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日本
FUJIFILM Finechemical News
研究者へのインタビュー

水素化反応を効率化する物質を自動化フロー反応装置で一気に探索

今回のインタビューは、九州大学先導物質化学研究所の浅野周作(あさの しゅうさく)助教にお願いしました。

浅野助教の所属する先端素子材料部門ミクロプロセス制御分野では、環境・資源制約問題の解決と低炭素・省炭素産業システム構築の構築を目指して、炭素資源の有用化学物質への選択的変換に関する反応工学的研究を行っています。プレスリリースの研究内容は有機化合物の水素化反応についてで、窒素原子を含む添加剤を加えると過剰反応による副生成物の生成が抑制されることが経験的に知られていましたが、その作用機構は明確ではなく利用は限定的でした。そこで浅野助教らは、フェナントロリンという物質が添加剤として特に有効に機能することと、触媒の不規則な表面がフェナントロリンで不活性化されて過剰反応が起きにくくなることが明らかにしました。この研究成果は、英国の国際学術誌「Reaction Chemistry & Engineering」誌およびプレスリリースに公開されています。

Homogeneous catalyst modifier for alkyne semi-hydrogenation: systematic screening in an automated flow reactor and computational study on mechanisms

Shusaku Asano, Samuel J. Adams, Yuta Tsuji, Kazunari Yoshizawa, Atsushi Tahara, Jun-ichiro Hayashia and Nikolay Cherkasov
DOI: https://doi.org/10.1039/D2RE00147K

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

触媒反応に用いる添加剤を、フロー式反応器で効率的に探索しました。Pd触媒上でアルキンをアルケンに部分水素化する反応を対象としました。アルカンまで水素化されてしまう副反応が存在します。キノリンやピリジンを添加すると副反応を抑制できることが古くから知られているのですが、どのように作用するのか、もっと効果的な添加剤はないのか、といったことはほとんどわかっていない状態でした。

今回の研究では、21種類の含窒素化合物を添加剤の候補に用い、自動化したフロー反応器で一気に反応検討を行いました。装置図を示しますが、触媒は内径1.27 mmのステンレス管の壁面にコーティングし、その中に基質溶液、添加剤溶液、水素を流通させました。装置はコンピューター制御したので、セットアップさえしてしまえば、待っているだけで各条件での反応液を採取できました。触媒の劣化等を不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、基準条件での運転を一定時間ごとに挟み、影響がないことを確認できています。

計352条件を試験し、フェナントロリンが最も有望な添加剤であると結論づけました。その作用機構についてはDFT計算で検証しました。副反応を生じさせやすい触媒の不規則面を、フェナントロリンが効果的に被覆することがわかりました。

自動化フロー反応装置と反応系の概要

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

一番は、添加剤に着目したことですね。添加剤を加えなくても高い選択性が出る触媒を開発する、というのが一般的な研究アプローチとしてはあるのではないかと思います。もちろん、それはそれで素晴らしいのですが、ありふれた触媒の活性や選択制を、添加剤で制御できたら、いろいろと面白いし役に立つのではないかと思っています。例えば、触媒そのものの調製や最適化は、どうしても手作業が必要ですが、添加剤の導入や最適化は、今回のようにかなり自動化することができます。AIの導入、機械化、プロセス開発期間短縮などを目指していく際、添加剤を利用した触媒反応最適化は、活躍できる機会が増えてくるのではないかと考えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

実験自体は、自動化しているのですぐに完了しました。しかしその後の解析・議論がなかなか進まず、苦労しました。 データはたくさんあるのに(もしくはあるからこそ)、傾向がわからず、議論すべきポイントが見えなくなっていました。PythonライブラリーのRDKitを用いた分子記述子の導出や、各種統計解析など手当たり次第試しましたが、何かを見出すには至らず、半年くらい停滞しました。

そのころ、所属している九州大学先導物質化学研究所で、若手教員の共同研究支援が始まりました。その枠組みで、理論化学がご専門の辻雄太先生のお力をお借りすることができ、触媒表面への吸着熱の観点から添加剤の効果を整理することができました。その後は、一気に論文化まで進みました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私の専門は、装置設計・制御、内部状態解析などを主に扱う化学工学でして、実は化学にはあまり詳しくありません。 恥ずかしながら、日本化学会にもまだ出たことがありません。ただ、分からないながらも、積極的に化学の研究に関わっていきたいと考えています。

今回の研究は、触媒を専門としている英国の先生との交流がきっかけで進展しました。これからも、化学を専門とされている先生方といろいろな形で連携させていただきながら、装置や制御を基盤とする新たな発見と価値創造を目指していきたく思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

フローリアクターの設計、自動化制御、スケールアップ検討、流体シミュレーション等で、もし何かご一緒にできそうなことがありましたら、いつでもご連絡ください。

浅野先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回もお楽しみに!