで当社はメラニンが角層の剥がれやすさに影響を与えるのではないかと考え、検証を行いました。
メラニン量が異なる3次元皮膚モデルを用い、角層の剥がれやすさを比較した結果、メラニンが多い皮膚モデルは角層が剥がれにくくなることを確認しました(図3)。
【図3】メラニン量が異なる皮膚モデルにおける角層の剥がれやすさ比較

3. メラニンが多い角層では細胞接着因子分解酵素カリクレイン 5(KLK5)が減少することを発見。
皮膚はターンオーバーを繰り返すことで新しい肌に生まれ変わります。角層剥離はターンオーバーの最終過程であり、角層細胞同士を繋ぎとめる接着因子とそれを切断する分解酵素が大きく関与しています。角層剥離は分解酵素が接着因子を切断し、接着が弱まった角層細胞が垢となってこすれ等の外部刺激を受け、皮膚から剥がれ落ちることで生じます(図4)。
【図4】ターンオーバーと角層剥離のしくみ

メラニンの増加により角層が剥がれにくくなることから、メラニンが角層剥離機能へ与える影響を調べました。その結果、角層のメラニンが多い部位では角層剥離機能を担うタンパクの一つである細胞接着因子分解酵素KLK5が大きく減少していることを明らかにしました(図5)。
【図5】メラニン量が異なる角層におけるKLK5の発現量比較

以上の結果から、メラニン量が多い皮膚では細胞接着因子分解酵素KLK5の発現が減少することにより、角層剥離機能が低下し、角層が剥がれにくくなることが分かりました。
4. マロニエエキスにKLK5を増加させ、角層剥離を促進する新たな効果を発見。
KLK5の発現が減少することにより、角層が剥がれにくくなることから、KLK5の発現を増加させる成分の探索を行いました。その結果、肌の引き締めや血行促進効果で知られるセイヨウトチノキ由来の成分「マロニエエキス」にKLK5の発現促進という新たな効果を発見しました。一方でメラニンを含まない表皮細胞では「マロニエエキス」を添加してもKLK5は変動しないことを確認しています(図6)。このことから、マロニエエキスは特にメラニンを含む細胞に働きかけ、角層剥離を促進する効果を有することが期待されます。
【図6】マロニエエキスのKLK5発現促進作用

またマロニエエキスが角層の状態に与える影響を調べるために、3次元皮膚モデルにマロニエエキスを添加した結果、角層が剥がれやすくなることが分かりました(図7)。以上より、マロニエエキスによりメラニンを含む角層が剥がれやすくなることで、角層中のメラニンの排出を促す効果が期待されます。
【図7】マロニエエキスの角層剥離促進作用

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