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日本
動物医療コラム

感度と感度、2つの言葉

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

臨床検査に関して「感度」という単語が出てくる場合、一般的には特異度の対義語としての感度を指していることと思います。(感度と特異度の本当のトコロ、参照) しかし、検査関連では、もう一つ別の感度が存在します。それが試薬や機器の感度、「検出感度」と呼ばれるものです。

臨床検査では、血液中の物質の量を濃度として捉えるものが大多数です。検出方法は検査項目によってさまざまですが、多くの場合に、検査試薬と目的物質が反応することで発色したり、濁度が変化したりするように設計されています。その発色の程度や濁度の変化を検出器でとらえ、既知濃度のコントロールから設定した標準曲線に当てはめて、濃度に変換して報告するわけです。

標的物質があまりに少ない場合、発色や濁度の変化を検出器でとらえることが出来ません。また、多すぎる場合にも捉えられない場合があります。これが「検出下限」や「検出上限」であり、合わせて「検出限界」と表現されることもあります。試薬や機器の性能の問題で検出できないだけで、たとえ微量であっても理論上その物質の濃度は0(ゼロ)ではないため、「検出限界未満」といった表現がよく使われます。そして、どこまでの精度で検出できるかを指して、検出感度と呼んでいます。

試薬が動物専用に開発されたものであれば、通常はあまり問題になりません。しかし、残念ながら動物専用の試薬は多くはなく、人用に開発されたものを流用しているというのが現状です。検査の中には抗原抗体反応を利用したものもたくさんありますが、抗原抗体反応は種特異性が高いため、人の蛋白質を抗原として作られた抗体が、犬や猫の蛋白質と全く同じように反応するかといえば、そうはいきません。アミノ酸配列や立体構造、糖鎖修飾の違いなどによって抗体の反応性は低下します。

これが全く反応しなければ、検出できない、検査には使えないとなります。使えない場合は残念ではありますが、ある意味で話はシンプルです。問題なのは、中途半端に反応する場合です。その場合には、血中の蛋白質のうちの一部と反応し、それが濃度として測定されます。濃度に変換するための標準曲線は人の蛋白質に基づいて作成されたものですので、そうして出てきた濃度は本来の血中濃度よりは低い値です。この状況を「検出感度が低い」とか「検査の感度が悪い」などと言ったりします。

抗体の反応性が低くても安定していれば、増加や減少などのトレンドをとらえることは出来ますので、臨床検査として利用することは可能です。しかし、検出できる幅が狭かったり、微細な変化をとらえられないなどの問題は生じます。

「検査の感度が低い」という言葉は、二通りの解釈が可能です。病気を検出するための感度(診断感度)の話なのか、検出感度の話なのか……。検査をする側の人間はその検査で目的物質をきちんと測定できているかどうかを気にしますので、感度と言えば検出感度を思い浮かべるでしょう。一方検査を使う側の人間は、それで病気を発見・診断できるかどうかを重要視しますので、感度と言えば診断感度だと考えています。相手がどちらの話をしているのか注意しないと、ボタンを掛け違ってしまうかもしれません。