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動物医療コラム

問題スタッフとの「さよなら」を決断するポイント

動物病院経営トラブル対応シリーズ

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

一般的にはスタッフを雇うことで動物病院の力は向上し、より多くの仕事ができるようになったり、診療の幅が広がったりと、プラスの効果がもたらされます。一方でスタッフを雇うということには常に一定のリスクが伴います。動物病院の経営サポートをしていると、いわゆる「問題スタッフ」についてのご相談が非常に多く寄せられます。「問題スタッフ」と一口に言ってもその内容や程度は千差万別ですが、問題の深さがエスカレートすると「このスタッフは辞めさせた方がよいか」という悩みにまで発展することも少なくありません。スタッフを辞めさせるということは決して簡単ではなく、それについてはまた別のコラムであらためて書きたいと思いますが、まず今回のコラムでは、問題スタッフとの「さよなら」を決断するポイント等について紹介したいと思います。

1. 「問題」の深さを客観的に評価する

動物病院のスタッフの「問題」といっても様々なケースがありますが、よくご相談を受けるケースだけでも以下のようなものがあります。

  • 仕事の覚えが悪い、成長が遅い
  • 飼主様からクレームを受ける
  • スタッフ間のトラブルを起こす
  • 院長や上司に対して反抗的である
  • 遅刻を繰り返すなど素行や態度が悪い

ただ、スタッフも人間ですので、「問題」が何もないことの方が珍しいと考えた方がよいでしょう。特に経営者である院長先生と労働者であるスタッフの間には歴然たる意識や能力の差があることは当たり前であり、院長先生にしてみれば何らかの「問題」があるスタッフの割合は非常に多いと思います。また特に若いスタッフについては若さによる未熟さや世代が異なることによるジェネレーションギャップがあることも多いため、上記のような「問題」と無関係だというケースの方が少ないでしょう。当然ながら、少し気に入らないことがあるからといっていちいちスタッフを辞めさせていては動物病院経営などできませんし、慢性的な人手不足が続く状況の中で安易に人を辞めさせることは自分の首を絞めることにつながりかねません。またそもそもスタッフを辞めさせるということは簡単なことではありません。まずはスタッフの「問題」を客観的に見て、その程度や改善の見込みなどを冷静に評価・検討することが大切です。

2. さよならの決断をする基準とは?

では、問題のあるスタッフとさよならすべきか否か、をどこで判断すればよいのでしょうか。その判断基準の目安として「周囲にマイナスの影響を与えるかどうか」「いない方がましか」ということが挙げられます。

周囲にマイナスの影響を与えるかどうか

人には個性がありますので、能力、意識、性格なども様々であり、院長先生が求めているレベルに達していないというケースは少なからずあります。ただそれを組織としてカバーできる場合と、カバーできずに周囲にマイナスの影響が及ぶ場合に大別できます。例えば「仕事の覚えが悪い」というスタッフも、ゆっくりでも成長していれば見守ることはできますが、あまりにも成長意欲がなく指導役の過度な負担となったり、組織の士気を下げたりしている場合は一線を越えていると判断すべきかもしれません。

いない方がましか

言葉は非常に悪いですが、率直に「いない方がましか」というのは最終的な判断をするうえで大切な感覚です。例えば能力が高く仕事に厳しいスタッフは、周囲の人や院長に対しても厳しい場合が往々にしてあります。そういう人は優秀なことが多いので院長先生はその人に頼ってしまうケースも多いのですが、その人が厳し過ぎて毎年入ってくる新人を潰して辞めさせてしまっていたらどうでしょう。あるいは、厳しさが高じて院長先生にも反抗的な態度を取り、院長先生が精神的に病んでしまったとしたらどうでしょう。(これらは実際に私が見てきた事象です)
多くのスタッフは多少の問題はあったとしても「いないよりはいた方が助かる」と思えるものです。「いない方がまし」とまで感じるということは、かなり問題の根が深いと判断すべきかもしれません。

3. 「さよならをする」という決断は明確に、「さよなら」は計画的に

ここまで繰り返し「さよならをする」という表現を使っているのには理由があり、必ずしも「辞めさせる」ことが適切なケースばかりではないからです。「辞めさせる」=「解雇」をイメージすると思いますが、スタッフとの雇用関係を終わらせるにも、懲戒解雇、普通解雇、自主退職、退職勧奨、契約更新しない、など実に様々なパターンがあるため、それをあえて「さよならをする」と表現しています。スタッフとの雇用関係を終わらせるということはそれくらい複雑かつ重いものであり、いずれの方法を取るにしても、病院側のリスクを最小限にするために計画的に進める必要があります。弁護士に相談したり、裁判になったり、ということも十分に考えられます。

だからこそ「このスタッフとはさよならをするのだ」と明確に決断したうえで、さよならに向けて冷静に計画を進めることが大切になります。院長がその決断ができていない状況でズルズルと時間が経過したり、勢いだけで突然「もう来なくていい」といったことを伝えてしまうなどは最悪のパターンであり、病院を大きなリスクにさらします。問題スタッフがいる場合は、そのことから決して目をそらさずに問題の深さを判断し、その問題を解決・改善する方向で頑張るのか、解決・改善は難しいと判断して「さよなら」の方向に舵を切るのかを、明確に意思決定することが大切です。
 

あまり考えたくはないことですが、人を雇って動物病院を経営している以上、多くの院長先生がいずれは問題スタッフに頭を悩ませることになります。そして院長先生はその悩みから目を背けるわけにはいきません。問題スタッフに対して、何を基準にしてどのような判断、対応をしていくのか、常日頃から頭の整理をしておくことが大切です。

まとめ:「問題」の深さを客観的に評価する/さよならの決断をする基準とは?/「さよならをする」という決断は明確に、「さよなら」は計画的に

【2025年10月/文責:動物病院経営パートナーEn-Jin 代表取締役 古屋敷 純】