このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。
犬と猫の変形性関節症は、関節軟骨の変性や摩耗により慢性的な炎症や疼痛を引き起こす進行性疾患です。
日本大学動物病院の報告では、レントゲンで確認できただけでも10歳以上の犬では約45%、猫では約60%以上がOAあるいは変形性脊椎症に罹患しているとされています。
しかし、その一方で、運動器疾患を主訴として来院する割合は、犬で10.5%、猫では2%にとどまるというデータも。
この背景には以下のことがあります。
- 行動変化が「加齢」として認識されやすい
- 猫では顕著な跛行を示さないことが多い
- 徐々に進行するため変化に気づきにくい
OA診療において大きな課題となるのが、「画像上での変化と症状出現のタイミング」です。
一般的にOAでは、
- 軟骨変性
- 滑膜炎
- 軟骨摩耗
- 骨棘形成
といった変化が段階的に進行します。
初期には軟骨レベルでの微細な変化が主体である一方、X線検査で確認しやすい骨棘形成などの変化は、ある程度病態が進行した段階で出現します。
つまり、画像上で異常が確認できた時点では、すでに関節内では慢性的な変性が進行している可能性が高いということです。
CⅡNEは、軟骨の主成分であるⅡ型コラーゲンが分解された際に生じる断端部です。
OAでは炎症や軟骨変性に伴いⅡ型コラーゲンの分解が進行し、その結果としてCⅡネオエピトープが血中や尿中へ放出されます。
つまりCⅡNEは、「軟骨変性そのもの」を反映するマーカーとして位置づけられています。
CⅡNEは軟骨変性に伴うⅡ型コラーゲン分解が始まった時点で上昇するため、明らかな画像変化や症状の発現より前段階でOAを検出可能です。
この点が、CⅡNEの大きな特徴といえるでしょう。
CⅡNEは尿検査で測定可能なため、動物への侵襲が少なく、定期健診へ組み込みやすい検査と考えられます。
CⅡNEは、明らかな運動器症状が乏しい個体における「運動器検診」の一環として活用が期待されています。
たとえば、
「歩けてはいるが、以前より散歩を嫌がる」
「ジャンプはできるが、回数が減った」
「触診では大きな異常がない」
といった症例では、画像検査を実施しても原因が特定できないことも多く、実施に踏み切れないケースもあるでしょう。
CⅡNE高値が確認されれば、追加で画像検査や運動器評価へ進むことができます。
OAによる活動量低下や慢性疼痛は、それ自体が生活の質に影響を与えます。
CⅡNEにより軟骨破壊を早期に検出することができれば、早期から対策が可能となり、結果として健康寿命の延長につながります。

CⅡNEの解釈にはいくつかの注意点があることも述べておく必要があります。
CⅡNEはあくまで「早期発見を補助する検査」であり、単独でOAを診断できるものではありません。
先に述べた通りCⅡNEが高値を示した場合には、
- 歩行評価
- 触診
- X線検査
- 超音波検査
などを組み合わせた総合的評価が必要となります。
また、結果解釈においてはいくつかの注意点があります。
OAが重度まで進行すると、分解されるⅡ型コラーゲン自体が乏しくなるため、CⅡNEが上昇しない場合があります。
そのため、低値だからOAではなかったとは必ずしもいえない点には注意が必要です。
ただし、このような重度のOAの多くは、疼痛等の症状を呈したり、画像上の異常がみられたりするため、OA自体の診断は可能でしょう。
CⅡNEはOA進行のモニタリングツールとしては推奨されていません。
先に述べたようにOAが進行するとCⅡNEは低値になるためです。
CⅡNEはスクリーニングとしての位置づけを理解したうえで活用する必要があります。
以下のような場合はCⅡNEが高値となる可能性があります。
- 2歳未満の成長期
- UPC高値症例の一部
- 変形性脊椎症
- その他の整形外科疾患に伴う二次的な滑膜炎
UPC高値の症例では、一部においてCⅡNEの高値化が認められています。
そのため、CⅡNE測定時にはUPCも同時に評価し、UPCが高値の場合はCⅡNEの結果解釈に注意が必要です。
また、OA以外にも変形性脊椎症ではCⅡNEが高値となる可能性があります。
変形性脊椎症は脊椎の変性性疾患であり、変形性関節症と同様にⅡ型コラーゲンの分解を伴うためです。
一方、骨折や捻挫、膝蓋骨脱臼などの整形外科疾患では基本的にCⅡNEに大きな影響を与えないとされていますが、二次的な滑膜炎が生じている場合には高値を示す可能性があります。

以下の場合、検査結果が高値/低値になる傾向が
ありますので、結果の解釈には注意が必要です。
<高値になる場合>
- 2歳未満の成長期
- 蛋白尿(UPCなど)の症状がある場合
<低値になる場合>
- 臨床徴候のあきらかな重度のOA
(Ⅱ型コラーゲンがすでに少ないため)
今後、犬猫の高齢化に伴い、OA診療の重要性はさらに高まると考えられます。
その中で求められるのは「痛みが出たら治療する」ではなく、「痛みが出る前から管理する」という視点です。
CⅡNEは、その入り口となる軟骨破壊を検出するスクリーニング検査として有用です。
ご家族さまが犬猫の運動器健診に目を向ける契機となるという点では、臨床的意義は大きいと考えられます。
特に一次診療では
- 「まだ歩けているから様子見」
- 「年齢相応かもしれない」
- 「画像検査までは踏み切れない」
という症例は少なくありません。
そうした症例に対して「運動器健診」という新しい切り口を提供できる点が、CⅡNEの大きな価値のひとつと言えるでしょう。
【執筆:株式会社Livet 代表取締役 陶山雄一郎(獣医師)】

