このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
グーグルマップを含む口コミサイトの評価については、多くの動物病院が強い関心を寄せており、実際に悪評を書かれたという相談も多く寄せられています。
私も数多くの事例に関わってきましたが、口コミサイトの悪評対策については単に法的側面だけでなく経営者としてどのように考えるかという視点が必要となります。以下では、その観点から対応策の総論をお伝えいたします。
結論から申し上げると、「集患に困っておらず将来的には事業承継や売却もせずに閉院予定で、且つ家族経営で外部人材の採用予定もなく、自分もスタッフも口コミに感情を揺さぶられない」という例外的場合以外は放置してはいけません。
悪い口コミを放置すると、下記のようなことが起こる場合もあります。
- 動物病院が飼い主の期待に応えられていない部分に気づかないままとなる
- 良い顧客ほど動物病院から足が遠のく
- 反対に望ましくない顧客が多くなる
- 集客への悪影響が生じる
- 人材採用が難しくなる
- 院長自身及びスタッフのモチベーションの低下を招く
- 場合によってはスタッフから院長に対して対応を求められる(悪評の削除の方向性のみならず、悪評の原因となった対応の不十分さを払拭する方向でも)
具体的に説明すると、
- 悪い口コミはそれが正当なものでも不当なものでも、『顧客が満たされると考えていた需要に対し動物病院が応えられなかった』内容になります。仮に口コミが不当なものであってもその指摘を事実として認識し、改善するのか、改善する必要がないと判断すること自体が動物病院にとっては有益なことです。
- 口コミが悪い(一般的には★3.8以上は同じ、★2.9以下は集客に悪影響があるといわれております。)と、しっかりと事前に調べて動物病院を選択する良い飼い主の方の足が遠のき、
- 反対にそうでない方の割合が高くなり、
- 集客への悪影響が生じます。
- 近時は就職先を選択する際に求職者が勤務予定先の口コミを調べるだけでなく、特に新卒者の場合には親も口コミを気にして就職先選択に影響を及ぼすことがありますので、最終的に悪い口コミは人材採用にも悪影響を与えます。
- そして、悪い口コミを見た院長だけでなくスタッフのモチベーションを低下させます。特に誰が書いたかわからない悪い口コミについては、顧客に対し疑心暗鬼の感情が生まれます。
- その結果、スタッフが院長に対して対応を求めて突き上げる状況も生じます。
よって、口コミを放置することはできません。
本稿の主眼ではないので紙面を割けませんが、どうしても悪い口コミは避けられないとしても、動物病院側の対応によって「一般の飼い主の方をクレーマー化させない」ことは十分可能です。
例えば、「待ち時間が長い」や「予約をしたのに何時間も待たされた」というクレームに対しては、あらかじめどの程度お待たせするかの情報提供や必要に応じて謝罪を行うことで多くのクレームを避けることができます。また、急患が来て緊急対応が必要となってしまった場合には、周りの飼い主さまへの丁寧な事情の説明と協力への感謝を伝えるだけでクレームは減ります。またペットの死期が近い場面での飼い主への寄り添い方によっても病院へのクレームを減らすことは可能です。
実際に悪い口コミを書かれてしまった場合にとる対応は大きく分けて3つです。これらは択一的ではなく並列的です。
ア 発信者情報開示請求手続きを通じて投稿者を明らかにし、最終的に損害賠償請求訴訟を提起する(法的整理パターン)
イ 返信機能を利用して第三者からの見た目を整える(マスを相手にするパターン)
ウ 投稿者に対して直接連絡をする(直接対話パターン)
アからウには、それぞれに一長一短があります。
裁判所を通じ、悪い口コミを書き込んだ人物を特定する手続きです。例えばグーグルマップですと、まずグーグルに対して書き込みを行った際のIPアドレスの開示を求め(携帯番号を開示させる場合もあります)、その後開示されたIPアドレスを管理するプロバイダに回線の契約者の開示を求めます。
プロバイダに開示請求をした段階で契約者に意見照会される仕組みになっているため、匿名で悪い口コミを書き込んだ人物からすれば、意見照会された段階で既に裁判所が対グーグルの手続きにおいて自分の書き込み内容に問題があると判断したことを知ることになるので、この時点で口コミが削除されたり、投稿者との話し合いができることもあります。
