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富士フイルム株式会社(社長:助野 健児)は、がんの放射線治療計画における医師のワークフローを支援する、放射線治療計画支援ソフトウェア「SYNAPSE Radiotherapy(シナプス レディオセラピー)」*2をAI技術を活用して開発し、薬機法*3における医療機器の承認を取得しました。当社は本ソフトウェアを、富士フイルム医療ソリューションズ株式会社(社長:飛田 政仁)を通じて本日発売します。
放射線治療は、手術、薬物療法(抗がん剤治療)と並ぶがんの3大治療法の1つで、細胞に高エネルギーの放射線を体外から複数回照射したり、小型の放射線源をがん細胞が存在する組織近くの体内に埋め込み体内から放射線を照射して治療する手法です。手術や抗がん剤治療に比べ、体への負担が少なく済むことが多く、手術が体力的に難しい場合などにも対応でき、また、がんの発生した臓器を残し、臓器の機能を温存できる治療として注目されており、国内の治療件数は年々増加しています。一方で、放射線治療の専門医は全国的に少なく、放射線治療医の業務効率化を支援するソリューションへの期待が高まっています。
放射線治療では、がん細胞の存在する腫瘍部周辺の正常な臓器に影響を及ぼさないように、あらかじめ計画した量の放射線を、決められた位置に正確に照射する必要があります。医師は、治療計画装置*4上で、治療計画用に撮影したCT画像(計画CT)から、腫瘍部およびその周辺の正常な臓器の輪郭をマークし、腫瘍部の形状や正常な臓器との位置関係によって、放射線の入射方向、照射範囲、投与線量、照射回数などの治療計画を決定します。多数のCT画像一枚一枚から腫瘍部および正常な臓器の輪郭をマークする作業は緻密さと、労力を要します。また、複数回の照射の中で腫瘍部が縮小するなど形が変化した場合などは、途中で治療計画を立て直すこともあり、同様の作業が複数回発生することもあります。近年、治療装置の高度化に伴い、より高精度かつ複雑な治療計画が求められるようになってきていることから、医師の負担はますます大きくなっています。
今回発売する放射線治療計画支援ソフトウェア「SYNAPSE Radiotherapy」は、富士フイルムの3次元画像解析システム「SYNAPSE VINCENT(シナプス ヴィンセント)」*5で培ったノウハウを基にAI技術を活用して開発した「臓器輪郭作成支援機能」*6と、医用画像情報システム(PACS)で培った技術を生かした「放射線治療ビューア機能」により、医師の放射線治療計画のワークフローを支援します。
<「SYNAPSE Radiotherapy」の特長>
- (1)臓器輪郭作成支援機能
- AI技術を活用して開発した「臓器輪郭作成支援機能」により、医師が特定したリスク臓器*7の輪郭を自動で作成することで、医師の作業時間を短縮します。
また、複数回照射を行う治療の中で、再度治療計画を立て直す際には、治療開始当初に撮影した計画CTの臓器の輪郭情報を、新たに撮影した計画CTに対して変形させてマッピングする「輪郭プロパゲーション機能」により、一から輪郭を作り直すことなく効率的に輪郭を作成できます。 - (2)放射線治療ビューア機能
- CT画像上で、照射した線量の分布を3Dで表示する機能や、複数の治療計画の線量を比較表示できる機能(線量表示機能)、複数回にわたる治療の照射線量を積算して表示する機能(線量積算表示機能)により、腫瘍部および正常な臓器への投与線量の管理をサポートします。これらの情報は各科で参照可能なため、院内で共有することができ、チーム医療を推進します。
さらに、「SYNAPSE Radiotherapy」は、放射線治療部門情報システム(治療RIS)と連携することができます。今後は富士フイルム医療ソリューションズが提供する治療RIS「ShadeQuest(シェードクエスト)/TheraRIS(セラリス)」との連携性を高め、「SYNAPSE Radiotherapy」の情報を治療RIS上でも参照できるようにすることで、放射線治療における業務の効率化にさらに貢献していきます。
富士フイルムは、医療画像診断支援、医療現場のワークフロー支援、そして医療機器の保守サービスに活用できるAI技術の開発を進め、これらの領域で活用できるAI技術を、"REiLI(レイリ)"というブランドで展開しています。今回発売する「SYNAPSE Radiotherapy」も本ブランドを使用します。当社は、これまで提供してきた放射線診断科向けソリューションに放射線治療科向けソリューションを加え、放射線科全体のワークフローを支援していきます。
- *1 AI技術のひとつであるディープラーニングを設計に用いた。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
- *2 SYNAPSE Radiotherapy
販売名:放射線治療計画支援ソフトウェア FRT 931型
承認番号:30200BZX00392000 - *3 薬機法:医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律。
- *4 計画CT画像を基に放射線の最適な照射方法を決定し、線量計算を行う装置。
- *5 ボリュームアナライザー SYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号:22000BZX00238000 - *6 「臓器輪郭作成支援機能」の一部にディープラーニングを使用。
- *7 放射線を照射する際に、標的(がん)ではなく、守る必要がある臓器を意味する。
記
1. システム名
放射線治療計画支援ソフトウェア「SYNAPSE Radiotherapy」
販売名:放射線治療計画支援ソフトウェア FRT 931型
