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日本
動物医療コラム

発信者情報開示・削除の実務と獣医師の奮闘記(前編)

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

今回は、発信者情報開示手続きの実例についてご紹介いたします。
このコラムを通じて、①どのような書き込みであれば投稿の削除や発信者の情報開示が認められやすいかを理解していただき、②同業の獣医師の方々が不当な書き込みとどのように戦っているかについて知っていただければと考えております。

投稿の削除及び発信者情報開示手続きの流れ

現在大きく分けると2つの方法がありますが、法的に細かい話をお伝えするのは本旨ではありませんので、ここでは裁判が2回必要となる場合があり、

  1. まずはXやGoogleといった投稿の場を提供している相手(サイト事業者)に対し「この書き込みはどこから書かれたか教えて」という裁判に勝ち、情報提供を受けたうえで、
  2. ドコモやソフトバンクといった通信会社に、「御社が管理しているIPアドレスから書き込みがされているから、御社との契約者を教えて」という裁判に勝つ必要があると理解してください。
投稿の削除及び発信者情報開示が認められる要件

投稿の削除や発信者情報開示が認められるためには、書き込まれた内容が、「獣医師(動物病院)の権利を侵害していること(権利侵害)」が必要です。その多くが獣医師や動物病院の名誉毀損や信用毀損という内容になります。この権利侵害の有無を巡って、まずはXやGoogleなどのサイト事業者と裁判で争い、次にドコモやソフトバンクといった通信会社と裁判で争うことになります。

ではどのような書き込みであれば名誉毀損や信用毀損が認められるかについては、

  1. 書き込み内容が事実摘示型か意見論評型か
  2. 社会的評価が低下するか
  3. 反真実か
  4. (意見論評型の場合)意見論評としての範囲を逸脱しているか

の4つの点を検討することになります。
獣医師の皆様が書き込みを見て、投稿の削除や発信者情報の開示をするのか、あるいは任意の削除請求だけするのかという判断にお役立てください。

①事実摘示型か意見論評型か

まず、名誉毀損行為には、大きく分けて2つの類型があります。

  • 事実を摘示する方法によるもの(事実摘示型)
  • 意見・論評を表明する方法によるもの(意見論評型)

両者の区別の方法は次のとおりです。

  • 事実摘示型:証拠等により事実の存否を判断できる場合
  • 意見論評型:主観的な評価や意見の表明の場合

例えば、「Aは獣医師資格を持っていない」という口コミは「獣医師資格をもっているか否か」という事実について免許の有無という証拠によって存否を判断できるため事実摘示型です。これに対し、「A獣医師の態度が悪かった」という口コミは「態度の良し悪し」という個人の主観によって判断が左右される事柄であるため、意見論評型です。

なぜこれが問題になるかというと、事実摘示型か意見論評型かの違いによって権利侵害が認められる要件が異なるからです。
事実摘示型であれば、

  1. 投稿によって獣医師の社会的評価を低下させること
    が認められれば、以下の3要件のうちの一つでも疎明(証明まではいかないけれど、獣医師の話を聞く限りではそうだよなと裁判官に思わせる程度)できれば権利侵害が認められます。
  2. 公共の利害に関する事項に係るものでないこと(公共性の不存在)
  3. 専ら公益を図る目的に出たものでないこと(公益目的の不存在)
  4. 摘示された事実が真実ではないこと(反真実)*1

このうち、2および3は有資格者に独占されている獣医療を担う獣医師に関連する事実であるという理由から、ほとんどの場合にその存在が認められてしまいます。
そうすると、4を裁判官に疎明することが獣医師側として必要になります。

一方、意見論評型の投稿であれば、

  1. 投稿によって獣医師の社会的評価を低下させること

を前提に、事実摘示型の要件の2. 3.に加え、

  1. 意見・論評の前提としている事実が真実ではないこと(反真実)
  2. 人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものであること(逸脱性)

のいずれか1つの疎明が求められます。

しかし、何らかの事実があってそれを誇張したり評価したりしている場合には、前提事実自体は存在していると判断されることが多く、4が認められないことが多いです。さらに、多少の誇張表現では人身攻撃に及ぶ程度の意見・論評とは判断されない(「バカ」程度では足りません)ため、5も認められることは少ないです。
この点について、例えばGoogleクチコミの場合には、基本的には個人の感想を書き込むという性質のサイトであることから、意見論評型と判断されることが極めて多いです。そうなった場合、例えば、「あの獣医師はやぶ医者だ」というクチコミがあった場合、「やぶ医者」と評価される前提事実(例えば誤診をしたか否か)が真実でないということを疎明しなければなりません。獣医師側は、意見・論評の前後の文脈から前提事実を読み取り、その反真実性を主張して裁判官を説得することになります。

以上より、実は具体的な事実が摘示されていた方が獣医師側としては勝ちやすい(投稿の削除や発信者情報の開示が認められやすい)のです*2。そのため、獣医師側としては、まずは事実摘示型であるとの主張をすることがほとんどです。

  • *1 名誉毀損訴訟で問題となる、真実と信じるにつき相当とされる資料の有無(真実相当性)については、書き込んだ者にしか立証方法が無いのでここでは問題となりません。
  • *2 何もコメントせずに星1をつけるものに対しては、日本の裁判所は名誉毀損と判断しません。もっとも、Googleマップの機能から通報すると削除される可能性もあるので、コメントのない星1についてもあきらめる必要はありません。

【2026年2月/文責:弁護士法人 フラクタル法律事務所 弁護士 田村勇人(東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問弁護士)】