技能・技術継承の取組みとは?よくある課題と解決策・事例を紹介

2022.09.21

技能・技術継承の取り組みとは?よくある課題と解決策・事例を紹介

技能・技術継承の取り組みとは?よくある課題と解決策・事例を紹介

現在、日本全体の課題として技能・技術の継承問題があります。少子高齢化問題と、高度経済成長期を支えてきた職人たちの引退が相まって、ものづくりの技能・技術を受け継ぐ人と継承させる人が不足しています。これは企業においても同様で、企業固有の技能・技術を継承していくことができなければ、企業の存続に関わります。

近年IT技術の発展は著しく、ものづくりの多くは製造機械の設備さえあれば、いかなる場所でも同じクオリティの製品を同じ時間で同じ分だけ作れるようになっています。また、企業のグローバル化もあって企業固有の技能・技術が世界へ流出し、固有の技能・技術の価値が薄れるだけでなく、日本国内で継承される機会が減っているのです。

こういった事態に陥ると、企業は日本国内だけで成長し続けることが難しくなり、技能・技術という貴重な資産も衰退して企業内で悪循環を生み出してしまうことに繋がります。

「技能」と「技術」は同じような意味で使われることがありますが、それぞれ示すものが明確に異なります。具体的には、以下の通りです。

【技能と技術の違い】
  • 技能
    人の腕前や能力のこと。属人的で、人に継承していくことが難しい。職人技と呼ばれる、経験によって培われる技も「技能」に当てはまる場合が多い。
  • 技術
    ものごとの取り扱いや処理する際の方法・手段のこと。「運動技術」「建築技術」「IT技術」のように、手順書などがあれば比較的誰でも真似できるものが多い

つまり、「技術」は手順書作成やシステム化といった方法で後世に残していくことが容易であるのに対して、技能は職人技をベテランが若手へ教えるため、継承するのに時間と経験が必要になります。

企業の中で技能・技術継承がうまく行われない原因は少子高齢化や企業のグローバル化だけでなく、以下のようにさまざまな理由が挙げられます。

【技能・技術継承がうまく行われない要因例】
  • ベテランの技能・技術継承に関する意欲が低い
  • 若手の技能・技術継承に関する意欲が低い
  • 技能・技術継承に時間をかけられない
  • 技能・技術を引き継ぐ人材が不足している

これらは、継承がうまくいかない企業の多くが直面している問題です。単純に少子高齢化によって若手の人材が不足しているのもありますが、ベテランや若手に継承に対する意欲を向上させる機会がないといった問題もあるのです。

ベテランの技能・技術継承に関する意欲が低い

ベテランは、若手に技能・技術を教えるメリットを感じにくい傾向があります。教える側が経営者自身ならまだしも、一社員が教えるとなると、教えたことで自分にどれだけのメリットがあるのか感じにくいため、教えることに意欲的になれない人が多いのです。

また、教えている期間とは、ベテランの労働効率が少なからず低下します。その上、本当に若手が技能・技術を身に付けてくれるかもわからない状態で教えていかなくてはならないため、ストレスがかかりやすくなります。

企業は、ベテランに技能・技術を教えてもらうためにもベテランが教えることで得られるメリットを提示するなど、工夫をする必要があるでしょう。加えて、ベテランは技能・技術は持っていても、教えるスキルを持ち合わせていない場合も多いため、企業側が教えるためのバックアップ体制を整えるのも重要になります。

若手の技能・技術継承に関する意欲が低い

継承がうまくいかない企業では、若者が技能・技術に関心や意欲を示しやすくなるような環境が作られていない場合が多いです。そのため、ベテランが教えようとしても関心や意欲のない若手には響きにくく、効果的な教育を進めることができません。

技能・技術の継承においては、基本的に若者自身に「習得したい」という意欲がなければ、後世に正しい技能・技術を残していくことができません。企業のものづくりの質を損ねないためにも、若手に対して関心や意欲を高める取り組みを行っていくことも重要です。