承認番号:30200BZX00392000
2. 発売時期
2021年2月3日
3. 特長
(1)放射線治療計画における臓器輪郭作成支援機能
- ①臓器輪郭作成支援機能
- AI技術を活用して開発した臓器認識技術を応用し、治療計画用に撮影したCT画像から、医師が特定したリスク臓器の輪郭を自動で作成する機能です。輪郭自動作成のアルゴリズムとして、機械学習ベースのセグメンテーションを応用することで、画像を構成するすべてのピクセルに対して周囲の情報を考慮し、ピクセルレベルでの臓器領域の判定を実現。輪郭作成業務の負荷軽減に貢献します。自動輪郭作成の対象部位は、放射線治療の主なターゲット部位である頭頚部、胸腹部、骨盤部(男性)です。
![[画像]SYNAPSE Radiotherapy上で自動作成した輪郭の結果の表示(左:頭頚部、右:胸腹部)](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/fe36872bed54a76eb6d3ab6e818cd52f/news_210203_01.jpg)
- ②輪郭プロパゲーション機能
- 複数回の放射線照射の中で腫瘍部が縮小するなど形が変化した場合などは、途中で治療計画を立て直すことがあります。輪郭プロパゲーション機能は、過去に撮影した計画CT画像と、新たに撮影した計画CT画像の位置合わせ*8を行った後に、臓器の輪郭を変形させ、現在の計画CT画像上へマッピングし、効率的な輪郭作成を支援します。
![[画像]輪郭プロパゲーション機能](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/41cdd75faa65b1ed2caa4357648ef9b7/news_210203_02.jpg)
- ③SUV*9閾値による輪郭作成機能
- PET(陽電子放射断層撮影)検査で得られる、腫瘍が疑われる領域の判断に用いられる指標であるSUV値をもとに、CT画像上で腫瘍部の輪郭の作成が簡便にできる機能です。CT画像だけでは腫瘍の輪郭が判別しにくく、輪郭を上手く作成することが難しい場合に、CT画像にPET画像を重ね合わせて表示します。医師は、PET画像上のSUV値が高い領域(腫瘍が疑われる領域)を参照しながら腫瘍部の輪郭を作成することができるため、効率的な輪郭作成が可能です。
![[画像]SUV閾値による輪郭作成機能](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/456b7753713f9bc0ae9f485bc19eeb71/news_210203_03.jpg)
(2)院内全体で放射線治療情報(DICOM-RT*10)を共有するための放射線治療ビューア機能
- ①線量表示機能
- 線量分布の3D表示や、複数の治療計画の比較表示ができます。また、輪郭を描いた腫瘍部およびリスク臓器の各体積内における照射線量を計算し、ヒートマップとグラフ(DVH*11表示)で可視化します。
![[画像]線量表示機能](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/5ada2b5db38163c1dd6d52bd9fd8caeb/news_210203_04.jpg)
![[画像]線量表示機能](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/589dcb77319249ee5ddb3182335dae0a/news_210203_05.jpg)
- ②非剛体レジストレーション*12機能による線量積算機能
- 前回検査と今回検査の治療計画CT画像の位置合わせを行い(非剛体レジストレーション)、複数回にわたる治療の照射線量を積算して表示します。
![[画像]非剛体レジストレーション機能による線量積算機能](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/7be45a88245036407de9ff5467ade142/news_210203_06.jpg)
4. システム構成
「SYNAPSE Radiotherapy」は、1箇所でのみ利用できるスタンドアロン型のワークステーション、または、院内の複数の部門で利用できるサーバー・クライアント型のサーバーを使用します。施設毎の運用に合わせて、最小構成のスタンドアロン型と、場所を選ばずに利用できるサーバー・クライアント型を選択いただけます。
![[画像]システム構成](https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2021-02/bdcaceb93e12bf17839c6bfcc0132b13/news_210203_07.jpg)
- *8 異なるCT画像のCT値に基づいて位置合わせを行う。
- *9 PET検査において、ブドウ糖の類似物質であるフルオロデオキシグルコース(FDG)を注射し、撮影した際に、病変のFDGの集積の度合を表す指標を指す。FDGの集積度合は、病変の放射線濃度が体内平均の何倍かを示す。
- *10 医用画像の画像規格および、それを通信するための国際標準規格「DICOM」(「Digital Imaging and Communications in Medicine」の頭文字)における、放射線治療分野の情報について規定されているものの総称。
- *11 線量体積ヒストグラム(Dose-volume histogram)を指す。放射線治療計画における放射線量を組織体積に関連付けるヒストグラムを指す。
- *12 変形を伴う物体同士の位置合わせを指す。
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