このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
前回までは、Googleマップ等で悪質な口コミを書かれた際、発信者情報開示請求などの法的手続きを通じて書き手を特定する方法について解説してきました。
しかし、法的手続きには時間と費用がかかります。そこで今回は、先生方がご自身で、かつ即効性のある対策として実践できる「返信機能を利用したイメージコントロール術」についてお伝えします。
まず、悪意ある書き込みに対する返信の目的は、「書き込んだ相手を納得させること」ではありません。
本当の目的は、そのやり取りを目にする「第三者」への印象を整えることです。
その第三者とは、口コミサイトを見て悪影響が懸念される「現在通ってくださっている飼い主さま」、「これから来院を検討されている飼い主さま」、「今いるスタッフを含む、未来に就職してくれるかもしれない獣医師や動物看護師、スタッフ」です。これらの第三者が読んだ時に、「書き込みをした飼い主の方が理不尽(カスハラ)であり、動物病院は冷静でまともな対応をしている」と感じてもらうことがゴールです。
具体的な返信の形式として、状況に応じた2つのパターンを示します。パターンAが基本な返信でパターンBは書き込みが明白に理不尽な場合への返信です。
多くのケースで推奨される基本形です。感情的にならず、大人の対応を見せることで、第三者からの信頼を勝ち取ります。
まずはクッションとして、「ご意見ありがとうございます」や、「この度はご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」という言葉を置きます。ここで注意すべきは、「医療過誤があったこと」や「法的な落ち度」を認めて謝罪してはいけないということです。 あくまで「当院の対応でご不快な思いをさせてしまったこと(主観的な感情)」に対してのみ、お詫びの言葉を述べます。
ここが最も肝心な部分です。何が起きたのか、事実経過を淡々と、かつ適切に並べます。 詳細な事実関係を毅然と記すことで、読み手は「なるほど、この飼い主は無理な要求をしていたんだな」と、相手が「カスハラ(カスタマーハラスメント)」であることを自然と理解してくれます。
トラブルが発生した原因について、今後はどのように再発防止に努めるかを伝えます。 これを見た第三者が、「次に自分が行く時には、この問題は解決されているんだな」と安心できる内容にすることがポイントです。
最後は「貴重なご意見ありがとうございました」といった言葉や、再度のお詫びで締めます。 事実関係の提示(②)で多少対決的なニュアンスが含まれたとしても、最後を丁寧な言葉で結ぶことで、獣医師の「誠実で度量の広い人物像」を印象づけることができます。
内容が著しく事実に反する場合や、どのように返答しても穏便な解決が望めない場合には、あえて「毅然とした態度」を選択します。
感情的な反論は避け、「事実を淡々と列挙する」ことに特化します。 「○月○日の診察において、当院は〜〜という説明を行い、飼い主さまからは〜〜という同意をいただいております。書き込みにある事実は確認できておりません」といった形式です。
虚偽の書き込みに対して、あえてプロフェッショナルとして厳格に事実を提示することで、悪質な投稿者の主張を無効化し、他の飼い主さまの為に病院を守る姿勢を周囲に示します。
- 【書き込み内容】
- 星1
犬の急変で受診しました。しかし獣医師さんの治療説明がよくわからず、若手の先生なのか、不安しかなかったです。話し方って大切だなぁと思いました。とても残念でした。一夜明けて別のかかりつけに行き、治療内容を理解して安心しました。夜間だからこそ、ベテランの先生に診てもらいたいです。
【返信】
- この度はご来院いただき、また貴重なご意見をありがとうございます。当院の対応により、○○さまをご不安にさせてしまった点大変申し訳なく思っております。
- 当日の状況を確認いたしましたところ、〇〇の検査に際して、当院からはリスクについて記載した同意書をお示ししながらご説明し、ご了承をいただいた上で進めさせていただいたようですが、同意書にご署名いただく際の説明について○○さまのご理解に関する確認が十分でなかったとのご指摘については改めて確認させていただきます。
- 今回の件を受け、皆さまにご安心いただけるインフォームドコンセントを提供するために、飼い主の皆さまに同意書の内容についてご理解されているかを改めて確認するなど、獣医師への教育と院内の確認体制を改めて徹底してまいります。
- 至らぬ点もございますが、今後とも地域の皆さまに信頼いただける動物病院づくりに邁進いたします。貴重なご指摘、誠にありがとうございました。
- 【書き込み内容】
- 動物を商売道具だと思っているかのような対応でした。電話しても来院するようにと言うだけで困っているのに質問に答えてくれませんでした。
- 【返信案】
- おそらく先日電話での無料相談を希望された方かと思いますが、当院では無料での相談は行っておりません。理由は現場での診察の妨げになることと、長時間の無料電話相談は他に有料にて相談や診察を希望される方の迷惑となるからです。遠方の方は有料でのオンライン相談を行っており、多数の方が利用されているため、今後も無料での相談は行う予定はございません。当院では、全ての飼い主さまと動物たちに対し、適切な医療と公平な対応を提供することを最優先としております。そのためには物的人的資源の維持のために適切な費用をいただくことが必要であることをご理解いただけますと幸いです。今後とも、質の高い獣医療の提供に全力を尽くしてまいります。
口コミへの返信は、相手を言い負かすためではなく、その審判(=第三者の読者)に、どちらが正しいかを正しく判断してもらうための材料を提供する場所だと考えてください。
感情的になりそうな時は一晩置き、今回お伝えした構成に沿って「第三者からどう見えるか」を常に意識して作成してみてください。そのためには、院長以外に任せるということも一考ですし、当事務所でもご相談にのっております。
【2026年4月/文責:弁護士法人 フラクタル法律事務所 弁護士 田村勇人(東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問弁護士)】
