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日本
動物医療コラム

プードル巨大赤血球症
(プードルマクロサイトーシス)ってなに?

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

皆さまこんにちは。突然ですがこちらの検査データ、どう思われますか?犬、トイプードル、2歳、避妊済雌です。

CBCRI
WBC (/μl)90006000-17000
 Neut49303000-11500
 Lym34201000-4800
 Mono380150-1350
 Eos190100-1250
 Baso30Rare
HCT (%)47.537-55
RBC (104/μl)424 ↓550-850
HGB (g/dl)16.012-18
MCV (fL)112.1 ↑60-77
MCHC (g/dl)33.732-36
PLT (104/μl)30.220-50
Retic count (/μL)41100>80000で再生
ChemistryRI
TP (g/dl)5.65.0-7.2
ALB (g/dl)3.52.6-4.0
GLB (g/dl)2.1 
ALT (IU/l)4017-78
AST (IU/l)2817-44
ALP (IU/l)410-89
TCHO (mg/dl)183115-337
TBIL (mg/dl)0.10-0.5
BUN (mg/dl)21.39.2-29.2
Cre (mg/dl)1.060.4-1.4
Glu (mg/dl)9475-128
Ca (mg/dl)10.09.3-12.1
IP (mg/dl)2.81.9-5.0
Na (mmol/l)149141-152
K (mmol/l)4.43.9-5.5
Cl (mmol/l)114102-117
Lipase (IU/l)380-160
CRP (mg/dl)0.80-0.7

健康状態に問題のない、若い子で、健康診断のための血液検査でみつかった異常です。ケミストリーの範囲ではとくに目立った異常がないようですが、CBCにて赤血球系の数値に異常がみられます。
⾚⾎球数が低いため「あれ、貧⾎?」と思うかもしれませんが、低いのは赤血球数のみで、ヘマトクリットやヘモグロビンの異常がなくこれらデータは乖離しています。そして特に目を引くのがMCVの高さです(犬ですと普通は60-70flくらいですが、なんと100flを超えています)。これはどういうことでしょうか。

MCVってなに?

MCVというのは、赤血球の大きさの平均値をあらわす数字で、MCV高値はすなわち赤血球が大きいということです。機械で測定するヘマトクリットは、MCVに赤血球数を掛け算して算出されます。冒頭のデータでヘマトクリットと赤血球数が乖離しているのは、MCVが高すぎる(赤血球が大きすぎる)ことが原因です。もうひとつMCVと一緒に語られることが多いのがMCHCで、こちらは赤血球の色素量をあらわす数字です。

まず、MCVやMCHCの上昇・低下原因を整理してみましょう。まずは下記の鑑別疾患リストをご覧ください。

MCVとMCHCの変化 考えられうる疾患もしくは検査エラー

正球性正色素性 
(MCV→ MCHC→)

  • 初期の貧血のほとんど
  • 慢性疾患続発性貧血(ACD)などの、非再生性貧血の多くが該当

大球性低色素性 
(MCV↑ MCHC↓)

  • 再生性貧血(溶血や出血)
  • 血液の時間経過によるアーティファクト
  • 高浸透圧疾患によるアーティファクト
  • 赤血球自己凝集によるアーティファクト

大球性正色素性 
(MCV↑ MCHC→)

  • 再生性貧血(溶血や出血)
  • 猫のFeLV感染
  • プードル巨大赤血球症
  • 赤血球自己凝集によるアーティファクト
  • ウマの再生性貧血

小球性低色素性 
(MCV↓ MCHC↓)

  • 鉄欠乏性貧血
  • 肝疾患
  • 門脈シャント
  • 血小板増加によるアーティファクト
  • (まれ)銅欠乏・ピリドキシン欠乏

小球性正色素性 
(MCV↓ MCHC→)

  • 初期の鉄欠乏性貧血
  • 肝疾患
  • 門脈体循環シャント
  • 生理的(柴犬・秋田犬など)
  • 低浸透圧疾患によるアーティファクト

正球性低色素性 
(MCV→ MCHC↓)

  • アーティファクト
  • (まれ) 再生性貧血や鉄欠乏

高色素性
(MCHC↑)

  • すべてアーティファクト
    溶血(病的・試験管内)
    高脂血症
    著しい黄疸
    著しい白血球増加・赤芽球増加
    ハインツ小体
    低浸透圧状態(低Na血症など)
    赤血球自己凝集
    EDTA過剰(サンプル不足)
    血小板増加

