日本の紙事情

日本での「紙」 歴史の始まり

まず、日本における紙の歴史から始めましょう。日本最古の紙に関する記述は日本書紀の「(610年に高句麗の)僧の曇徴(どんちょう)が紙をつくった」というものです。この記述では、「初めて(つくった)」とはなっておらず、蔡倫(さいりん)が紙を開発してから400年以上も経っており、中国との交流があったことを考えると、この記述より以前から紙の製法は日本に伝えられていたと考えられます。610年というのはちょうど聖徳太子が活躍した時代です。仏教を重んじた聖徳太子が写経のための紙を大量に確保するために紙作りを推奨したといわれています。この頃から品質が改良されていきました。

その後・・・・・・

平安時代になると和紙に美しい模様をつける加工技術が発達し、「料紙(りょうし)」がつくられるようになります。さらに江戸時代になると庶民にも紙が普及していきます。明治になると欧米から洋紙の製法技術を導入し、洋紙の製造がはじまりました。当初は品質が悪く、あまり売れなかったものの、徐々に品質が向上していったことと、大量生産における低価格化により、和紙の生産量を上回っていきました。

現代

では、現在どれくらいの紙・板紙が生産されていると思いますか?2010年の紙・板紙の国内生産量は、なんと「27,362,554トン」*1で、世界でもトップクラスの生産量です。また、消費量はというと、「26,323,735トン」*1で、これもまた世界トップクラスです。国民一人当たりで見ると、年間消費量は約250kgにもなります。日本人のコメの年間消費量が約60kg*2ですから、コメの4倍以上ですね。

日本での紙の生産・販売数量の推移を見てみましょう。

紙・板紙の生産・消費量推移

日本も2008年9月のリーマンショックで生産・販売量ともに落ち込んでいるのがわかりますが、それでも依然としてかなりの量があります。電子化が進む中でもまだまだ紙の役割は大きいということがわかります。

2011年3月に発生した東日本大震災で日本経済は大打撃を受けましたが、当時の被災地の映像を見ると、電気、電話など通信手段が途絶えた中、紙は貴重な情報伝達の方法として大活躍しました。改めて、紙の大切さがわかります。たまたま見た映像で、とても印象に残っているシーンがあります。「仮設トイレ」という張り紙を書いているシーンで、文字を書いた後にかわいいイラストを書き込んでいました。たったこれだけのことですが、手書きの暖かい雰囲気が伝わってきて、過酷な環境の中、小さな安らぎを与えていました。紙は単に記録や情報伝達としての役割だけでなく、時に人の心を癒す力もあるのだと思いませんか?きっとそれは、自然の恵みである植物から生まれたものだからではないでしょうか?これからも大切に使っていきたいものですね。

*1 経済産業省ホームページ 「生産動態統計」

*2  農林水産省ホームページ 「米の1人1か月当たり消費量」

 

<今回のポイント>

●IT化がすすんでも、紙は不滅です