インボイス制度の経過措置期間 課税事業者がやっておくべきことを解説

2022.07.29

インボイス制度の経過措置期間
課税事業者がやっておくべきことを解説

インボイス制度の経過措置期間 課税事業者がやっておくべきことを解説

インボイス制度は、2019年10月から実施されている区分記載請求書等保存方式の開始を経て、2023年10月からスタートしました。約4年間の猶予があったとはいえ、実際にインボイスが開始されるか曖昧な状況の中で、実際に準備ができていなかった人たちも少なくはないでしょう。

インボイス制度には経過措置があり、制度が開始してから6年間は50%以上の仕入税額控除が受けられます。当記事ではこの経過措置にスポットをあて、今後どういった対応をしていくべきかを説明していますので、参考にしていただければ幸いです。

インボイス制度とは、2023年10月からスタートした「適格請求書保存方式」のことを言います。この制度はインボイスという「適格請求書」を発行して、軽減税率等で影響を受ける消費税額を正確に把握することを目的としています。これにより、免税事業者が消費税を納付しない場合や、中小事業者が概算払いをする場合、本来納付すべき消費税額との差額が合法的に生じる事態を防ぐことが可能です。

課税事業者側は制度が開始後、取引先からインボイスが発行されないと仕入税額控除が受けられません。そのためインボイス制度開始以降、仕入額控除を利用したい課税事業者は取引先に対してインボイスの発行を要求する場面が増えてくることでしょう。

課税事業者と免税事業者

インボイス制度を理解する上で、課税事業者と免税事業者の理解は欠かせません。それぞれの詳細は以下の通りです。

  • 課税事業者:消費税の納税義務がある事業者。基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者となる。
  • 免税事業者:消費税の納税義務がない事業者。基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることが要件。

インボイスを発行することができるのは「適格請求書発行事業者」の登録が済ませてある事業者のみで、登録ができるのは課税事業者のみです。つまり、免税事業者のままでは登録ができません。

免税事業者が登録するには、原則、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となっておく必要があります。

適格請求書とは

適格請求書とは、現行の「区分記載請求書」に記載事項が追加された請求書のことを指します。現行の区分記載請求書に記載されている事項は以下の通りです。

  • 請求書発行事業者の氏名又は名称
  • 取引年月日
  • 取引の内容(軽減対象税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

適格請求書に追加される事項は以下の通りです。

  • インボイス制度の登録番号
  • 適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等

インボイス制度は課税事業者・免税事業者問わず、各事業者へ影響を及ぼします。基本は仕入税額控除が与える影響が大きく、課税事業者が控除を受けるために起こす対応次第で各方面へどういった影響を与えるかが変化するでしょう。

以下では課税事業者へ与える影響と、免税事業者へ与える影響をそれぞれ解説します。受ける影響を把握して、今後対応をどうしていくか検討する材料にしましょう。

課税事業者への影響

課税事業者は免税事業者との取引で受ける影響と、課税事業者との取引で受ける影響の2種類があります。特に免税事業者との取引では、免税事業者に求める対応次第で受ける影響が変化するため、どういった影響があるのか把握しておく必要があるでしょう。

【課税事業者が受ける影響】
  • 免税事業者との取引では仕入額控除を受けられない
    免税事業者は適格請求書を発行できないため、免税事業者との取引では仕入税額控除が受けられません。もし、仕入税額控除を受けたいのであれば、免税事業者に課税事業者への転換を求める必要があります。
  • 免税事業者との取引価格を変更しなくてはならない可能性がある
    免税事業者との取引では仕入税額控除が受けられないため、課税事業者は控除ができない分だけ余計に消費税を払うことになります。それを避けるには、余計に払う分だけ仕入価格の値引きを交渉するなどの対応が必要になるでしょう。
  • 自社の会計システムを改修または代替しなくてはならない可能性がある
    インボイス制度が開始すると軽減税率との兼ね合いで、計算が複雑化します。取引先が多くなるほど、請求書の処理にかかる負担が大きくなるため、少しでも軽減するために制度に対応した会計システムを導入する必要があるでしょう。

免税事業者への影響

免税事業者がインボイス制度によって受ける影響は、クライアントとのやりとり次第で大きく変化します。以下で解説する免税事業者が受ける影響を把握して、今後どのような対応をするべきか検討しておきましょう。

