AI活用の“格差”に終止符を。富士フイルムビジネスイノベーションのAI戦略についてCTO 鍋田敏之が講演 ― AI・人口知能EXPO 特別講演レポート

「企業の長い歴史の中で構築された、業界構造の従来型のエコシステムのフローを変えることなく、非構造化データを構造化してAI活用によりイノベーションを創出する未来を目指していきたいです」

2025年10月9日、RX Japan株式会社が主催で開催された「第6回AI・人工知能 EXPO【秋】 」で、富士フイルムビジネスイノベーション 常務執行役員 CTO 鍋田 敏之が、「AI活用の”格差”に終止符を」をテーマに講演しました。

この記事では、講演の内容を再編集してレポートします。

富士フイルムビジネスイノベーション 常務執行役員 CTO 鍋田 敏之 (なべた・としゆき)
富士フイルムビジネスイノベーション 常務執行役員 CTO
鍋田 敏之 (なべた・としゆき)
1994年に富士フイルムに入社。写真フィルム感材の開発後、 2006年からデジタルX線機器開発に従事。2017年に医療AI技術ブランド「REiLI」を立ち上げ、医療IT・AIを活用した医療機器・サービス開発を牽引し、2022年に執行役員に就任。2024年より富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の取締役常務執行役員CTOとして技術開発全般を管掌。医療領域の経験を基盤にAIの成長戦略を主導。

AI活用時代における“格差”の現状と課題

講演の冒頭、鍋田は「世界のAI市場規模の推移&予測」のグラフを用い、AIの目覚ましい進化とともにビジネスシーンでも生産性向上の切り札としてAIが期待されているが、企業や業種間でAI活用に差が生じていることを説明しました。

「企業におけるAI活用が進まない理由のひとつは、企業内、企業間に立ちはだかる非構造化データが壁だと感じる。非構造化データとは、生成AIによると、”あらかじめ決まった形式や規則に沿って整理されていない情報のこと。具体的には、文章、画像、音声、動画、手書きメモ、PDFなど、多様で自由な形態のデータが含まれる”ものです」

「非構造化データは、世界のデータの大部分を占めており、企業のノウハウやナレッジが溜まった宝の山。しかし、非構造化データのままでは形式がバラバラでAIでの読み取りが難しく、活用が進んでいない。非構造化データを活用できるようにすることで、ビジネス上の意思決定を導き、新たなビジネスの創出につながります」と、鍋田は非構造化データの重要性とその課題について強調しました。

例えば不動産や物流などの業種では、紙やFAXが今も重要な役割を果たしていると鍋田は述べ、「高度に完成した業界構造の従来型のエコシステムのフローを変えることなく、我々は非構造化データを構造化して、AI活用によりイノベーションを創出する未来を目指していきたい」と語りました。

構造化により企業に眠る“知”を活かすAI活用

富士フイルムビジネスイノベーションでは、「認識・構造化」をベースに5本柱のAIをエスカレーション設計で提供しています。

「『認識・構造化AI』は、複雑でバラバラなデータを整理・体系化し、『構造化データ』という土台を持つ状態を作り出します。その『構造化データ』がオーケストラでいう”楽譜”のような存在であり、これがなければAIが連携して効果的に動くこと(オーケストレーション)ができない。つまり、『認識・構造化AI』がAIシステム全体の基盤と指揮者役への準備を担う重要な技術ということです」

「高度に完成した業界構造の従来型のエコシステムのフローを変えることなく、いかにデジタライズしてAIエージェントが低コストで生産性の良い働き方をするかは、『認識・構造化AI』がポイント。人とAIエージェントの橋渡しになる技術だと考えています」

この「認識・構造化」技術のキーについて鍋田が説明しました。

富士フイルムビジネスイノベーションでは、非構造化データを構造化データへと変換するために、4つのステップで処理を行っています。それぞれのステップには、多様な技術を複合的に組み合わせたAIが活用されています。特に1番目の「画像処理AI」と4番目の「言語処理AI」の部分こそが、富士フイルムビジネスイノベーションの「認識・構造化」技術の特徴的なポイントとなっています。

