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日本
動物医療コラム

スタッフ同士の恋愛で風紀が乱れている!

動物病院経営トラブル対応シリーズ

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

人間が一緒に過ごしていると、そこに恋愛感情が生まれることは当然にあります。限られた空間かつ近い距離でチームプレーをしている動物病院という環境では、スタッフ同士の恋愛や結婚に発展するケースも珍しくありません。実際にご自身がそういったご経験をお持ちの院長先生も少なくないと思いますし、私も数多くそのような例を見てきました。

もちろん恋愛や結婚自体は決して悪いことではなく、むしろ幸せでおめでたい出来事ですが、ときには院内恋愛が動物病院の業務や院内の人間関係に良くない影響をもたらすこともあります。今回のコラムではスタッフ同士の恋愛や結婚にどのように向き合っていくべきかを考えてみたいと思います。

1. 院内恋愛にはどんなリスクがあるの?
  • 業務中も必要以上に一緒にいる、周囲にわかるほど密着する、業務中に喧嘩をする、周囲が二人に気を遣う必要が出るなど、公私混同につながり円滑な業務に支障をきたす。
  • 上司と部下がパートナーとなった場合、指揮命令系統が乱れる。
  • 関係が悪化したり別れた場合に職場の雰囲気が悪くなったり、メンタル不調や退職してしまうなどして業務に支障をきたす。
  • 周囲からの嫉妬や三角関係や不倫のような人間関係トラブルにつながる。そのことが院外に伝わり、病院の評判に悪影響を及ぼす。
  • 個人情報や機密情報がカップル間で筒抜けになるなど、情報漏洩のリスク。
    (獣医師だけが知っておくべき情報を、看護師の彼女も知ってしまうなど)

ざっと考えられるだけでもこのようなリスクが存在します。実際に上記のような状況に頭を悩ませている院長先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

2. 就業規則等でルールを設けることでリスク管理をする

就業規則などで「恋愛禁止」と定めている企業も実際にありますし、それ自体は違法ではありません。しかしながら、多様性が重んじられるこの時代に恋愛そのものを就業規則で禁止するというのは硬直的すぎると受け止められる可能性もあります(アイドルやタレントの「恋愛禁止」のルールに対しても「人権侵害では?」と物言いがつく時代です)。また後述しますが、恋愛禁止をルールとして定めていて実際に恋愛が発覚したからといって、そのこと自体に対して懲戒処分等を行うことはかなりハードルが高くなります。恋愛そのものを禁止する形ではなく、「企業秩序を乱すこと」「業務に支障をおよぼすこと」を具体的に定義してルール化しておくのが現実的でしょう。

具体的には以下のようなことが挙げられます。

  • 恋愛等をきっかけとする公私混同によって業務に支障や利益相反がある場合は異動や配置転換を命じることがあるといった指針を示す。
  • 交際していることがきっかけでセクハラやパワハラにつながらないように指針を示す。例えば人目をはばからず密着することは周囲にとってはセクハラになり得ますし、恋愛感情を口実に相手に強く当たったりするのはパワハラにあたります。パートナー同士だけではなく、例えば三角関係やフられた腹いせをきっかけにパワハラをすることも許されることではありません。
  • 家族やパートナー間であっても業務上の機密情報を無断で共有することは重大なリスクになるため、情報漏洩防止、守秘義務を徹底する。
  • 同僚が冷やかしたり、性的なことを聞いたりするような行為もハラスメントにつながるため、周囲への啓発も行う。
3. 恋愛自体に対して処分をすることは実質的には困難

上記「2」の通り、院内恋愛によって業務に支障をきたすことのないようにルールを定め、スタッフに対して理解・協力を求めることはできますが、恋愛そのものに対して直ちに処分等を行うことは実質的には困難です。日本国憲法第13条では「公共の福祉に反しないかぎり、国民は個人の自由と幸福を追求する権利をもつ」と定めており、同第24条では「両性の合意があれば結婚は自由」とも規定しています。憲法をはじめとする法律の規定は、企業の就業規則に優先します。したがって、院内恋愛をしたこと自体を根拠として、直ちにスタッフを処分することは難しいのです。

過去の裁判例でも、不倫関係を理由に従業員を懲戒解雇処分とした事例で裁判所は以下のような判断をして、企業の処分を無効としています。

" 不倫は社会的に非難される行為。当該女性従業員の不倫は、同社の就業規則にも定める「素行不良」に該当する。しかし、当該女性従業員の不倫が会社の主張する「職場の風紀・秩序を乱し、会社の運営に具体的な影響を与えた」とまでは言いがたい。 "

この事例では懲戒解雇という極めて重い処分だったことも判決に影響したと思われますが、恋愛や不倫そのものを理由に処分を行うことは困難であることがわかっていただけるかと思います。一方で「職場の風紀・秩序を乱し、会社の運営に具体的な影響を与えた」場合は、そのことを理由に懲戒処分を行うことは可能ですので、そこを冷静に切り分けて考えることが肝要かと思います。

また病院側が従業員のプライバシーに過剰に干渉したり、明確な根拠を欠く不当な処分や配置転換を行った場合は、逆に従業員から訴えられることもありますのでその点は冷静な対応に努めましょう。

 

動物病院業界では職場内でカップルや夫婦がいることは珍しくなく、このコラムを読んでくださっている方の中にもパートナーと職場で出会ったという方は少なくないでしょう。チームとして働く中で恋愛感情が芽生えてパートナーとなること自体はとても素敵なことでその職場の人間関係が良いことの裏返しでもありますし、何の問題も発生しないというケースも多いです。しかしながら、院内恋愛によって職場秩序が乱れたり、業務に支障をきたすリスクもありますので、病院として適切なリスク管理をしていきたいですね。

まとめ:院内恋愛にはどんなリスクがあるの?/就業規則等でルールを設けることでリスク管理をする/恋愛自体に対して処分をすることは実質的には困難

【2025年9月/文責:動物病院経営パートナーEn-Jin 代表取締役 古屋敷 純】