このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
2022年1月より東京大学との共同研究でトライアル運用を開始した「犬や猫のリンパ腫細分類」サービスについてご紹介いたします。
2022年11月までに約40例を調査し、免疫染色で細分類できたリンパ腫33例の結果は以下の通りです。犬猫ともに消化管における発生が多くみられます。さらに猫では鼻腔における発生が多く、一方で犬では皮膚における発生が多くみられます(図1)。

図1
リンパ腫の免疫表現型(T/B)は、猫では発生部位によらずB細胞性が多く、犬ではT細胞性が多くみられます。組織型は、犬猫ともに、B細胞性ではびまん型大細胞性B細胞性リンパ腫(DLBCL)、T細胞性では末梢性T細胞性リンパ腫(PTCL)が過半数を占めています。T細胞性リンパ腫はB細胞性よりも組織型が多様で、組織型分類に多くの抗体を用いた検索が必要な症例があります(図2)。
ヒトの皮膚リンパ腫は、WHO-EORTC分類(2005年)において原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞性リンパ腫が分類されており、5年生存率が18%の予後不良の腫瘍とされています(皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版・皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020)。動物のWHO分類では、皮膚リンパ腫の組織型は上皮向性リンパ腫と非上皮向性リンパ腫の2型しかありませんが、腫瘍細胞の免疫表現型に基づいた組織型分類の検討と臨床情報の蓄積が進めば、犬や猫のリンパ腫の体系化が進歩すると期待されます。
動物のリンパ・造血器系腫瘍分類が2002年にWHOより提唱されて以来、20年以上が経過しました。この間、犬や猫のリンパ腫に関する新しい知見が散発的に報告されていますが、いまだその分類を体系づけて実際の診断・治療あるいは予後予測に応用するレベルに至っていないのが現状です。リンパ腫の正確な分類には、組織検査のみならず増殖細胞の表現型の把握が欠かせません。しかしこれらを詳細に検討して病理学的に組織型を細分類しても、臨床情報がセットになって集積されないと、その分類を活用することはできません。このため医学の知見を単純に外挿するのではなく、犬や猫の特徴を反映した独自の分類を確立することが必要です。どうぞ臨床の先生方の御協力をお願いします。
東京大学 獣医病理学研究室 教授 内田 和幸先生
ホルマリンは採取した組織の固定に不可欠ですが、このホルマリンに種類があることをご存じですか?多くの病院様ではホルマリン原液(局方ホルマリン)を水道水で10倍希釈した酸性ホルマリンを使われていると思いますが、免疫染色による検査を行う場合には中性緩衝ホルマリンの方が検査精度は上がります。免疫染色の必要性は、通常は病理診断によってきまるため、病理検査に出す際には初めから中性緩衝ホルマリンで固定することをお勧めいたします。
種類 | メリット | デメリット |
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10% 酸性ホルマリン | ●調整が簡単 ●浸透/固定が早い | ●組織にダメージを与え、染色性に影響を与える |
10% 中性緩衝 ホルマリン | ●組織ダメージが少なく、染色に影響しない | ●調整が手間 * ●浸透/固定が遅い |
- * 調整済の10%中性緩衝ホルマリンの販売もあり(製造元:富士フイルム和光純薬株式会社)
【富士フイルムVETシステムズ広報誌2023年春号掲載記事より】