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日本
動物医療コラム

FIPの胸水・腹水の見え方

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

貯留液の分類

こちらは前置きですので、早く知りたい方は飛ばして「FIP貯留液の見え方」をご覧ください。
貯留液分類の仕方を二つ、ご紹介します。ひとつは古典的分類(表1)です。TPとTNCCが高いものを“滲出液”、中間のものを“変性漏出液”、低いものを“漏出液”、とするものです。分類が簡単で、今でもよく使われますが、原因とは必ずしも相関しません。古典的分類の“滲出液”は単にTPとTNCCが高いだけですので、分類は“滲出液”でも乳び胸や出血による貯留液も入ってしまうことがあります。“変性漏出液”は幅が広く、多くの原因による貯留液が“変性漏出液”になってしまい、結局原因追及に役立てにくいという問題もあります1), 2)

表1 古典的分類
分類 TP(g/dl) TNCC(/μL)
漏出液 <2.5 <1500
変性漏出液 2.5-7.5 1000-7000
滲出液 >3.0 >7000

古典的分類の問題点を受けて、病態的分類(表2)というものが考え出されています1), 2)。貯留液が溜まる原因にフォーカスした比較的新しい分類です。①滲出液、②漏出液、③出血性貯留液、④リンパ性貯留液、⑤腫瘍性貯留液、⑥管腔臓器の破綻があり、古典的分類と大きく違う特徴としては変性漏出液がありません。TPやTNCCはあくまでひとつの目安として考え、たとえばTNCCが仮に低くても、あきらかに炎症が原因であれば滲出液に分類されます。私は診断書を書くときにはこちらを用いています。

表2 病態的分類
滲出液
分類 TP(g/dl) TNCC(/μL) 原因や特徴まとめ
感染性​ ≧2.0​ >5000​ 病原体(細菌や真菌など)の感染による炎症で生じる。細胞診では好中球増加、病原体貪食、好中球変性がみられる​。
非感染性​ ≧2.0​ >2000​ 非感染性の炎症(膵炎・異物・臓器捻転・壊死・腫瘍随伴性)で生じるほか、潜在的感染のこともある。細胞診では好中球増加があるが、病原体貪食や好中球変性がない​。
FIP関連性​ 多くは≧3.5​ 多くは2000-6000​ FIPによる血管炎で生じる。特徴は本稿で詳述​。
好酸球性​ さまざま​ 多くは>5000​ 腫瘍を含むさまざまな原因で、好酸球性の炎症を生じる。細胞診で好酸球≧10%となる。​
漏出液​
分類 TP(g/dl) TNCC(/μL) 原因や特徴まとめ
低蛋白性​ <2.0​ <1500​ 血管内外の圧の差(例:肝硬変・門脈疾患・蛋白喪失性疾患等)で生じる​。
高蛋白性​ ≧2.0​ <5000​ 血管内外の圧の差(例:うっ血性心不全・腫瘍)で生じる​。
リンパ性貯留液​
分類 TP(g/dl) TNCC(/μL) 原因や特徴まとめ
乳び性​ さまざま​ <10000​ 乳びを含むリンパ液が体腔に貯留し生じる(例:うっ血性心不全、甲状腺機能亢進症、腫瘍)。乳びの性質があり(肉眼で白色調・貯留液TG>100mg/dl)、細胞診ではリンパ球優位のことが多い​。
非乳び性​ ≧2.0​ <10000​ 乳びを含まないリンパ液が体腔に貯留し生じる。乳びの性質はみられない。細胞診ではリンパ球優位のことが多い​。
その他の貯留液​
分類 TP(g/dl) TNCC(/μL) 原因や特徴まとめ
出血性貯留液​ ≧2.0​ >2000​ 体腔内出血により生じる。肉眼的な色調・貯留液のHCTが鑑別に有用。細胞診では血液成分がみられ、ヘモジデリンや赤血球貪食像がみられやすい​。
管腔臓器破綻
(胆汁性)​
多くは>2.0​ 多くは>5000​ 胆道の破綻で胆汁が腹腔に出て生じる。腹水と血清でのTBILの比較や胆汁酸の比較が有用。細胞診では胆汁色素が検出されることがある​。
管腔臓器破綻
(尿性)​
多くは<2.0 ​ さまざま​ 尿路の破綻で尿が腹腔に出て生じる。腹水と血清でのCREの比較やKの比較が有用。細胞診では尿結晶が検出されることがある​。
腫瘍性貯留液​ 多くは>2.0​ 多くは>2000​ 腫瘍によって生じる。腫瘍の進行程度や種類によっては漏出液に似たもの、乳び性貯留液に似たものなど、さまざまな特徴をもつことがある。細胞診では腫瘍細胞が出現しやすい​。

