シャドーITとは?リスクや事故事例、防止策までわかりやすく解説

2025.10.29

シャドーITとは?リスクや事故事例、防止策までわかりやすく解説

シャドーITとは?リスクや事故事例、防止策までわかりやすく解説

企業の業務現場では、便利さを優先して社員が独自にアプリや個人の端末を利用するケースが増えています。これを「シャドーIT」と呼び、セキュリティーの大きな課題として注目されています。

シャドーITは表面的には便利に見える一方で、組織全体で管理されていないため、問題が発覚した時にはすでに手遅れというケースも少なくありません。

本記事では、シャドーITの基本的な定義やリスク、実際の事例をわかりやすく解説します。

シャドーITとは

シャドーITとは、企業が正式に許可していないシステムやアプリ、デバイスを従業員が業務に使用している状態を指します。たとえば、個人のスマートフォンから業務データにアクセスしたり、会社が導入していないファイル共有サービスを使ったりするケースが該当します。

近年、リモートワークの普及によりシャドーITの発生は加速しており、管理者の目が届かないため、セキュリティー事故を起こしやすい点に注意が必要です。特にクラウドサービスやフリーWi-Fiは簡単に利用できるため、気づかぬうちに情報が外部に流出するリスクがあります。

シャドーITと類似した概念に「BYOD(Bring Your Own Device)」があります。

両者の違いは、使用するデバイスやツールについての「許可の有無」です。

  • BYOD:企業の許可を得ている個人のデバイスを業務で使用すること
  • シャドーIT:企業が把握していないデバイスやツールを許可なく使用すること

たとえば、BYODではセキュリティーアプリを必須インストールするなどの条件が課されますが、シャドーITではそうした対策が取られていません。そのため、同じ、私物端末の使用でもリスクの大きさが異なります。

企業にとっては、社員の利便性と安全性を両立させるために「BYODをどのように運用し、シャドーITをいかに防ぐか」が重要な課題となります。

シャドーITが広まった背景には、働き方の変化と企業のIT対応スピードのギャップがあります。

特にクラウドサービスの普及とリモートワークの拡大が、シャドーITの問題を加速させました。まず、スマートフォンやクラウドサービスの性能向上により、個人が手軽に高機能なツールを利用できるようになりました。数年前まで企業が高額な費用をかけて導入していた機能が、今では無料あるいは低コストで個人向けに提供されています。

また、コロナ禍以降、リモートワークが急速に普及したことも影響しています。自宅から業務を行う際、会社支給の環境だけでは不便さを感じた従業員が個人のデバイスやサービスで補完する動きが広がりました。

上記のようなさまざまな要因が重なり、シャドーITが自然に広がっていったといえます。

シャドーITの種類

シャドーITは多様な形態で存在しており、従業員が日常的に利用しているツールの多くがシャドーITの対象となり得ます。代表的な種類としては、以下の5つが挙げられます。

  • 私用デバイス
  • クラウドサービス
  • チャットツール
  • フリーメール
  • フリーWi-Fi

上記は一見すると便利なツールに見えますが、企業の管理外で使われると重大なセキュリティーリスクを生み出します。

それぞれの特徴とリスクを理解して、自社にどのようなシャドーITが潜んでいるか見極めることが重要です。

私用デバイスの利用は、シャドーITの中でもっとも身近で発生頻度が高い形態です。具体的には、営業担当者が外出先から自分のスマートフォンで顧客情報を確認する、在宅勤務中に個人パソコンで企画書を作成する、などの行動が挙げられます。

会社が管理できない私用デバイスの業務利用は、紛失・盗難やマルウェア感染を通じて機密情報や顧客情報が漏えいする可能性が高いため、利用には十分注意が必要です。

クラウドサービスは、インターネット上でファイル保存や共有ができるオンラインストレージやSaaSツールを指します。代表的なものとして、GoogleドライブやDropboxなどがあり、無料プランで手軽に始められる点が特徴です。

