このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
放射線撮影や画像診断など、様々な医療領域で普及が進む医療AI。
医療の進歩を象徴する新技術として、世間的にも注目度が高まっています。
医療に寄与する存在として理解する一方で、具体的なメリットや付随する懸念材料についてご存じでしょうか。
今回は、医療AIの活用が進む領域をテーマにその特徴にスポットライトを当てます。
医療の現場に広まり始めた医療AI
AI(人工知能)をヘルスケア領域に応用した「医療AI」の、医療現場への導入・活用が進んでいます。先端技術にもとづく諸機能は、医療サービスの質の向上、医療業界の課題解消を支援すると期待され、今後もより多くの医療施設に取り入れられることが予想されます。
先進的な取り組みがニュースで報道され社会全体における認知度が高まるなか、医療従事者としては現在の活用、今後を見据えて今一度医療AIの特徴や留意点を理解する必要があります。
医療AIにはどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
放射線撮影、画像診断における医療AIの活用
医療AIの運用が進む領域は、厚生労働省の「AI開発を進めるべき重点6領域」内にある(1)ゲノム医療、(2)画像診断支援、(3)診療・治療支援、(4)医薬品開発、(5)介護・認知症、(6)手術支援が主なものです。医療AIが予防医療から治療医療までの医療領域にとどまらず、介護領域への貢献が期待されていることがわかります。
国家の後押しを受けて多岐にわたり導入が進む医療AIですが、抜きん出て活用されている分野が「放射線撮影」と「画像診断」です。
放射線撮影について、各医療機関は患者の被ばくを軽減する観点からできる限り放射線量を低減することに努めています。ただ、放射線量と比例して撮影画像の画質も低下してしまいます。その原因が、高周波成分によるノイズです。CT検査を例にすると、加算回数やオーバーサンプリングの低減、アンダーサンプリングなどが原因となりノイズが発生します。現在医療現場で運用されている医療AIは、それらに起因するノイズを演算や再構成により低減し画質を向上させます。また、撮影画像をもとにAIが生成した3D断面画像を再構成する機能は、各部位の視認性向上に寄与しています。
画像診断に関しては、国内各社が画像診断支援AIの開発に力を入れており、現時点で大腸ポリープが疑われる箇所を検出・判定する内視鏡AIが販売されています。医療機関から収集した膨大ながん画像をAIが学習することで、大腸内視鏡検査時における病変の検出、疑いのある箇所のマーキング、腫瘍性もしくは非腫瘍性の判定を支援することが可能になります。大腸がんは日本のがん罹患数の筆頭であり、罹患率や死亡数の高まりが懸念されており、医療AIは大腸がんの早期発見・早期治療を支援する技術として医療機関や患者からの注目を集めています。
医療AIを放射線撮影や画像診断に活用するメリット
医療AIの導入は医療現場に様々なメリットをもたらすと期待されています。医療業界は医師の高齢化にともなう人手不足の状態で、医療現場では経験に乏しい医療従事者も第一線で業務にあたっています。そこで求めれるのが、経験や心身の調子に左右されない業務パフォーマンスです。MRI検査を例にすると、撮影データを再構成には専門医の経験が必要で、経験の差が一枚画像の質に直結します。人的作業に対する医療AIの支援は、組織内のパフォーマンスの均てん化のほか、単純作業の業務効率化や反復作業にともなう負担軽減にも効果が見込めます。
画像診断シーンでは医師は主観的に判断してきましたが、ディープラーニングで大量のデータから学習した医療AIの判定は客観的な視座となり、多様な視点にもとづく総合的な判断を後押しします。
患者には質の高い診療に加えて、効率的な放射線撮影による被ばくリスク低減の恩恵があります。MRI検査は撮像時間が長く,患者が長時間の拘束に耐えられず中断するケースもあり、患者の受診にともなう心身の負担軽減にも寄与すると考えられています。
医療AIの懸念材料
幅広い領域で活用が進む医療AIですが、新たな領域を開拓する過程で、検討・改善するべき課題がいくつか生まれています。まず、AIの判定に誤りがあった場合の責任の所在です。発展途上の技術分野のため、想定外の事象に機能しない可能性は少なからずあり、その判定ミスが患者の健康を左右しかねないことから、医療機関は支援技術としての医療AIの位置づけを明確にし、意思決定フローを確立していくことが必要になります。
医療AIは膨大な医用データを源泉にすることから、医療機関には適切なデータ管理が求められます。医療機関同士のデータ交換時の漏洩対策だけでなく、近年は医療機関がサイバー攻撃の標的にされており、サイバーセキュリティ対策も十分に講じなければなりません。
医療業界に医療AIが普及・定着する道のりには、患者側の納得を得るという重要なプロセスがあります。現時点の医療AIは、判定理由が不明瞭なことから“ブラックボックス”と称されています。患者に安心をもたらし、将来的な質的診断に寄与する技術に発展するためには、判断の根拠を言語化・数値化といった目に見える形で示すことが鍵になります。
医療AIを導入するにあたり、施設規模や医師をはじめとしたスタッフ数、検診数、読影数などを考慮することが適切な判断につな がります。将来的な話として検討する場合も、費用感を含めて一度見通しを立ててみることをおすすめします。
医療AI搭載の機器・システムは各メーカーから随時販売されており、貴院の状況やニーズに応える製品か否かを判断するために は、製品ごとのメリットやデメリットの把握が不可欠です。医療機関ごとの課題や状況に応じた課題解決を検討する為にも、AIを搭載する医療機器のトライアルとして初期投資を抑えられるクラウドサービスなどの活用を検討してみてはいかがでしょうか?
【企画・編集 株式会社 広瀬企画/2023年7月公開】