このウェブサイトはクッキーを使用しています。このサイトを使用することにより、プライバシーポリシーに同意したことになります。

日本
動物医療コラム

動物病院を新規開業する際のメリットと
失敗するリスクについて

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

近年、動物病院を取り巻く環境は大きく変化しています。ペットの飼育頭数が伸び悩む一方、動物病院は毎年増え続け、市場は供給過多に傾いています。競争が激しい中で開業に踏み切るには、自由とやりがいだけでなく冷静なリスク管理も欠かせません。

この記事では、新規開業がもたらすメリットとリスクについて整理し、それぞれの対策を解説します。

1. 近年の獣医療業界動向

近年の主な業界動向として、ペット飼育頭数減少・飼い主さまのニーズの高度化・人材確保難などが挙げられます。新規開業を目指す場合、まずはこれら市場環境の現状を正確に把握することが必要です。ここでは、主な3つの動向を紹介します。

1-1. ペット数の伸び悩みと病院の供給過多

一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、この10年間で犬の飼育頭数は約15%減*1で減少傾向にあります。一方で、猫は約10%増加*1しているものの増加率はほぼ横ばいです。それにもかかわらず、動物病院は毎年およそ150軒ずつ増えており*2、需要(ペット数)に対して供給(病院数)が上回る構図が続いています。

また、開業獣医師の平均年齢は55歳を超え、50代以上が全体の約4割を占めます。後継者不在による廃院リスクが高まる一方、大規模病院によるM&Aやグループ化が進行し、経営格差が拡大しています。これから開業を目指すなら、将来の承継計画やM&A動向も視野に入れる必要もあるかもしれません。

  • *1 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」
  • *2 農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」
1-2. 飼い主さまニーズの高度化

ペットが“家族の一員”として扱われる現在、飼い主さまは高度医療と上質なサービスの両立を期待しています。具体的には、腫瘍科や整形外科など専門診療の提供、CT・MRIなど最新機器による正確な診断といった「高度医療の提供」と、丁寧な説明や予約システム、夜間救急対応、年中無休体制、透明で適正な料金設定といった「利便性の高いサービス」の両方が求められています。医療技術はもちろん、接客、予約システム、院内環境まで総合的な質が評価対象となるためです。

選ばれる動物病院になるためには、医療面・サービス面の両方で特色を打ち出す必要があります。

1-3 .慢性的な人材確保の難しさ

全国的に獣医師・動物看護師の不足が続き、優秀なスタッフを採用・定着させることが難しくなっています。求職者は「働きやすさ」と「成長機会」の両立を重視するようになっており、もし職場環境が劣悪であったり成長の機会がないと感じたりすれば、優秀な人材を確保・定着させることは難しいでしょう。

働きやすい職場づくりやキャリア支援を重視しないと、人材確保が経営のボトルネックになりかねません。

2. 開業で得られるメリット

市場環境は厳しいとはいえ、動物病院を新規開業する魅力やメリットも数多く存在します。ここでは代表的なメリットを3つ紹介します。

2-1. 診療の自主性と裁量の拡大

開業すれば、診療時間・休日設定から設備投資の優先順位まですべて自分の判断で決められます。勤務医時代には導入できなかった検査機器やサービスを導入し、理想とする獣医療を追求できる点は大きな魅力です。

例えば診療時間や休日の設定、扱う疾患や専門分野の選択、院内の設備投資の優先順位まで、すべて自分で方針を決められます。これは自らの理想とする獣医療を追求できる機会であり、勤務医では得られないやりがいにつながります。

2-2. 専門性の追求と差別化

自院を持てば、自分が情熱を注ぎたい専門分野や提供したいサービスに重点投資できます。

例えば「地域で唯一のエキゾチックアニマル専門外来を設ける」「高度な歯科治療設備を揃える」「リハビリ施設を併設する」など、勤務医では難しかった独自の取り組みも可能です。こうした専門性やサービスの差別化は飼い主の高度化するニーズに応えることにも直結し、結果的に他院との差別化による競争優位を築けます。

自らの裁量で設備導入やスタッフ教育を行い、高度医療や特色あるサービスを提供できる点は、新規開業の大きな魅力でしょう。 

2-3. 収益向上と経済的な将来性

開業医は事業の成果がダイレクトに自身の収入や病院の価値に反映されます。
軌道に乗れば、勤務医時代より高い収入を得られる可能性がありますし、病院という資産の形成も期待できます。

将来的に病院を拡大したり、軌道に乗った病院を後進に譲渡(事業承継やM&A)したりすることで、経済的なリターンを得る選択肢も生まれます。もちろん収益向上には経営努力が必要ですが、自身の頑張りがそのまま成果として実感できるのは開業ならではの魅力です。

3. 失敗を招きやすいリスク

どんな開業にもリスクは付きものですが、動物病院の新規開業において特に失敗を招きやすい主要リスクとしては次の3つが挙げられます。

3-1. 集患対策不足による来院数低迷

よくある失敗原因として、広告宣伝やマーケティングが不十分なケースが挙げられます。
「地元だから口コミで来るはず」と油断してしまい、事前に十分な宣伝をしなかった結果、開業直後から来院数が伸び悩むケースです。

患者さまが来なければ収入が減り、設備やスタッフにお金をかけられず、結果的にサービス低下でさらに患者さまが減るという悪循環に陥ります。

3-2. 不適切な立地・施設計画による機会損失

動物病院の立地選びは開業の成否を大きく左右します。賃料を抑えるため人目につきにくい場所を選んだり、古い建物をそのまま使ったりすると、せっかくの集患チャンスを逃すリスクとなります。

外観やアクセスの悪さは新患獲得の妨げとなり、どんなに医療の質が高くても来院してもらえなければ意味がありません。開業後に「場所選びを失敗した」と気づいても容易に移転はできないため、立地・施設計画の誤りは取り返しのつかないリスクとなるでしょう。

3-3. 過剰投資・資金繰り悪化による経営難

開業には設備投資や内装工事など多額の資金が必要です。しかし、「最高の医療を提供したい」と望むあまり開業当初から過剰に設備投資を行うと、資金繰りを圧迫し、倒産リスクとなります。

新規開業医はまだ実績や信用がこれからの段階であり、高額な専門設備を揃えても「どの程度使いこなせる獣医師なのか分からない」と飼い主さまに思われるため、期待したほど集患ができないこともあります。

【対策・改善策】

このようなリスクを回避するための対策を、別コラム「動物病院を新規開業するときの手順は?開業までに必要な準備を解説」や「ホームページの重要性と分析のポイント」に記載しておりますので、そちらも参考にしていただけます。

4. まとめ|選ばれる動物病院を実現するために
業界動向

犬の飼育数は減少し、猫はわずかに増加する一方で、動物病院数は増加している。
つまり、「1病院あたりの来院数」は減少し、飼い主さまはより慎重に病院を選ぶようになりました。新規開業で成功するには、従来以上に差別化と戦略的な経営が欠かせない。

開業の3つのメリット
診療方針の自由度

診療時間・設備投資・専門領域を自ら決定できる

専門性追求による差別化

独自サービスへの集中投資で競合優位を確立

収益向上と経済的な将来性

事業の成果が直接自身の収入や病院の価値に反映され、勤務医時代より高い収入を得られる可能性がある。

失敗しやすい3つのリスク
集患の難しさ

広告・マーケティングが不十分で開業していることの認知がされず患者数が伸びない

立地選定ミス

コストを抑えるために医院の外観やアクセスを軽視して集患機会を逃す

過剰投資と資金難

過剰な設備投資により資金繰りが悪化

【2025年9月/文責:GMC株式会社 動物医療担当】