こうしたサービスは便利である一方、企業側からは誰がどのデータをアップロードしているか把握できません。サービス提供会社のセキュリティーレベルが不明な場合、サーバーへの不正アクセスやデータ漏えいのリスクも高まります。

また、無料プランでは暗号化やアクセス制限などのセキュリティー機能が制限されていることも多く、機密情報の保護が不十分になる恐れがあります。

チャットツールは、リアルタイムでメッセージをやり取りできるコミュニケーションアプリです。個人アカウントで利用できることから、無料のメッセージアプリを業務連絡に使用するケースがあります。

特にリモートワークが増えた環境では、気軽に連絡できるツールとして活用される傾向にあります。

チャットツールの問題は、会話履歴が企業の管理下に残らない点です。重要な指示や決定事項がチャット上でやり取りされても、IT部門が記録を確認できません。また個人アカウントのセキュリティー設定が甘い場合、第三者にアカウントが乗っ取られて業務情報が漏れるリスクも存在します。

フリーメールとは、企業ドメインではない個人用のメールアドレスを指します。代表的なものとして、GmailやYahoo!メールなどがあり、誰でも簡単にアカウントを作成できる点が特徴です。

フリーメールの問題点は、企業側がメール内容を把握・管理できないことです。顧客情報や契約書などの機密文書がフリーメール経由で送信されても、IT部門は記録を追跡できません。また個人アカウントのパスワード管理が不十分な場合、不正アクセスによって業務情報が第三者に渡る危険性も高まります。

フリーWi-Fiは、セキュリティーが不十分な通信環境を指します。カフェや駅、空港などで提供される無料の公共Wi-Fiが該当します。

特に営業職や出張の多い職種では、移動中にメール確認やオンライン会議をするケースもあるため、利用頻度が高くなりがちです。

フリーWi-Fiは、通信内容が第三者に傍受される危険性があります。特に、暗号化されていないWi-Fiや、簡単なパスワードしか設定されていないネットワークでは、同じWi-Fiに接続した悪意のある第三者によって通信内容が盗み見られる可能性があります。ログイン情報や機密ファイルが盗まれるリスクが高まるため、注意が必要です。

シャドーITによるセキュリティーリスク

シャドーITは従業員の利便性を高める一方で、企業にとって以下のような深刻なセキュリティーリスクをもたらします。

  • 個人・機密情報の漏えい
  • アカウントの乗っ取り
  • マルウェア感染と拡大

行為の危険性を具体的に理解することで、被害の拡大を防ぐことが重要です。

シャドーITによる深刻なリスクの1つに、個人情報や機密情報の漏えいがあります。

たとえば、さまざまなサービスの無料プランでは共有リンクが誰でも閲覧できる設定になっていたり、アクセス権限の管理機能が制限されていたりするケースが見られます。

その結果、企業が管理していないクラウドサービスやデバイスに重要なデータが保存されることで、外部への流出の可能性が高くなるのです。

また、個人のスマートフォンやパソコンに業務データを保存していた場合、デバイスの紛失や盗難によって直接的に情報が漏れるリスクも考えられます。

万が一、顧客や取引先などの個人情報が流出すると、社会的信用の低下を招くだけでなく、企業の存続にかかわるような損失につながるためリスク管理が重要です。

企業が管理していない個人アカウントは、セキュリティー対策が不十分なケースが多く、悪意ある第三者に乗っ取られやすい状態にあります。

代表的な手口として挙げられるのは、フィッシング攻撃です。従業員の個人メールアドレス宛に偽のログイン画面へ誘導するメールが送られ、IDとパスワードを入力することで認証情報が盗まれます。

たとえば個人のチャットツールアカウントが乗っ取られた場合、そこでやり取りされていた業務上の会話履歴や共有ファイルはすべて閲覧されます。さらに攻撃者が取引先になりすましてメッセージを送信し、振込先口座を変更させる詐欺といった二次被害の発生も否定できません。

