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日本
開業後の診療所運営の勘所

医療法人化のメリット・デメリット

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

クリニック経営が軌道に乗ったら医療法人化の検討を

クリニックの開業から数年ほどたって経営が軌道に乗ってくると、それまでの個人の医療機関(個人事業主)を医療法人化するかどうかを検討する必要が出てきます。

もちろん、個人事業主のままでも問題はありませんが、節税や今後の事業展開のことを考えると、ある程度の規模になったら、医療法人化の検討は必須と言えるでしょう。

医療法人とは、病院や診療所、介護医療院、介護老人保健施設などの医療施設を開設することを目的に設立される法人で、医療法によって規定されています。医療法では、医療法人の形態を社団法人または財団法人と定めていますが、大多数は社団法人です。医療法人の出資者は社員と呼ばれます。

出資者が、出資持分に応じて払戻請求権を保有する場合は「出資持分のある法人」と呼ばれ、払戻請求権を保有しない場合は「出資持分のない法人」と呼ばれます。2007年の医療法改正で医療法人の出資持ち分がなくなりましたので、これから新たに設置される医療法人は出資持分なし医療法人ということになります。

法人税は最高税率が所得税よりも低い

個人事業主から医療法人になることのメリットとしてまず挙げられるのは節税です。

個人事業主の所得は累進課税であるのに対し、法人税は段階税率であり、最高税率が所得税よりも低く設定されています。そのため、法人化した方が税制面で有利になるケースが多いのです。

また、医療法人化すると、クリニック経営者(院長)自身は医療法人から給与を受け取る給与所得者になります。給与は医療法人の経費として計上できるうえ、給与所得控除も受けられます。また給与金額の設定の仕方によってはクリニック経営者の所得税を抑えることも可能です。

事業の拡張性と永続性も大きなメリット

医療法人に移行するもう一つの大きなメリットは、事業の「拡張性」と「永続性」です。

拡張性とは、分院を建てたり、老人保健施設や訪問看護ステーションなどの新しい事業の経営も、一つの医療法人の下でできるようになることです。医療や介護事業を多角的に展開する考えがある場合は、医療法人化は欠かせないことと言えます。

永続性とは、医療事業を永続的に行うことができるということです。法人格は個人と切り離して考えるため、院長が変わったとしても医療機関自体は新しい院長を迎えて存続させることができます。例えば、個人の医療機関は院長が死亡したり引退した場合、クリニックの事業承継の手続きを経ないと経営の継続はできませんが、医療法人の場合は理事長の交代を行うだけで事業の継続が可能です。

この他、クリニック開業時の借金を医療法人の借金にして経営者個人のリスクを減らしたり、クリニック経営における資金調達が個人の場合より容易になったり(医療法人が借り入れる場合、保証人を経営者にできる)、赤字決算の場合、欠損金を10年繰り越せるなど、経営上の様々なメリットがあります。

運営管理が複雑化、社会保険料の負担も

医療法人化にはもちろんデメリットもあります。

まず、運営管理が個人事業主と比べて格段に複雑化します。法人設立の手続き自体が煩雑な上、毎年の事業報告書や資産登記、理事会の議事録など書類作成の手間も増えます。

さらに従業員の人数に関わらず、社会保険と厚生年金への加入義務が生じます。そのため医療法人には、従業員の社会保険料の負担(労使折半で半額)も増えます。

仮に医業に行き詰まった場合、解散がしにくいというのもデメリットと言えるでしょう。医療法人は事業の永続性が求められるため、個人的な理由による解散は基本認められません。解散時には各都道府県の認可が必要です。経営者が引退したい場合などは、次の経営者となる人物をM&Aなどによって探す必要があります。

医療法人のメリット・デメリット

解散時、残余財産は出資者に分配されない

もう一つ大きなデメリットは、先述したように現在は出資持分のない医療法人しか設立できないということです。このため、医療法人設立時にいくら出資していても、法人が解散することになった際の残余財産は出資者に分配されません。後継ぎがいる場合は当面問題になりませんが、後継ぎがいない場合は、検討の余地があります。医療法人化については、自分の代だけでなく、子どもなど次の世代が医業を継ぐかどうかまで見通した上で検討が必要と言えます。

タイミングは概算経費が適用されるかどうかで判断

個人の医療機関が医療法人化するタイミングについては、概算経費が適用できるかどうかが一つの判断基準になると言われています。

概算経費とは、個人の医師が社会保険診療報酬にかかる経費を実際の額ではなく、概算で計算できるという制度のことで、社会保険診療報酬が年間で5000万円以下、自由診療も含めた総収入が7000万円以下であることが利用の条件です。

概算経費は、課税所得を減らすことができる優遇制度のため、この概算経費が使えないレベルまで社会保険診療報酬が増え、医業が軌道に乗った時期が、医療法人化を考える一つのタイミングということになります。


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