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日本
動物医療コラム

スタッフが辞めたいと言い出した!

動物病院経営トラブル対応シリーズ

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

「先生、ちょっとお話があるんですけどお時間いいですか…?」とスタッフから言われると、背筋が凍る思いがするという院長先生も多いのではないでしょうか。動物病院では定年まで勤めあげるというケースは非常に珍しく、多くのスタッフがいずれ退職すると考えておく方が現実的です。特に最近は、入社後短い期間で退職をするスタッフも珍しくありません。私も動物病院の経営をサポートする立場ですので、院長先生と同じようにスタッフの突然の退職申告には頭を痛めますし、「なんと身勝手な!」と腹が立つこともありますが、感情的に対応してしまうことは得策ではありません。

今回のコラムでは、スタッフから退職の申し出を受けたときに冷静に対処できるよう、ファーストアクションのポイントや心構えなどについて書きたいと思います。

1. 感情的にならず冷静に対応する

スタッフから退職の申し出を受けることは、多くの場合大きな驚きを伴いますし、院長先生にとって頭が痛いことです。しかしだからといって「絶対に辞めさせない!」「あなたが辞めたら仕事が回らないのがわからないのか!」「そんな奴はもう明日から来なくていい!」などと感情的、高圧的な態度を取ることは絶対に避けましょう。退職されるだけではなく、パワハラなどの新たなトラブルの火種になる可能性もあり、病院にとって良いことが何もありません。

また退職の話がまとまる前に、退職の申告を受けたことを他のスタッフなどにむやみに言いふらすのはやめましょう。意図せず退職の話が広まってしまうと、当事者の病院や院長に対する不信感にもつながりますし、慰留などもしづらくなります。対応について相談するとしても病院経営に深く関与している人や、信頼ができる人などにとどめ、その人にも他の人にはまだ話さないよう口止めをしましょう。まずは落ち着いて淡々と対応をすることが何よりも大切です。

2. 退職する権利は法律で守られていることを理解する

憲法22条では「職業選択の自由」が規定されており、誰しもが自由に職業を選ぶことができると保障されています。また民法では「期間の定めのない雇用契約の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、2週間経過すると退職となる」旨が定められており、つまり法律上は2週間前に申告すればスタッフはいつでも退職できる、ということになっています。

したがって仮に就業規則等でどのように定めてあったとしても「うちでは退職は1年前に申告するルールになっているので退職は認めない」ということはできませんし、「繁忙期が終わるまでは退職させない」などと強要することもできません。

もちろん病院の事情などを踏まえてスタッフと退職の時期を相談したり、就業規則で退職の申告時期に関するルールを設けること自体は自由ですが、あくまでも上記の法律が優先されることを忘れないようにしましょう。

3. ヒアリングをして受け入れる or 引き留めるを検討する

まずは本人から退職する理由や退職後にどうするつもりなのかなどをしっかりと聞き取る必要があります。退職の理由によっては、本人が感情的になっていたり深刻なトラブルを抱えている可能性もあります(病院に大きな不満がある、院内の人間関係で悩んでいるなど)。対応のまずさで話がこじれることを防ぐためにも、ヒアリングは本人に配慮して周囲の目が届かない場所で、本音を話しやすい環境を作って実施しましょう。

今の仕事が辛い、ステップアップの転職を考えている、他の業界に進みたい、結婚・出産、転勤や介護など家族の都合…。スタッフが退職を考える理由は様々ありますし、ひとくちに「今の仕事が辛い」といっても、人間関係、労働時間、仕事内容、給与、飼主様との関係、ハラスメントなど、その内容は千差万別です。まずはその理由を正確に確認することが大切です。このときも感情的になったり、「それはわがままだ!」「こんなに好待遇にしてやってるのに!」などと申告内容を頭ごなしに否定するような発言はしないように気を付けましょう。真意を把握できなくなってしまいます。

ヒアリングの中で退職の理由やその決心の固さなどを把握したら、その退職を受け入れるか、引き留めるかを検討します。この判断の基準は病院や院長先生によって様々だと思いますが、一般的には明確に他にやりたいことがある場合や、解決しようのない不満がある場合は慰留は難しいことが多いでしょう(既に転職活動をしていたり、他社の内定をもらっている場合もあります)。一方で、退職の理由が曖昧で勢いで退職を申告してきた場合や、単に自信を無くしている場合などは、寄り添ったり励ましたりすることで退職を踏みとどまってくれることもありますし、待遇面の要望(給与や時短にしてほしいなど)の場合も病院側と折り合いがつけば慰留できる場合があります。

退職理由やその切迫度などを総合的に判断して、退職を受け入れるのか、引き留めるのか、病院としての大きな方向性を決めましょう。


ここまでが、スタッフが辞めたいと言いだした際のファーストアクションです。忙しい日々の中でスタッフから退職の申し出をされると、驚いたり、腹が立ったり、院長先生の気持ちもすり減ってしまうのはやむを得ないことですが、そこで感情的な対応をしてしまうとより事態が悪化します。極力冷静な対応に努めましょう。

退職が決定した際の対応や留意点についても今後のコラムで紹介していきたいと思います。
過去には「スタッフの定着率を向上するためのポイント」というコラムも書いていますので、合わせてご一読いただけますと幸いです。

まとめ:感情的にならず冷静に対応する/退職する権利は法律で守られていることを理解する/ヒアリングをして受け入れるor引き留めるを検討する

【2025年12月/文責:動物病院経営パートナーEn-Jin 代表取締役 古屋敷 純】