分類するにはいくつかの検査が必要ですが、少なくとも細胞診、総有核細胞数(TNCC)、総蛋白濃度(TP)が必須です。場合により特殊な生化学が必要になることもあります。TPは屈折比重計を用いて測定ができます。TNCCは血球計算機にかけて測定が可能ですが、機械のデータが間違っていることもあります。貯留液はかならず直接塗抹標本と沈渣塗抹標本をつくり、細胞診でもTNCCが正しいかみておくとよいでしょう。ひとつの目安として直接塗抹標本で細胞がしっかり広がった単層領域(モノレイヤー)にて細胞を数え、平均の細胞数に対物レンズ倍率の2乗をかけることで、ある程度の概算ができます。

FIP貯留液の見え方

本題のFIPの話に入ります。症例(図1)をご覧ください。まず肉眼像はご存じの通りの黄色、高粘稠性が典型例ですが、出血や乳びをともなうような非典型的な例もあります。

図1 FIPの貯留液検査所見
症例イメージ

猫 雑種/8か月齢/未去勢雄 胸水細胞診(直接塗抹) 弱拡大

症例イメージ

猫 雑種/8か月齢/未去勢雄 胸水細胞診(直接塗抹) 強拡大

140 ml
肉眼所見(Pre spin)黄色・高粘稠性
肉眼所見(Post spin)黄色・高粘稠性
TP (g/dl)5.2
TNCC (/μL)5540
好中球 (%)91(非変性性)
リンパ球 (%)9
マクロファージ (%)0
好酸球 (%)0
FIP貯留液の検査上の特徴

検査上の特徴として、総蛋白濃度(TP)が高いことが第一にあげられます。通常TPが少なくとも3.5g/dlを超えます。著しく高い場合はほぼすべての例でFIPか骨髄腫関連疾患(MRD)の二択です(若齢ならばFIPの可能性が高い)。しかしながらそこまで極端な重度高蛋白にならないケースも多いため、細菌感染、心不全、甲状腺疾患、悪性腫瘍等と迷うかもしれません。

FIPの貯留液は上記の病態分類では滲出液に該当します。普通の滲出液(膿胸・膵炎等)は炎症反応により総有核細胞数(TNCC)とTPが並行して上がっていきます。これに対してFIPの場合、血管透過性の亢進で血漿蛋白が体腔に出るのでTPは高くなりますが、TNCCは不自然なほど上昇しません。FIPは体腔の炎症というよりも血管の炎症が主な機序であるためです。TNCCは中程度の増加(だいたい2000-6000/μLが多い)となり、滲出液にもかかわらず5000を下回るケースもよくみられます。つまりTPが異常に高いにも関わらず、TNCCがさほど高くない、むしろ低い貯留液は高い確率でFIPです3)。TNCCが高いからといってFIPの除外はできませんが、可能性は低くなると考えていいと思います。

FIP貯留液の細胞診上の特徴

図2の左側(FIPの細胞診)をご覧ください。FIPでは背景が特徴的で、三日月のようなしわ(protein crescent)や、赤から紫の顆粒状蛋白成分(stippled protein)がみられます。参考までに図2の右側に乳び胸の細胞診を示します。背景を比較してみてください。

