このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
不幸にも予期せぬ医療事故が起きた場合、または説明はしていたが術前のリスクが現実化した場合には過失がありそうな場合と過失がなさそうな場合とで対応を分けて検討する必要があります。
ただし、獣医師の多くは、「後から見てこうすればよかった」と、つまりレトロスペクティブに考えてベストでなければ過失があると考えてしまいがちです。しかし、法的な過失の有無の判断基準は、プロスペクティブに「当時の限られた情報の中で、周りの(1次診療と2次診療で水準は異なる)獣医師が通常行う対応水準以下であったかどうか」ですので、不幸な結果が出たら直ちに過失があると判断する必要はありません。いずれにせよ、過失の判断は法的な判断であることを理解して、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。
過失がある場合と無い場合とに分けて述べますが、共通して心がけていただきたいのは、下記の通りです。
- 「獣医師」と「飼い主」という役割の違いによって悪意をぶつけられているだけであると考える。
自分の人格のすべてに悪意を向けられているのではないことを理解してください。飼い主も悲しくてほかに感情をぶつける場所もなく大変だな、くらいの気の持ちようでいるようにしてください。 - 「どう解決するか」ではなく「どう対応するか」を考える。
自分ではコントロールできない結論を悩むと心労が増えるだけです。自分が何をやるかはコントロールできますので、出来ることを考えましょう。 - 誰しも経験することであると理解する。
皆さんお話にならないだけで、獣医師人生で複数回起きることは珍しくありません。今後に活かすことは必要でも、自分だけがとんでもないことをしたとは考えないことが必要です。 - 相手を説得しようとしたり自分を防御したりしない。
悲しんでいる最中の飼い主に対して説得を行っても逆効果です。医学的に正しいことは正しいと伝えてもよいですが、どちらが正しい、間違っているという議論は避けましょう。 - 獣医師の友人に愚痴を聞いてもらう。
友人も同じ経験をしている可能性もありますし、家族経営だと家族に話しても不安が増すばかりの場合もあります。
A. なぜ起きたのかの説明
B. 謝罪
C. 適切な賠償を検討している旨を伝える
まずAを明らかにしてからBを行う必要があります。原因を特定しないまま謝罪をしてもポイントをついた謝罪とならないからです。
Aが不明な場合には、そもそも過失が無い場合や、説明が足りなかったという場合が想定されますので、「説明が不足していたこと」を謝罪します。
Cは死亡してしまった場合、一般的に訴訟での損害賠償の目安は犬猫で約20万円程度です。エキゾチックですとさら低額になります。生存している場合には、治癒するまでまたはもうこれ以上改善が見込めない段階までの治療費と、その後の後遺症の程度に応じて慰謝料を算定することになります(死亡の場合よりも高額となる可能性があります)。金額の判断について即断することが難しい場合には、飼い主には「どのような責任の取り方が適切か専門家に聞いて回答差し上げますので少しお時間をください。」と伝えて必ず弁護士に相談してください。飼い主からの提案がある場合には、まずは内容を聞き取ってください。
A. なぜこのような結果が起きたのかを説明
B. 悲しみの共有
C. 不幸な結果は飼い主のせいではないと伝える
そもそもAは不明の場合もありますので、その際には決め打ちせずに、様々な可能性を伝えてください。一つに決め打ちすると、「それであればこうすればよかった」となり、その後の裁判で過失があると認められるリスクが生じます。
そして、Bを省略して自分に過失がないことや、説明した通りのリスクが起きただけですよねというような自己の正当化をしてしまうと、飼い主はその獣医師の態度が気に入らないという理由で紛争が生じることもあります。
実際に「あの薬を飲ませたから死んだのではないですか」と飼い主に言われた獣医師が、「それは説明しただろ、治療にミスがあるというのか、文句があるなら裁判でもなんでもしろ」と言ってしまい裁判になったケースもあります。飼い主がやり場のない感情を目の前にいる獣医師にぶつけているだけと理解して、「前に説明させていただいたとおり、あの薬のせいではありません。(○○という選択をするとこうなる可能性はありました。)つらい結果ではありますが、●●さんのせいではありません。一生懸命悩んでくれて○○ちゃんも感謝しているはずです。誰も悪くなくても生き物である以上、こういうことが起きてしまいます。」という言葉をかけてあげてください。
抽象的には、自分が攻撃されたらちゃんと防御するが、悪くないということを説得しようとはしないという強度での対応をすることがポイントです。
それでも飼い主が納得しない場合には「納得できない部分を教えていただければ回答いたします。」と伝え、後日メールや文書で質問をまとめてもらうようにしましょう。文章でのやりとりを重ね飼い主の質問に回答していく(繰り返しになる場合には打ち切ることも視野に入れる)ことで、紛争化せずに飼い主に納得していただけることも多いです。
上記をまとめると、下記の通りです。
① 飼い主にとっての動物病院の「価値」=「結果」+「経緯」であることを理解する
② 「経緯」の向上には事実を変更するだけでなく「情報の提供」で認識を変更することも重要
③ 「経緯」の向上に「説明が充実した同意書」が有用
④ 事故が起きてしまったら「防御はするが攻撃はしない」程度で対応
⑤ 困ったときは「専門家に相談してちゃんと回答差し上げます」とお伝えし、弁護士に相談
もちろん上記のどの段階においても弁護士に相談することは可能です。
当事務所では獣医師の方の緊急相談ホットラインも開設しておりますので、お困りの場合にはご連絡ください。
【2026年1月/文責:弁護士法人 フラクタル法律事務所 弁護士 田村勇人(東京都獣医師会・横浜市獣医師会・千葉県獣医師会顧問弁護士)】