こんなふうに、MCV、MCHCがどう動くかの組み合わせで鑑別がたくさんあります。
だいぶ覚えるのが大変ですので、代表的なものをまとめた簡易版が以下です。

MCVとMCHCによる貧血の分類(簡易版)

貧血を分類するときに使われるものです。学生時代には再生性貧血は大球性低色素性になるんだ、と習った先生がいるのではないでしょうか? これはじつは正確ではなく、いまでは再生性貧血の多くは大球性低色素性にはならないことがわかっています。これで貧血分類が完璧にできるわけではなく、所見のひとつとしてとらえておくのがいいでしょう。なお上記の表は弊社の動物医療ライブラリにある私の動画、「CBC・血液塗抹の読み方Part3」の一部です。もっと詳しく知りたいかたは是非こちらをご覧ください。

さて、冒頭のデータではMCV高値・MCHC正常です。大球性正色素性のところをみてみると、再生性貧血、猫のFeLV感染、赤血球自己凝集、プードル巨大赤血球症が鑑別として挙げられています。犬ですのでFeLVはありませんし、Reticは高くないため再生性貧血ではなさそうです。

プードル巨大赤血球症とは

冒頭に示した症例の答えはプードル巨大赤血球症です。名称がいくつかあり、家族性巨大赤血球症、家族性プードルマクロサイトーシス、プードル骨髄障害なども同じ意味です。英名もfamilial poodle macrocytosisなどいくつかあります。

本疾患は先天的異常の一種で、生まれつき赤血球が大きく、MCVが非常に高くなります。我が国ではトイプードルでみつかることが圧倒的に多いですが、プードル系の他犬種やプードル系交雑種(たとえばラブラドゥードルなど)でも経験することがあります。

今回のケースのように、MCV100前後、無症状でヘマトクリット減少がない・そしてプードル、という条件がそろっていれば、だいたいはこの病気であることが多いです。今回はMCV112flですが、私の経験則としては100±10くらいが一番多いです。網状赤血球は普通増えないのですが、網状赤血球も一緒に増えてしまう特殊なサブタイプもあります。ただしデータだけで決めつけず、血液塗抹像の確認、他疾患の除外を行うのが良いでしょう。

血液塗抹ではハウエル・ジョリー小体の増加や形の異常、後赤芽球の増加・形の異常、核のブリッジング、好中球の過分葉などが出ます。変な形の細胞が出るので、この病気のことを何も知らずに見たら何やら重大な病気のように思ってしまうかもしれません。ですが健康に異常をきたすわけではなく、キャバリアで有名な先天性巨大血小板血症のようにある種の個性のようなものと思ってよいと思います。

ハウエル・ジョリー小体(Howell-Jolly body)や後赤芽球(metarubricyte)の異常

ハウエル・ジョリー小体が多いうえ、ひとつの細胞にいくつも存在/後赤芽球の核がおかしな形

複数のハウエル・ジョリー小体とカボット・リング(Cabot ring)

複数個のハウエル・ジョリー小体/カボット・リング

私は研修でお世話になった米国の臨床病理の先生たちとオンラインでお話をすることがあるのですが、プードルの巨大赤血球症、米国ではあまり見かけないとみなさんおっしゃいます。私の場合、だいたい年間1000件ほどの血液学の解釈をしておりますが、月に1回くらい(多いときには一日2件みることすら)ありまして、その話をすると結構びっくりされます。日本においてトイプードル飼育数がものすごく多いというのも当然関係しているでしょうし、それ以外になにか別の要因(特定の遺伝的素因のプードルがブリーディングされているなど)があるのかもしれません。

プードル系の子が健康診断にきたら、この疾患を少し気にしてみてみるといいかもしれません。

参考文献
  • Stockham, S. L., & Scott, M. A. (Eds.). (2024). Fundamentals of veterinary clinical pathology. John Wiley & Sons.
  • Brooks, M. B., Harr, K. E., Seelig, D. M., Wardrop, K. J., & Weiss, D. J. (Eds.). (2022). Schalm's veterinary hematology.
  • Boyd, S. P., & Best, M. P. (2018). Persistent reticulocytosis in a case of poodle macrocytosis. Veterinary Clinical Pathology, 47(3), 400-406.

【執筆:富士フイルムVETシステムズ 診断医(臨床病理) 島田優一】