このウェブサイトはクッキーを使用しています。このサイトを使用することにより、プライバシーポリシーに同意したことになります。

日本
動物医療コラム

動物病院の診療単価アップにつながる施策とは?

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

ペットの高齢化、物価の高騰による飼い主様の意識の変化……動物病院を取り巻く環境は、常に変化しています。競争激化、人材不足、経営コストの増加など動物病院経営には、様々な課題がつきものです。こうした課題を乗り越え、持続可能な病院経営を実現するために、診療単価のアップも重要な鍵の1つとなります。単価アップによって得られた収益は、優秀な獣医師や動物看護師の確保、最新医療機器の導入、労働環境の整備など、病院全体の質の向上に役立てることができます。

診療単価向上施策の循環イメージ
単価アップの前に把握するべきこと

動物病院の売上向上を考える時、まず押さえていただきたいのが「売上方程式」です。

売上 = 来院数 × 来院回数 × 単価

これらの要素を把握し、そこから数値目標の設定と具体的な行動計画につなげることで、売上アップが期待できます。 
多くの動物病院では、売上額や新患数、再診数といった基本的な数値を前年と比較し、「上がった」「下がった」といった把握をされているかと思います。しかし、なぜ上がったのか?なぜ下がったのか?改善すべきポイントは何なのか? という、より深い分析まで行っている病院は、まだまだ少ないのが現状です。 

例えば、売上が下がっている場合、 

  • 新規の患者獲得がうまくいっていないのか? 
  • 既存の患者が離れてしまっているのか? 
  • 1人あたりの来院回数が減っているのか? 
  • 診療単価が下がっているのか? 

など、様々な要因が考えられます。それぞれの数値を分析することで、具体的な問題点が見えてきます。 

今回のテーマである「診療単価アップ」はもちろん重要なことですが、まずは自院の経営数値の「健康診断」を行ってみてください。

売上方程式 売上 = 来院数 × 来院回数 × 単価
把握すべき数値 来院数 来院回数 診療単価
・初診頭数
・再診頭数
・死亡頭数
・カルテ数
・動物種×年齢別年間来院回数
・初診からのリピート率
・診療項目別売上
・動物種×年齢別売上
・売上進捗表

 

診療単価をアップさせるためには

単価アップには、診療メニュー当たりの価格を上げる、または1回の来院時に実施してもらう内容を増やすという2つの方法があります。

1. 診療メニュー当たりの価格を上げる(値上げ)

値上げを行う場合は、飼い主様に納得していただくよう、丁寧な説明が必要です。     
物価上昇や技術の習得、医療機器の導入などを根拠に、価格改定を行うことができます。 動物病院は自由診療のため、支払いにおける納得感が必要です。 
飼い主様の満足度は[価値/価格]と考えることができ、提供する価値が価格を上回れば、納得感が生まれます。

2. 1回の来院時に実施する診療メニューを増やす

1回の来院時の診療メニューを増やす方法はパック化、項目の新設、アップセル、クロスセルなど、様々な手法があります。

パック化
予防薬や健康診断をパック化して販売することで、単価アップを図ることができます。 
項目の新設
院内の業務を見渡すと、本来は有料で提供すべき医療サービスであるにもかかわらず、料金を請求していないということがよく見られます。中にはかなりの時間をかけているにもかかわらず・・・というものもあるでしょう。愛玩動物看護師も国家資格となり、提供できる医療レベルも向上しているはずです。「今までもらっていなかったから」ではなく、「貰う努力をしていない」という観点でとらえ、自信を持って有料化することをお勧めします。 
アップセル
現在利用しているプランよりも上位のプランへのアップグレードを提案する方法です。 例えば、健康診断でスタンダードなコースに加えて、より項目が充実したコースを用意することで単価アップにつなげることができます。 
クロスセル
利用しているサービスと関連した別サービスを追加で受けていただく方法です。 例えば、ペットホテルを利用している飼い主様に、トリミングサービスやお預かり中にできる健康診断などを提案することで、単価アップに繋げることができます。 
春の健康診断で単価アップを狙うには

3~5月頃は春の予防シーズンで、多くの飼い主様が来院されるかと思います。また、多くの動物病院ではフィラリア検査と同時に健康診断を実施されているのではないでしょうか? ただ漫然と健康診断を勧めるだけでは、単価アップには繋がりません。 ここでは、春の健康診断で単価アップを実現するための具体的な方法を紹介します。

1. 複数のコースを設定する

飼い主様のニーズは多種多様であり、画一的な健康診断コースでは、全てのニーズに対応することはできません。 そこで、複数のコースを設定し、飼い主様に選択肢を提示することで、単価アップを図ることができます。コースとは別に、オプション項目を様々に設定している病院も多くあるかと思いますが、コースに組み込むことで飼い主様が意思決定をしやすくなります。 

コースのネーミングも重要です。例えば、心臓に関する項目が多いのであれば、「心臓コース」、犬のがんに対する血液検査項目があるのであれば「がん検診コース」など飼い主様がイメージしやすいネーミングが良いでしょう。 

3. 飼い主様への丁寧な説明を心がける

健康診断での単価アップを実現するためには、飼い主様への丁寧な説明が不可欠です。 なぜ複数のコースやオプションメニューがあるのか、それぞれのコースやオプションメニューで何がわかるのか、などを丁寧に説明することで、飼い主様の理解と納得を得ることができます。説明の際には誰でも同じ説明ができるようなツールを院内で準備しておくと良いでしょう。 

これらの方法を組み合わせることで、春の健康診断シーズンにおける単価アップを実現することができます。 飼い主様のニーズをしっかりと把握し、最適な提案をすることで、単価アップだけでなく、飼い主様の満足度向上にも繋げましょう。 

最後に

動物病院において単価アップは重要な施策の1つです。 
しかし、それは決して、飼い主様に不要な診療を無理強いすることではありません。  
しっかりと説明を行い、飼い主様にとって納得のいく選択肢を提示することで、自然と単価アップに繋がるはずです。獣医師だけではなく、病院全体で質の高い獣医療を提供することで、単価アップを目指しましょう。

【2025年5月/文責:株式会社サスティナ 主任コンサルタント 福永健吾】