アカウント乗っ取りは、正規ユーザーになりすまして業務情報にアクセスされる深刻な被害をもたらします。

会社が未許可のツールやフリーWi-Fiの利用を通じて、マルウェア(不正なプログラム)が侵入する危険もありますシャドーITによる事故事例。

一度感染すると、社内ネットワークを経由して他の端末にも拡散し、業務停止を引き起こす可能性があります。バックアップデータまで破壊されると復旧が難しく、損害額が膨大になるケースも少なくありません。

企業が認識していないアプリや通信経路では、監視システムが機能しないため感染経路をたどれず、結果として被害の拡大防止も難しくなります。

シャドーITによる事故事例

シャドーITがもたらすリスクは、実際の企業でも情報漏えいや不正アクセスなどの事故を引き起こしています。ここでは事故事例について、以下の3つを紹介します。

  • 企業が許可していないクラウドサービスの利用による情報漏えい
  • フリーメールアカウントの不正アクセスによる個人情報流出
  • 私物パソコン経由で組織のクラウドサービスへ不正アクセスしたことによる情報漏えい

事例を知ることで、リスクの深刻さの理解​​につながります。

ある企業では、営業部門の従業員が個人で契約していた無料のクラウドストレージサービスに顧客リストや取引先の契約情報を保存していたところ、そのデータが外部に漏えいする事故が発生しました。

この従業員は、大容量のファイルを取引先と共有する際に会社のメールでは送信できないため、使い慣れた個人のクラウドサービスを利用していました。サービスの共有機能を使ってファイルのリンクを取引先に送付していましたが、共有設定を「リンクを知っている人全員が閲覧可能」にしていたため、何らかの経路で第三者に渡り、顧客情報が外部から閲覧可能な状態になっていたのです。

事故発覚後、企業は影響を受けた顧客への謝罪対応と調査に追われ、企業の社会的信用も大きく損なわれました。

ある企業で、人事部の担当者が個人のフリーメールアカウントを使って従業員の個人情報や給与データを自分宛に転送していたところ、アカウントが不正アクセスを受けて情報が流出する事故が起きました。

この担当者は、在宅勤務中に会社のVPN接続が不安定だったため、作業を継続できるよう業務データを個人のフリーメールに転送して自宅のパソコンで作業していました。

しかしこのフリーメールアカウントは、パスワードが単純で多要素認証も設定されていなかったため、フィッシング攻撃によって認証情報が盗まれたのです。

攻撃者はそのアカウントにログインし、メールボックスに保存されていた従業員の氏名や住所・給与情報などの個人データを入手しました。

事故の発覚は、流出した情報が不審なWebサイトに掲載されているという外部からの通報によるものでした。企業は全従業員への謝罪と説明を行い、警察への届出と再発防止に努めるとし、企業の信頼は大きく低下しました。

ある企業では、業務委託先の従業員が私物パソコンを使って個人のクラウドサービスにアクセスし、大量の顧客情報を不正に持ち出す事件が起きました。この従業員は会社支給のパソコンと私物パソコンを併用していたため、企業の監視システムでは長期間発見されませんでした。

また、海外でも同様のトラブルが報告されています。ある外部委託先のコンサルタントが使用していた私物パソコンがウイルスに感染し、そこから企業のデータベースにアクセスするための情報が盗まれる事件が発生しました。この影響で、多数の個人情報が流出した可能性があるとされています。

業務委託先の私用端末は、企業側のセキュリティー管理が及ばないため、こうした被害が起きやすい状況にあります。ネットワーク監視は検知できても情報漏えい自体を食い止めることは難しいため、従業員一人ひとりの個人情報の取り扱いに対する意識を高めることが重要です。

シャドーITの防止策

シャドーITによる事故を防ぐためには、技術的な対策と組織的な施策を組み合わせた多層的なアプローチが求められます。効果的な防止策として、以下の4つの方法が挙げられます。

