日本
FUJIFILM Finechemical News
化学者へのインタビュー

今回は、千葉大学薬学研究科(根本研究室)・中島誠也 助教にお願いしました。

近年の有機合成化学分野において光化学反応の台頭は著しく、様々な角度から研究が成されています。大原則として、用いる試薬が特定波長の光を吸う必要があります。そのために凝った分子デザインにする必要が生じているわけで、なかなか手間がかかるものです。しかし中にはこの事実に当てはまらない系があります。今回の研究成果はその回答を与えうる、光化学分野にも一石を投じる成果と言えるでしょう。Angew. Chem. Int. Ed.誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

“A Direct S0→Tn Transition in the Photoreaction of Heavy‐Atom‐Containing Molecules”
Nakajima, M.; Nagasawa, S.; Matsumoto, K.; Kuribara, T.; Muranaka, A.; Uchiyama, M.; Nemoto, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 132, 6194-6919. doi:10.1002/ange.201915181

研究室を主宰されている根本哲宏 教授から、中島さんについて以下の人物評を頂いています。また中島さんは第7回ケムステVシンポのモデレータもご担当されており、薬学領域のホープとしてますますのご活躍が期待されます。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

中島助教は2017年4月より私の研究室の助教としてアカデミックキャリアをスタートした気鋭の若手研究者です。今回の成果において私がしたことは、赴任時に大きな方向性を与えたくらいで、あとは彼と仲間達が自由に戦い、試行錯誤して、その中で突如現れたはぐれメタルを、何度か攻撃する前に逃げられたものの、最後は逃さずに倒しきった結果です。本研究のようなサイエンスの深層部に迫り、ゲームのルールを変え得るような発見に巡り会えたことは、貴重な経験値になったと思います。中島助教によるS0→Tn遷移に関する今後の研究展開を期待します。

光反応を引き起こすには、光化学第一法則 (Grotthuss–Draper law)として知られる絶対条件として「分子が光を吸収すること」が挙げられます。しかしながら近年、ヨウ素を含有する分子が、吸収できないように思われる領域の光によって光反応を起こしているという“謎”が存在していました。我々の研究グループは、その“謎”の答えが、一般的には進行しないとされているS0→Tn遷移であると仮説を立てました。そこで、ヨウ素などの重原子を含有する分子の光に関する様々な物性を調査したところ、 S0→Tn遷移が進行していることを観測し、S0→Tn遷移により光反応が進行していることを証明しました。

思い入れがあるのは、ふとした疑問から研究テーマに発展したことです。
最初に疑問に思っていたのは「超原子価ヨウ素は不安定で爆発性もあるから遮光で保存せよ」という定説で、「ベンゼン由来の吸収が最も長波長なら、せいぜい300nmくらいまでしか吸収しないから室内で可視光だったら関係なくない?」と思ったことでした。と思って実際にIBXをDMSO-d6に溶かして、TLC用のUVで365nmの光を何時間か照射してNMR測定をするとたしかに分解してヨード安息香酸になっていました。やはり吸収波長を測定しても当然300nmくらいまでしか吸収帯は観測されません。この現象に「なぜ??」と思ったのが始まりでした。それと同時に「普通はIBXで酸化されないDMSOが酸化された? = 酸化力がupした?」と考えました。その後、S0→Tn遷移の仮設を立て、何とかその証明に成功しました。

一番難しかったのはS0→Tn遷移の証明でした。その証明にはリン光測定と、リン光発光の励起波長測定が必須でしたが、我々の研究室には蛍光光度計がなかったため測定ができませんでした。そこで、私のポスドク時代の恩師である東京大学•理化学研究所の内山真伸先生、村中厚哉先生に協力いただき、リン光測定•リン光の励起波長測定を行い、S0→Tn遷移を証明することができました。
また、リン光測定でS0→Tn遷移は証明できましたが、S0→Tn吸収帯の測定も行う必要があるだろうということで、S0→Tn吸収帯を紫外可視分光光度計で測定することに挑戦しました。1cmの通常のセルでは溶解度や濃度の関係でどうしてもきれいに測定することができませんでした。そこで、10cmの通常より10倍長い光路長をもつセルと、その測定用のユニットを購入し、測定した結果、S0→Tn吸収帯を観測することに成功しました。

私にとって化学はFFやドラクエのような「RPGゲーム」です。
疑問や謎、設定した課題を解決するためにあの手この手で取り組みクリアを目指すことに楽しみを感じています。仲間(学生、共同研究者)と一緒に、倒せない敵に装備品を新たに購入して挑んだり(特に計算や光、電気、フロー、マイクロウェーブなどの飛び道具が好き)、ときにはタイムアタックで最速クリアを目指したり(全合成未達成の天然物など)、ときには縛りをかけて制限の中クリアを目指しています。
このゲームをプレイする、そしてクリアする楽しみを人生をかけて味わいたいと思っています。そして、初期装備でクリアも乙ですが、何歳になっても常に最先端の武器は所持し活用したいと思います。

私のような若輩者がメッセージなどおこがましいですが、読者の学生さんに向けて一言だけ。
研究も楽しんでやる。私はこれに尽きると思います。
無理に努力しなくても、楽しんでやってるゲームや読書なんかは時間を忘れ朝までやったりしちゃうかと思います。義務感や強迫観念ではなく、そんな感覚(朝までやれという意味ではなく)でやったらうまくいくかもしれません。

最後になりましたが本研究を遂行するにあたり、ご協力いただいた東京大学•理化学研究所の内山真伸先生、村中厚哉先生、所属研究室主宰の根本哲宏先生、そして一緒に研究を行ってくれた長澤翔さん、松本光希くん、栗原崇人くんに厚く御礼申し上げます。
また、本研究にスポットを当ててくださったChem-Stationスタッフの皆様にも深く感謝申し上げます。

中島 誠也
千葉大院薬•薬化学研究室(根本研究室)・助教
経歴:
2012年3月 千葉大学薬学部卒業
2014年3月 千葉大学大学院薬学研究院 修士課程修了
2016年3月 千葉大学大学院薬学研究院 博士課程早期修了 博士(薬科学)(西田研究室)
2016年5月 東京大学大学院薬学研究科 ポスドク(学振PD)(内山研究室)
2017年4月〜 現職
主な受賞歴:
2015年 SciFinder Future Leaders in Chemistry 2015
2016年 Reaxys PhD Prize 2016 Finalist
2016年 大津会議アワードフェロー
2016年 井上研究奨励賞
2017年 リンダウノーベル賞受賞者会議
2020年 笹川研究奨励賞