このような背景変化は凝集した蛋白成分によるもので、FIPにおいて認めやすい所見です。有核細胞は多くの場合、非変性性好中球が主体でマクロファージが混在します。例外もありリンパ球主体となることもありえます3)。細菌貪食像や好中球変性、その他炎症を起こす原因がないこと、腫瘍細胞が出ていないことも確認しておきましょう。

図2 FIPと乳び胸の細胞診比較

FIPの細胞診(図1 再掲)

症例イメージ

乳び胸の細胞診

その他の検査

この段階までで、ある程度FIPらしい、またはFIPらしくないという予想は立てられます。貯留液を用いたFIPの検査は、教科書上はいろいろとあるのですが、簡単にできるものには貯留液A/G比、リバルタ試験があります。たとえばTP3.5g/dl以上かつA/G比1未満という基準では、陽性反応適中率が94%、陰性反応適中率が100%で、つまりどちらかでも合致しなければFIPである可能性は低いと考えます3)

リバルタ試験は希酢酸に貯留液を一滴重層するもので、陽性例は白雲状の凝固成分が沈んでいくのがみえます。感度は91-100%、特異度は66-81%で、FIP以外もさまざまな疾患が陽性になってしまい、確定に使えませんが、簡単にFIPを除外する目的で用いられます4)。具体的なやり方や陽性例は技術資料に掲載の通りです。方法を統一したほうがばらつきのない結果が得られますので、基本的にはこの技術資料通りのやり方が望ましいと思います。ですが蒸留水や試薬の酢酸を用意するのが大変に感じるかもしれません。代替的なやり方として、蒸留水を水道水で代用、試薬の酢酸ではなく食用酢で代用(論文上ではホワイトビネガーやワインビネガー)も一応可能で、たとえば水7mlにワインビネガー0.2mlを加え代用しても似たような結果になると報告されています5)

やはり「FIPっぽい」ときは?

臨床像に加え、ここまでの検査の積み重ねでFIPの検査前確率(事前確率)が高いと思えたら、貯留液を用いてRT-PCRを実施されることをお勧めします。貯留液を用いたRT-PCRによるコロナウイルスの検出は、FIPを高い感度、特異度で検出でき、感度は72-100%、特異度は83-100%とされています6)。詳細は技術資料をご覧ください。

まとめ

技術資料の繰り返しになりますが、FIPは単独の臨床検査で確定診断をすることができません。RT-PCRを行うとしても、その前段階で「FIPっぽさ」を確認しておくこと、他の病気がないことを確認し、まさに「レンガを組み上げる」ように、検査前確率(事前確率)を上げておくことが有効です。

【執筆:富士フイルムVETシステムズ 診断医(臨床病理) 島田優一】

〈参考文献〉
  1. Stockham, S. L., & Scott, M. A. (Eds.). (2025). Fundamentals of veterinary clinical pathology. John Wiley & Sons.
  2. Dempsey, S. M., & Ewing, P. J. (2011). A review of the pathophysiology, classification, and analysis of canine and feline cavitary effusions. Journal of the American Animal Hospital Association, 47(1), 1-11.
  3. Raskin, R. E., Meyer, D., & Boes, K. M. (2021). Canine and feline cytopathology: a color atlas and interpretation guide. Elsevier Health Sciences.
  4. Felten, S., & Hartmann, K. (2019). Diagnosis of feline infectious peritonitis: a review of the current literature. Viruses, 11(11), 1068.
  5. Fischer, Y., Weber, K., Sauter-Louis, C., & Hartmann, K. (2013). The Rivalta’s test as a diagnostic variable in feline effusions–evaluation of optimum reaction and storage conditions. Tierärztliche Praxis Ausgabe K: Kleintiere/Heimtiere, 41(05), 297-303.
  6. Thayer, V., Gogolski, S., Felten, S., Hartmann, K., Kennedy, M., & Olah, G. A. (2022). 2022 AAFP/EveryCat feline infectious peritonitis diagnosis guidelines. Journal of feline medicine and surgery, 24(9), 905-933.