技能・技術を引き継ぐ人材が不足している

技能・技術を継承できない理由の中で最も問題視されているのが、人材不足です。そもそも、教える人がいたとしても継承していく若手がいなければ意味がなく、企業を存続させていくのは不可能といえるでしょう。

実際に、経済産業省が発表した「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」の資料では、『人手不足は、94%以上の大企業・中小企業において顕在化しており、32%の企業は「ビジネスにも影響が出ている」』というデータがあるくらい、人材不足は深刻な問題となっています。

技能・技術は誰にでも教えればよいというわけではなく、適した人材に継承していかなくては意味がありません。そのため、企業が継承に適した人材を、どのようにして入手すべきかを検討し続ける必要があります。魅力的な言葉でアピールするだけではなく、企業の業の技能・技術が若手にどんなメリットを与えるのかを的確に伝えることが重要なのです。

技能・技術継承に時間をかけられない

技能・技術を継承するには、長い時間を要します。みっちり教えたからといって、1週間後にすぐ習得できるというものではありません。技術に関しては、最適なマニュアルを作成できればある程度教えることができますが、技能の場合は人から人へ実践を交えながら教えるしかないため、一朝一夕では継承できません

企業には、売上を上げ続ける義務があります。しかし、技能の継承を進めようとすると、ベテランの労働効率を落として若手の育成に労力を費やさなくてはいけなくなるため、「現状の売上」と「将来への投資」のバランスを取ることが求められます。また、企業は技能を継承するにあたり、長期的な目線で利益が出ることを想定し、計画的に取り組む必要があります。技能をうまく継承できない企業には、こうしたバランスがうまく取れていない問題があると言えるでしょう。

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技能・技術の継承を業務の一環として進めていくと、さまざまな課題が発生していくことが想定されます。以下は、継承を進めていく上で、よく発生する3つの課題です。

  • ベテランの残業時間が増える
  • 継承すべき技能・技術が多い
  • 若手が指導についていけない

これらの課題は、以下に取り組むことで解決できます。

  • 就業時間内に指導の時間を設ける
  • テランのノウハウの棲み分けを行う
  • 若手の習熟度に合わせて指導する

就業時間内に指導の時間を設ける

就業時間内に指導の時間を設けないと、従業員の残業時間が増えてしまいます。

こうした事態を避けるために、就業時間内に技能・技術継承の時間を規則的に設ける必要があります。仮に業務が追いつかない可能性がある場合は、ベテランが一人で背負うことがないよう企業全体でフォローすることが求められます。

基本的にはベテランと若手が同じ現場に入ってOJTを行えば、時間を無駄にすることなく教育できます。しかし、技能を継承する場合は、技能継承を一つのタスクとみなして他の仕事を調整するなどの工夫が必要になってくるでしょう。

ベテランのノウハウの棲み分けを行う

継承する技能・技術のボリュームが大きいときは、教える項目に優先順位をつけるため、細分化することをおすすめします。しかし、細分化は簡単な作業ではありません。技能は言語化・可視化しにくい定性的なものであるためです。

技術は、マニュアルを作成すればある程度工程を細分化できるため、優先順位をつけやすいです。しかし、技能の場合はベテランが蓄積してきた長年の勘やノウハウを細分化しなくてはいけないため、複数人で技能の工程を確認し、できる限り言語化・可視化できるように書き出さなくてはなりません。

アバウトなものであっても技能の書き出しを実施できれば、改善を加えていくことで今後の技能継承に役立てていくことも可能なため、効率的な技能継承を目指せるようになるでしょう。

若手の習熟度に合わせて指導する

若手が指導についていけない原因の多くは、ベテラン(指導する側)が若手(指導される側)の理解度を把握せずに指導を進めてしまうところにあります。ベテランがすべて悪いというわけではなく、教えられた技能をどこまで理解できているかを若手自身も把握しにくい点も問題として挙げられます。