ただし、任意に削除したり、話し合いができない相手に対しては、プロバイダからの開示を待って損害賠償請求訴訟や刑事告訴を前提に交渉し、実際に法的手続きをとることになります。
損害賠償請求訴訟や刑事告訴のメリットは法的に強制力がある点です。とくに刑事事件は強い強制力が働きます。訴訟まで行うと書き込みを削除し二度と病院の口コミを書かないと約束する方や、反省文を提出してくる方も少なくありません。
一方、デメリットとしては権利侵害の要件が認められなければ裁判所が発信者情報開示を認めないこと、そして弁護士費用がかかることが挙げられます。弁護士費用は弁護士毎に異なりますが、一般的な相場としては1投稿あたり40万円前後かかります。さらに、この費用に見合う損害賠償を加害者から得られるかは相手方の資産状況に左右されますので、あらかじめ見通しを定められないという点でも選択が難しいと言えます。どのような場合に開示が認められるか、や実例は次号以降で詳しくご説明いたします。
悪い口コミを投稿された場合のダメージのうち、第三者から見たダメージ(上記の2、3、4)をコントロールするための対応方法です。
具体的には、口コミに返信をし、その返信内容を「丁寧に謝罪しつつ事実関係を説明している内容」とします。その上で、第三者がその返信を読むと、
「悪い口コミを書き込んだ人がクレーマーに見える」、「動物病院側の説明の方が筋が通っており、投稿者の説明は事実関係が全く異なっているように見える」、「動物病院側が真摯に向かい合って対応している」と感じるような返信にすることで、結果的に動物病院側の信頼を守るという目的を達成できます。
詳細な内容は次号以降で解説しますが、文章作成が得意でなくても、
- ご意見への感謝を行う
- 謝罪すべき指摘については謝罪をする
- 事実関係の説明(ここが重要なポイントです)をする
- ご指摘を踏まえ、今後しっかり対応させていただきますと宣言をする
という一定の返信の型を守って返信すれば一定レベルの内容を作成することは可能です。
返信機能を利用するメリットは安価に対応できる点です。自ら作成すれば自らの時給分の負担のみですし、当事務所にご依頼いただく場合でも一通1万円以下で対応しております。さらに、この方法であれば、攻撃的にならずに紛争を激化させるリスクを抑え、且つ動物病院に生じる経済的デメリットを減少させることができます。
一方、デメリットは法的強制力がなく、口コミを削除させることはできないことと、飼い主本人を納得させることは難しい場合が多い点が挙げられます。
この返信機能を利用した対応は、基本的にどの選択肢を選択しても採用するべき(並行して行うべき)選択肢となります。
投稿者が分かっている場合において、誤解を解きつつ書き込みの削除を依頼する方法です。書面を院長名で出すか弁護士名で出すかは事案や飼い主の性格、病院との関係性を考慮して判断します。
書面の作成にあたっては、動物病院への迷惑行為が存在し、その後の診察を断りたい場合には、応召義務違反とならないことを意識しながら文書を作成しますが、多くの場合転院されます。
メリットは返信機能ほどではないものの、費用が安い点です。ご自身で作成すれば自身の時給分の負担のみで済みますし、弁護士名で内容証明郵便を出す場合であっても、10万円~15万円程度です。
一方、デメリットは、法的強制力がなく、口コミを削除させることはできないことと、返信機能と異なり第三者からの見た目は悪いままという点です。よって、返信対応と並行して行うことになります。
上記のアからウの方法をまとめると以下のような表となります。
| 対応 | 強制力・影響 | 費用 |
|---|---|---|
| ア 発信者情報開示手続き | ◎ | × |
| イ 返信機能を利用 | △ | ◎ |
| ウ 直接連絡 | × | 〇 |
口コミは動物病院を映す鏡である側面がありながらも、悪意を持った書き込みの悪影響は無視できない程度にあります。本稿が皆さまが悪意を持った口コミに適切に対応するための一助になれば幸いです。
【2025年10月/文責:弁護士法人 フラクタル法律事務所 弁護士 田村勇人(東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問弁護士)】
