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日本
動物医療コラム

猫とSAAと私

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

はじめに

「SAA」という単語を目にしたとき、最初に思い浮かぶのは何でしょうか? もしそれが「猫の炎症マーカー」であるなら、筆者にとって望外の喜びです。苦労してきた甲斐はあるなぁと、感慨もひとしおです。

苦労の果てに……

当時の私は当然研究や実験などほぼ経験がなく、すべてが手探りでした。また、研究室として分子生物学的手法は得意としていたものの、どちらかというと遺伝子解析が主体であり、組み換えタンパク質の作成や解析についてのノウハウは不足していました。そのため、あれこれ勉強しながら試行錯誤する日々であったことを思い出します。

昼間は講義や実習、それがなければ診療に参加し、夜は論文や資料を読み込む日々。しかし、論文一つ探すにも慣れていないし、そもそもその当時SAAに関する研究論文はあまり多くありません。タイトルにSAAと入っていたので頑張って読んでいたら、実はSevere Aplastic Anemia(重症再生不良性貧血;頭文字を拾うとSAA……)に関する論文だった、なんてこともありました。診療のない日や土日に実験室で試しては失敗し、その原因をあーでもないこーでもないと考えていました。

この論文を発表した1、2年後には、いくつかのコマーシャルラボが猫SAAを検査として受託するようになりました。しばらくの間は外注検査としてしか利用できなかったこともあり、普及にはさらなる時間を要しましたが、ここから日本国内で猫の炎症マーカーとしてのSAAの歴史が始まっていきます。そして、私が「知る人ぞ知る猫SAAの人」としての道を歩み始めた瞬間でもあります。

世界一の猫SAA研究者!?

前述のように学部学生のころから猫のSAA研究に携わってきた私は、当時研究のために血液検査を実施した猫のSAAを片っ端から測っていました。データを見返すと、2,000件くらいは測定していたようです。おそらく当時、個人としては世界一多くの猫SAAを測定した人間だったのでは?と思っています。

大学院でも引き続きSAAの研究をしていた私は、もう一つ世界一を目指そうとひそかに目論んでいました。

猫のSAAの研究というのは、正直に言ってかなりマイナーな分野です。論文検索サイトのPubMedで「feline SAA」というキーワードで検索をすると、引っかかってくる論文は現在でも100件ほど(2024年11月現在)、大学院在籍当時は60件くらいでした。これが「feline lymphoma」だと1,600件ほどですから、SAAがマイナーであることがよくわかります。このマイナーな分野を研究するのであれば、その分野で世界一になってやろうと考えたわけです。

大学院での研究はSAAの機能面などに注目したため、臨床に直結するものではありませんでしたが、環境にも恵まれて多くの論文を執筆することができました。先ほどのキーワードを「feline SAA tamamoto」として検索すると、8件がヒットします。そのうち7件は、私自身が執筆したものです。猫SAAに関連する論文の約1割に関わっており、その大半を自分で執筆したことは私の秘かな自慢です。そして、当時としては世界一を達成できていたのでは?と思っています。