このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
書き込み内容を「その書き込みを読む一般読者」が読んだ場合に「獣医師の社会的な評価が下がるのか否か」が問題となります。
例えば、「誤診をした」、「医療過誤で死亡事故を起こした」という書き込みは、一般読者をして、獣医師の過失による事故が起きたのだと理解させるので、獣医師の社会的評価が低下することになります。
「反真実」については、一般人に対する書き込みにおいては疎明が簡単(例:Aは犯罪者だという書き込み→逮捕された、起訴されたという報道は検索をしても出てこない)な場合も多いですが、獣医師に対する書き込み(例:B病院に猫を連れていったこところ、医療ミスを起こされ、うちの猫ちゃんが死んでしまいましたという書き込み)においては、「書き込まれている内容が獣医療過誤に関するもの」という特徴があるので、反真実の立証対象は、「獣医療過誤がないこと」になる場合があります。
つまり、実質、獣医療訴訟における反論をする必要があることになります。ここに獣医師を巡る削除及び開示請求の特徴があります。
しかも、ドコモやソフトバンクといった接続プロバイダが通信ログを保管しているのが最短で3か月であるため、急いで申立てを行い立証をする必要があります。また、医療過誤事件を専門的に取り扱う医療集中部の裁判官とは異なり、削除や開示請求を判断する裁判官は医療知識がほとんどなく、素人と同程度であることが多いです。
ある人医の発信者情報開示の事件においては、裁判官から「腸閉塞を見落としたという記載で名誉を毀損することになるの?」という質問が出ましたが、これもそのような事情を裏付けることになります。裁判官が悪いのではなく、代理人が裁判官に丁寧に医療知識を提供する必要があります。獣医療については人医以上に裁判官に知識がない場合が多く、かつガイドラインが無い場合もありますので、ここが通常は難しいところですが、当事務所は獣医療事件を扱うことが多いため、おかげさまで獣医師の方の協力を得てスムーズに行うことが出来ています。
意見論評型においては、表現が人格非難等の意見論評から逸脱した内容であることも疎明の対象となります。
例えば、医療過誤が実際にあったとして、「獣医師としての最低限の知識も持っていないひどい獣医師であり、ここで診察を受けることはお勧めしない」は意見論評の範囲内でありますが、「こんな事故を起こした獣医師は人間の屑だ。生かしておくべきではない、この病院も潰すべきだ」は意見論評を逸脱したことになります。
この要件については、近時ある獣医師の先生(A先生)の頑張りにより、風穴があいたので実例をご紹介いたします。
従前費用を巡る「詐欺」や「ぼったくり」という表現について裁判所は、「医療機関がぼったくる(欺瞞的行為により不当に高額な料金を徴収する事実)わけがないのであるから、料金を巡る行き違いが起きただけと読むのが一般の読者の読み方であり、獣医師の名誉や信用を毀損しない」という判断をするものが多かったです。
A先生は、グーグルマップに「ぼったくり」と書かれてご相談にいらっしゃいました。当事務所としては勝訴の可能性が低いことをご説明差し上げましたが、A先生は「それでも自分の仲間や後に続く後輩が『ぼったくり』と書かれて何も出来ない世の中であるのは許せない。先生(当事務所のこと)、負けても文句言いませんからやって下さい。採算度外視で戦います」とおっしゃっていただいたため、発信者の開示を求めて裁判所に申立を行いました。
一審は残念ながら敗訴してしまい、高裁へ不服申立てをしましたが、このまま通常の弁護活動をするだけでは勝てないと判断し、「裁判官が世間知らずであるということを、裁判官をけなすことなく理解させたうえで、ぼったくりについて行間を読みすぎる裁判所の判断方法を排除させ、言葉通りの意味に解釈させる」という狙いを立てて、以下のように主張立証を行いました。
- グーグルマップを見るのは日本語が読める全員であるから、平均値である偏差値50をベースに判断するべきである。
- 日本の大学で偏差値50の法学部は一覧表のとおりである。
- 一覧表の大学には法科大学院すら設置されていない。
- 裁判官は司法試験合格者の中でも優秀な人間がなる(今は必ずしもそうではありませんが)。
- 裁判官は優秀すぎるがゆえ、医療機関という背景や文章の行間を読んでしまう結果、「医療機関がぼったくりをするわけがない」という前提をもってしまう。
- 裁判官の偏差値であればそうであろう。しかし偏差値50の人間はあなた方の周りにはいないのである。優秀さゆえの偏差値50の人間との乖離が存在する。
- 一般国民は「ぼったくり」と書かれたら「ぼったくったな」と考えるものである。
この結果、高裁は一審の判断を逆転させ、権利侵害を認めました。 最高裁においても逆転しませんでした。その後、開示された投稿者に対して損害賠償請求の訴訟を提起しています。
A先生が私財を投じて従来の判例と戦ってくれたおかげで、今このコラムを読んでいただいている獣医師の方は、「ぼったくり」と書かれたら適切に名誉を回復できる世界にいます。
このように、「ぼったくり」のような一見意見論評と認められそうな書き込みにおいても、権利侵害が認められるかは大きな争いになることがあります。
本コラムでは、悪い口コミを書かれた場合、どのような要件で裁判所に投稿削除や発信者情報開示が認められるのかをお伝えいたしました。
特に、
- 投稿内容が「事実摘示型」か「意見論評型」かの区別
- 書き込みが獣医師の社会的評価を低下させる内容か
- 書かれている内容が真実に反するかどうか
- (意見論評型の場合)表現が人格攻撃にまで踏み込んでいないか
という4つの視点が、削除や開示が認められるか否かの中心的な判断要素となります。
動物病院としてGoogleに対する任意の削除のみを行うのか、弁護士に相談や依頼をするのかという前段階での知識としてお役に立てれば幸いです。
動物病院への口コミや誹謗中傷は、単なる嫌がらせではなく獣医療過誤に関する専門的な内容を含むことが多いため、反真実性の疎明段階から獣医療の専門知識が必要となり、一般的な発信者情報開示手続きより難易度が高い場合があります。さらに、サイト事業者が通信ログを保有している期間が短いため、スピード感をもって動くことが極めて重要となります。難しい案件や獣医療過誤に関する口コミは弁護士に相談されることをお勧めいたします。
また、獣医師の仲間や後輩のために戦う覚悟のある先生は当事務所も全力で応援しますので、ご相談ください。
【2026年2月/文責:弁護士法人 フラクタル法律事務所 弁護士 田村勇人(東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問弁護士)】