技能はベテランの勘や経験に頼りやすい傾向があるため、技能を教育するシステムの中で基準となる目安を明確に設けて、若手の育成度合いを計ることが求められます。

例えば、技能自体ではなく製品のクオリティなど、技能の周りにあるものを基準にすることで、若手の育成度合いを計りやすくなります。

実際に技能・技術継承が成功している企業と失敗してしまっている企業では、特徴に大きな違いがあります。

例えば、成功している企業は「若手や中堅が中心」「ベテランの役割が指導役と定まっている」などの特徴があり、人材の定着率も高い傾向です。逆にうまくいってない企業は、「中堅が不足・ベテラン中心」「指導者と指導を受ける者とのコミュニケーションが不足している」などの特徴があります。

以下で解説する事例をもとに、成功している企業と失敗している企業のイメージをより明確にしておきましょう。

技能・技術継承の成功事例

以下は、技能・技術継承が成功している企業の取り組み事例です。それぞれの会社の取り組みには、「若手の習熟度に合わせる」「技能を可視化する」「ベテランの教育意欲を向上させる」といった特徴があります(※厚生労働省『平成30年度 ものづくり基盤技術の振興施策「概要」』をもとに弊社にて要約しました。)

【成功事例1:株式会社濱崎組】
濱崎組は、総合建築工事・左官工事・内装工事等を行なっている企業です。建築関係の仕事は、親方に弟子入りして技術を学ぶというスタイルが一般的でしたが、同社ではそうした定性的な育成体制を廃止し、代わりに「階層別教育」を導入しました。階層別に合った教育を受けながらキャリアを積み上げていく体制を整えることで、若手が実力に合わせて成長していける仕組みを構築したのです。

【成功事例2:日本電鍍工業株式会社】
日本電鍍工業株式会社は、めっき加工処理や表面処理加工をしている企業です。独自の取り組みとして、加工ラインに固定カメラを設置し、作業動作の映像を記録して不良品が出た際の動作を振り返れるようにしています。継承しづらい技能を映像で可視化したことにより、若手の技能の吸収効率を高めることに成功しました。

【成功事例3:小西化学工業株式会社】
小西化学工業株式会社は、特殊樹脂の生産受託や人口透析膜の製造などを手掛けている企業です。職場改善活動である「キラリ!KONISHI」は、技能継承に大きな影響を与えています。この活動は全社員参加で改善提案を募り、良い技能・技術などを提案した場合は社長賞として表彰を行う報奨制度となっています。これにより、ベテラン・若手問わず、技能に関する意欲を高めることができています。

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技能・技術継承の失敗事例

技能・技術継承がうまくいってない企業は結果的に、「生産性の低下」「定着率の低下」などの影響を受けています。うまくいかない理由は企業によってさまざまですが、基本的には以下の4つが原因であると言えます。

【技能・技術継承がうまくいかない理由】
  • ものづくり人材を十分に確保できていない
  • OJTが計画的に実施できていない
  • 指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションが不足している
  • 若手が技能や知識を身につけようとする意欲が低い

技能継承がうまくいくかどうかは、単に若手のものづくり人材を十分に確保できているかどうかだけでは決まりません。組織全体で方針を策定・浸透させて技能継承の重要性を職場内に周知させることが、技能の組織的・体系的な取組の有無に繋がっていると言えるでしょう。

技能・技術継承は、企業を存続させるために重要な取り組みの一つです。技能・技術継承を続けていくことで、企業のものづくりの質が維持・向上され、企業の成長に繋がります。

しかし、近年では少子高齢化の影響や企業の技能・技術継承に対する重要性の周知不足により、企業内での継承がうまくいってないところも多く発生しています。技能・技術継承をうまくいかせるためには、若手や中堅人材を拡充させるほか、指導役となるベテランの役割を体制として整えるなど、継承に対する積極的な取り組みをしていく必要があります。

現在、技能・技術継承がうまくいっていない会社でも、取り組み次第で成功させることができます。当記事の成功事例などを活用して、実際に取り組んでみてください。

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