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日本
動物医療コラム

動物病院の新規開業時に抑えておきたい
獣医療業界動向2025

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

獣医療業界は、飼育頭数の減少と動物病院数の増加が続く中で、業界全体の競争が一層激化し、新規開業を目指す獣医師にはこれまで以上に戦略的な経営が求められています。こうした状況で成功を収めるためには、業界の動向の正確な把握と時代に合わせた病院づくりが欠かせません。本コラムでは、新規開業時に抑えておきたい「2025年の獣医療業界の動向」について詳しく解説します。

犬・猫の飼育頭数と動物病院数

ペットフード協会の調査によれば、犬の飼育頭数は年々減少し、猫の飼育頭数は微増しています。10年前と比較すると、犬飼育頭数は21.5%減少、猫飼育頭数は7.3%増加しております。一方で、動物病院の数は、毎年、約200件ペースで増加をしています。

まとめると、近年は犬減少、猫微増、病院数増というトレンドです。

近年の犬減少、猫微増、病院数増というトレンドを示すグラフ

【出典】ペットフード協会 全国犬猫飼育頭数実態調査委/農林水産省 飼育動物診療施設の解説届出状況

1病院あたりの犬猫頭数

1病院あたりの犬猫頭数の推計は、年々減少傾向になっております。

犬の1病院あたりの頭数のピークは2005年で1,395頭でしたが、約10年後の2034年には、これまで通りの減少率と動物病院の増加が進めば、1病院あたり200頭というピーク比の14.3%に減少する見込みです。

猫に関しては、2004年が1,135頭で、ピークになっており、約10年後の2034年は、ピーク比の49.3%の560頭に減少する見込みです。

このように、1病院あたりの頭数は減少しており、その背景には飼育頭数の減少と動物病院数の増加があります。需要より供給が上回る状況では、飼い主様が動物病院を選ぶ目はより厳しくなり、「選ばれる病院」になるための工夫がますます重要になっていきます。

1病院あたりの頭数減少を推計するグラフ

* ペットフード協会発表資料をもとに、過去の増減トレンドを加味して推計

院長の高齢化と後継者問題の深刻化

動物病院の院長の高齢化も獣医療業界において大きな課題です。

農林水産省の「獣医事をめぐる情勢令和4年3月」によると、動物病院の開設者の平均年齢は55歳を超え、50代以上の獣医師が全体の約43%を占めており、後継者問題が深刻化しています。この状況から、後継者不足による廃業が増加することも考えられます。

特に小規模病院では親族内での継承が難しく、後継者が見つからない場合は廃業を余儀なくされるケースも多く見られます。一方、大規模な病院ではM&A(企業買収)やグループ化が進んでおり、経営基盤が強化される動きが顕著です。

M&Aの活発化によって、近隣の動物病院が外資系グループやファンドの傘下に入ることも増えています。グループ化された病院は規模の力を活かし、共同仕入れや効率的な運営により競争力を高めています。こうした病院が地域に存在すると、小規模な個人病院にとってはさらなる競争の激化が予想されます。
 

2025年の飼い主さまのニーズ

先ほども述べたように1病院あたりの頭数が減少し続けており、飼い主さまと病院の間にある「需要と供給のバランス」は崩れつつあります。すでに需要よりも供給の方が多いという状況であり、このような供給過多の環境下では、飼い主さまが病院を選ぶ基準はよりシビアになり、「選ばれる病院」と「選ばれない病院」の二極化が進むことが予想されます。

獣医療に対する飼い主さまのニーズは、年々高度化し、多様化しています。従来の「病気を治す」医療に加え、予防医療や専門診療、利便性を求める声が強まっているのが現状です。特に近年では、ペットは「家族の一員」という価値観が定着し、飼い主さまの動物病院に対する期待の水準は非常に高まっています。

その中でも大きく2つのポイントが求められています。ひとつは「本質的な医療の充実」です。高度な技術や知識、専門科診療を提供し、設備面でも最新の医療機器を整えている病院が選ばれやすくなっています。たとえば、腫瘍科や整形外科、皮膚科といった専門性の高い診療が行えることや、CTやMRIを導入し、正確な診断を提供できることが、飼い主さまの安心感や信頼につながります。

もうひとつは「サービス面の充実」です。動物病院の質を測る基準は、単なる医療技術だけではなく、病院全体の利便性やコミュニケーションの質にも広がっています。たとえば、飼い主さまが気軽に相談できるような丁寧な説明、予約が取りやすい診療システム、緊急時に頼れる夜間・救急対応、さらには年中無休で診療が受けられる体制などです。診療価格の透明性や適正な料金設定も選ばれる病院には欠かせない要素でしょう。

2025年の従業員のニーズ

動物医療業界において、獣医師や動物看護師をはじめとする従業員が病院側に求めるものは年々多様化しています。特に人材不足が進む中、求職者にとって職場選びの基準は「働きやすい環境」と「成長できる機会」の両立へとシフトしています。動物病院側がこれに応えられなければ、優秀な人材の確保は難しくなるでしょう。

従業員が働き続けたいと感じる職場には、いくつかの条件があります。まず挙げられるのが「知識習得の機会」です。獣医療の現場は日進月歩で進化しており、技術や知識の習得は獣医師や動物看護師にとって欠かせません。現場での臨床経験はもちろん、学会やセミナーへの参加、定期的な勉強会の実施が求められます。自身のスキルが向上していると実感できる環境は、従業員のモチベーション向上と定着率向上にもつながります。

さらに、働き方に対する意識も大きく変化しています。従業員が求める「ワークライフバランス」の確保は、病院側が真剣に取り組むべき課題です。具体的には、休日をしっかり確保することや、残業を減らしてプライベートな時間を確保することが重要です。また、有給休暇や産休・育休制度の整備、業務時間とプライベート時間を明確に分ける取り組みも必要でしょう。収入の安定は当然ながら、心身ともに安心して働ける職場環境が求められています。

2025年の飼い主さま/従業員のニーズ
最後に

獣医療業界は、飼育頭数の減少、病院数の増加、そして後継者問題という課題を抱えています。今後は、飼い主さまの高度なニーズと従業員の働きやすさの両方を叶えながら、他院との差別化を図ることが不可欠です。

「高度な医療技術」と「利便性の高いサービス」、そして「従業員が成長できる環境」を提供し続けることで、「選ばれる病院」として競争を勝ち抜くことができるでしょう。時代に合わせた柔軟な経営こそが、今後の動物病院経営の成功の鍵となります。

【2025年1月/文責:株式会社サスティナ 主任コンサルタント 福永健吾】