  • IT資産管理ツールによる端末・ログ管理
  • 公式なITシステムへの統合や代替策の選定・導入
  • 業務利用に対するガイドラインを作成する
  • 社内のポリシー策定と従業員教育の徹底

上記の施策を段階的に導入することで、シャドーITの発生を抑制しながら業務効率を維持できる環境を構築できます。

IT資産管理ツールは、企業が支給したパソコンで、従業員がどのような操作をしているか可視化するソフトウェアです。導入によって、IT部門が把握していない私用デバイスの接続や、許可されていないクラウドサービスへのアクセスを検知できるようになります。

また通信ログを分析することで、外部のクラウドサービスへのデータ転送や、不審なWebサイトへのアクセスといった異常な動きについて早期発見が可能です。

管理者が状況をリアルタイムで把握できれば、従業員も自然と意識を高め、不適切な利用を抑止することにもつながります。

シャドーITが発生する根本的な原因は、従業員のニーズに企業の公式なシステムが応えられていない点にあります。そのため従業員が求める機能を持つ公式なツールを導入し、シャドーITの代替手段の提供が効果的な防止策です。

具体的なアプローチとしては、まず従業員がどのようなシャドーITを利用しているか調査し、利用理由を把握することから始めます。

たとえば「大容量ファイルの共有が必要」という理由で個人のクラウドストレージを使っているのであれば、企業が公式に契約するファイル共有サービスを導入して代替手段を提供します。

また既存の社内システムの使い勝手に問題がある場合は、UI改善やアクセス速度の向上などの改修を行い、従業員が社内システムを積極的に使いたくなる環境を整えることも有効な方法です。

明確なガイドラインを策定し、何が許可され何が禁止されているかを従業員に示すことで、意図せずシャドーITを使用してしまう事態を防げます。ガイドラインには具体的な利用基準と判断基準を盛り込むことが求められます。

その際には、具体的に「会社支給のパソコンとスマートフォンのみ業務利用可」「クラウドサービスはIT部門が承認したもののみ使用可」などの基準の明示が重要です。

次に、どのような情報をどこに保存してよいか、外部への送信時にどのような手段を使うべきかといった業務データの取り扱いルールを定めます。また、申請・承認プロセスを整備し、新しいツールを使いたい場合の相談窓口の設置により、従業員が独断で判断せずに済む仕組みを構築することも有効な手段です。

シャドーITを防止するには、全社的なポリシーを策定し、定期的な教育を通じてセキュリティー意識を浸透させることが重要です。ポリシー策定では、経営層がセキュリティーの重要性を明言し、組織全体で取り組む姿勢を示すことが求められます。

そのうえで「情報セキュリティーポリシー」として、データ保護の原則や従業員の責任範囲を文書化します。

また、従業員教育では、シャドーITが引き起こす具体的な事故事例を紹介し、「自分の行動が会社全体のリスクにつながる」という当事者意識を持たせることが効果的です。

年1回程度の集合研修だけでなく、eラーニングや啓発メールといった継続的な働きかけを行うことで、知識の定着をはかります。さらに新しい脅威や手口が登場した際には、速やかに情報共有し注意喚起することで、常に最新のリスクに対応できる組織文化を育てていきます。

まとめ

シャドーITは、便利さを求める社員の行動から自然に発生するため、単純に禁止するだけでは解決しません。

企業に求められていることは、現場のニーズを理解しながら安全に利用できる仕組みを整えることです。

IT資産の可視化や公式ツールの整備、ルール策定などにより、現実的にリスクは減らせます。特に管理部門と現場の連携を密にし、使いやすく安全な環境の提供が重要です。

シャドーITを排除すべきリスクとしてではなく、組織改善のサインとして捉え直し、継続的に対策を進めていくことが、信頼性の高いセキュリティー体制の確立につながります。

シャドーITやセキュリティーなどに関して、お困りごとがあれば、富士フイルムビジネスイノベーションジャパンがサポートいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。