多くの人にとってAIによるデータ利活用が容易ではない要因はいくつかあります。

まず一つ目は、FAX特有のゆがみやかすれ、地紋の模様、手書き文字など複雑なノイズが多く含まれているため、AIが正確に必要な情報を抽出するのが非常に難しいという点です。この課題を解決し、多くの非構造化データの情報を抽出するために「画像処理AI」が有効に働きます。
二つ目は、抽出した情報を人やシステムが使いやすい形に整えることが困難であるという固いです。せっかく抽出できたデータでも、「株式会社」と「(株)」が併用されていたり、「電話番号」が「Tel.」と表記されていると、人手で表記の揺れを統一していく作業が発生してしまいます。また、契約書や報告書など関連する書類のデータを正しく紐づけることも困難であり、これらを統一して活用しやすいデータに変換することが大きなハードルとなっています。

さらに、利活用しようとした際に課題となることとして、個人情報や機密情報など公開や共有が制限される情報が多く含まれているため、適切にマスキングすることが不可欠であることが挙げられます。また、逆に図面などの複雑なドキュメントから重要な寸法や数値を正確に抽出し、強調表示する場合もあります。これらの情報を的確に取り出す技術はもちろん重要ですが、実際の現場では、こうしたAI活用を支える基盤を整備することこそが最も大きな課題であり、多くの人が真に困っている点でもあります。

富士フイルムビジネスイノベーションのAIエージェント活用事例

さらに鍋田は、富士フイルムビジネスイノベーション「認識・構造化技術」によって実現した効率化AIの事例として、九州電力様の事例を紹介しました。

九州電力様には株式会社neoAIが提供するAI生成プラットフォーム「neoAI Chat」と当社のドキュメントハンドリング・ソフトウェア「DocuWorks」との連携によるシステム※をご活用いただいています。長年にわたり「DocuWorks」上に蓄積された多様な形式の過去工事資料から、類似する工事情報を生成AIで迅速に抽出し、ベテランに頼らずとも過去の知見を活用し、工事資料の作成や業務改善を効率的に行うことが可能になりました。

「このように企業が長い歴史の中で培ってきたデータは財産であり宝の山。ぜひ当社の独自の構造化エンジンを積んだAI技術を皆さまにご活用いただけると嬉しいです。企業単独ではなく、他社技術や商材とも連携をして価値提供の幅を広げながら、未来のデータ共創社会への礎を一緒に築いていきたい」と話しました。

「DocuWorks」と「neoAI Chat」の連携開始(2025年10月6日 プレスリリース)

富士フイルムグループのAI技術ブランド「REiLI」

REiLI
日本語で、聡明・賢いさまを表す「怜悧(れいり)」

「REiLI」は、
ヒトとAIの共創、AIとAIの共創によって新たな価値を提供します。

2018年、医療・ヘルスケア領域におけるAI技術ブランドとして誕生したREiLIは、
2025年、活躍の場をオフィスや商業印刷分野に拡張し、知の活用と価値を支援します。

REiLIとともに、未来の働き方へ。

鍋田は最後の最後に、富士フイルムビジネスイノベーションのAI技術ブランド「REiLI」※について説明しました。

「REiLI」は、富士フイルムグループが展開するAI技術ブランドで、もともとは2018年に医療・メディカル分野で活用が始まりました。2025年5月からはビジネスイノベーション領域にも展開し、企業の知識や情報の活用と新たな価値創出を支援しています。

「医療分野やビジネスイノベーション領域で培った画像処理や自然言語処理の技術を強みに、企業固有のナレッジを当社のAIで構造化します。これにより効率化や付加価値を高めるAIエージェントを開発し、自社およびパートナー企業の製品やサービスに組み込むことで、価値の向上を図っています。構造化エンジンを中心にパートナー連携も推進し、社会システムの変革を目指しています」

誰もがAIを身近に使える未来への意気込みを語り、鍋田は講演を締めくくりました。

「私たちはヒトに寄り添い支援するAIの実現を目指しています。伝統的な企業の業務フローを変えることなく、誰もが自然にAIを活用できる社会、AIネイティブが早期に実現する未来に向けて、魅力的な製品やソリューションの開発をこれからも進めていきます」

講演の様子を含むイベントダイジェストをYouTubeで配信中
AI・人口知能EXPOでの特別講演や富士フイルムイノベーションのブースの様子を動画でご覧いただけます。ぜひご視聴ください。
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