このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
獣医療業界では、飼い主様のニーズの変化や情報収集手段の多様化が進み、新規開業を目指す獣医師にはこれまで以上に時代に合った病院づくりが求められています。本コラムでは、新規開業時に抑えておきたい2026年の獣医療業界動向について、予防ケア、来院していただく意義の観点から解説します。
2026年の新規開業においては単に病気を治療するだけではなく、健康な時から継続的に病院と関わる機会を提供できる病院づくりがますます重要になると考えられます。
その中心となるのが予防ケアです。
これまで予防というと、ワクチン接種やフィラリア予防、ノミ・マダニ対策などが中心に捉えられることが一般的でしたが、今後はそれらに加えて、年齢や生活環境に応じた健康管理、体重管理、生活習慣の見直し、シニア期を見据えた健康診断の提案など、より広い意味での予防ケアが求められるようになるかと思います。
新規開業時に予防ケアを重視することには、経営面でも大きな意味があります。
具合が悪くなった時だけ来院する関係ではなく、日頃から相談しやすい関係を築けるため、継続受診や病院への信頼につながりやすくなります。また、飼い主様にとっても、病気の早期発見や生活の質の維持につながるメリットがあります。
「治療のための病院」だけではなく、「健康寿命を支える病院」として認識されることが、今後の新規開業では重要になります。
- はじめての子犬子猫教室
- 予防デビュー相談会
- 食事・栄養相談会
- 避妊去勢相談会 など
- 体重管理・食事相談会
- デンタルケア教室
- 健康維持相談会
- おうちケア見直し教室
- 問題行動・ストレス相談会 など
- シニアの健康チェック教室
- シニアの食事相談会
- 足腰ケア相談会
- シニア介護相談会
- 認知機能ケア相談会 など
また、健康診断の項目に、疾患の早期発見につながる検査を取り入れることも有効です。健康診断は、病院と飼い主様が継続的にコミュニケーションを深めるきっかけにもしやすいため、これまで導入していなかった検査についても前向きに検討する価値があるでしょう。たとえば、尿検査や血液検査の中には、疾患の早期発見につながる項目もあります。症状が出る前の変化を把握するためにも、健康診断の内容を見直しながら、自院に合った検査の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
近年は、フードやサプリメント、ケア用品など、さまざまなものがインターネットで手軽に購入できるようになりました。飼い主様が必要な情報も、WEB検索やSNSを通じてすぐに得られる時代です。さらに、日常生活のあらゆる場面で効率化が求められ、オンラインで完結するサービスも増えています。
こうした時代だからこそ、動物病院に実際に足を運んでいただく意味を、あらためて考えることが重要です。飼い主様にとって来院は、時間も手間もかかる行動です。それでも病院を選び、来院してくださるのは、病気の治療を受けることが大前提としてありながら、それだけではなく、対面だからこそ得られる安心感や納得感、信頼できる判断材料を求めているからではないでしょうか。
新規開業時には、設備や診療内容、情報発信の整備といった販促の部分に目が向きやすくなりますが、それと同じくらい大切なのが、来院してくださった飼い主様に対する姿勢です。「ネットでも買えるものかもしれない」「ネットでも調べられることかもしれない」、それでも病院に来てくださった。その事実に対して、謙虚さと感謝の気持ちを持つことは、これからの病院経営において欠かせない視点といえるでしょう。
だからこそ、病院として考えたいのは、対面でしか提供できない価値とは何かということです。
たとえば、ちょっとした表情の変化や声のトーンから不安をくみ取ること、飼い主様が言葉にしきれない迷いを整理すること、その子の生活背景までふまえた説明を行うことなどは、オンラインだけでは代替しにくい部分です。その子のためのオーダーメイドな診察が今後はより重要になってくると考えています。
診療そのものだけでなく、こうしたやり取りの積み重ねが、「この病院に相談してよかった」という実感につながります。
また、来院された飼い主様に対しては、「何を求めて来てくださったのか」を丁寧に考えることも大切です。
不安を解消したいのか、納得できる説明がほしいのか、できるだけ早く判断したいのか、それとも今後の見通しまで含めて相談したいのか。
求めているものは飼い主様ごとに異なります。だからこそ、病院側が一方的に情報を伝えるだけではなく、相手が何を期待しているのかをくみ取り、その期待を少しでも超える対応を目指すことが重要です。
なんでも手に入る時代、なんでも調べられる時代だからこそ、動物病院に求められる価値は、以前より複雑になっているのかもしれません。
新規開業時には、何を提供するかだけでなく、なぜ飼い主様が来院してくださるのか、来院してくださった方にどのような価値を返せるのかを、あらためて考えておくことが大切です。
その積み重ねが、地域の中で長く信頼される病院づくりにつながっていくでしょう。
【2026年5月/文責:株式会社サスティナ チーフコンサルタント 福永健吾】