【免税事業者が受ける影響】
  • 課税事業者が免税事業者と取引をするメリットが減る
    課税事業者は取引先から適格請求書(インボイス)を発行してもらうことで仕入税額控除が受けられます。しかし、免税事業者との取引では適格請求書が入手できなくなるため、免税事業者側は課税事業者側から取引をするメリットが少ないと思われてしまうでしょう。
  • 既存顧客から課税事業者への転換を求められる可能性がある
    適格請求書を入手したい課税事業者は、免税事業者に対して課税事業者への転換を求めてくる可能性があります。免税事業者が課税事業者に転換して適格請求書を発行してくれれば、課税事業者は仕入税額控除が受けられるからです。
  • 取引価格の値引き交渉を受ける可能性がある
    免税事業者に課税事業者への転換を求めない場合は、取引価格の値引き交渉をされる可能性があります。具体的には、仕入税額控除で受けられるべきだった控除額の分を取引価格から値引きされることが想定されます。
  • 経理事務の処理や適格請求書発行のコストが増加する
    適格請求書を発行した場合、請求書の写しの保存が義務付けられています。また、適格請求書は従来の請求書と比較して3つの事項が追加されているため、フォーマットを変更する必要があります。保存や追加事項の記載など、制度の開始に向けて準備することが多く、コストや負担の増加が考えられるでしょう。
インボイス制度対応で課税事業者がやるべきこと

課税事業者はインボイス制度の開始に伴って受ける影響を把握したら、開始までにやっておくべきことを確認して随時進めていきましょう。以下は、制度開始までにやっておきたい3つの行動です。

【課税事業者がやっておくべきこと】
  • 免税事業者に課税事業者への転換を促す
  • 適格請求書発行事業者の登録申請をする
  • インボイス制度対応の会計システムを導入する

免税事業者に課税事業者への転換を促す

課税事業者が仕入税額控除を受けつつ、既存の免税事業者と取引を続けるには、免税事業者に課税事業者への転換を促すしかありません。余分にかかる消費税額を差し引いた金額で取引を続ける方法もありますが、取引価格の検討など時間的な負担が増えることも想定されます。

免税事業者と引き続き取引を行いたい場合は、関係性を考慮して最適な方法を検討することが重要です。

適格請求書発行事業者の登録申請をする

課税事業者は適格請求書を受け取るだけでなく、発行してクライアントに納めることもあります。適格請求書を発行するためには「適格請求書発行事業者」の登録を、制度が開始するまでに済ませておかなくてはいけません。

登録に関する具体的な方法は以下のサイトで具体的に解説しています。

インボイス制度の開始に伴う適格請求書発行事業者の登録方法|登録が必要になる場合についても解説

インボイス制度対応の会計システムを導入

インボイス制度が開始されると適格請求書が納付されるため、それらの経理処理を行う必要が出てきます。適格請求書の処理は従来の会計システムでは対応していないため、新規でインボイス制度対応のツールを導入するか、既存のツールを制度に対応するように改修しなくてはならないでしょう。

新規でツールを導入する場合、月額1万円程度のソフトもあるため比較的安価で導入できます。経理の負担や利便性を考えたうえで、前向きにツールの導入を検討することを推奨します。

インボイス制度には激変緩和措置として「経過措置期間」が設けられています。経過措置期間中は仕入税額相当額の一定割合が控除可能です。

経過措置期間は制度開始から3年間(令和8年=2026年10月まで)が「免税事業者からの仕入れにつき80%控除可能」、さらにそこから3年間(令和11年=2029年10月まで)は「免税事業者からの仕入れにつき50%控除可能」と決まっています。

制度が開始しても、約6年間は50%以上の控除が可能であるため、免税事業者・課税事業者はこの間に制度に対してどういった対応を進めるべきか検討するのも一つの方法です。

参考財務省HP :https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/keigen_00.pdf別窓で開きます

経過措置期間は激変緩和措置として設けられていますが、6年間の期間が経てば終了します。そのため、各事業者は経過措置期間が終了するまでに、インボイス制度の開始に向けた対応策を検討する必要があります。

特に免税事業者との取引の方針は定めておかないと、経理事務の業務負担が増えるなど社内のコスト増加に繋がることも考えられます。

免税事業者が課税事業者に転換しない場合の対処法の検討

既存の免税事業者との取引を継続しつつ仕入税額控除を受けるには、免税事業者に課税事業者への転換を促す必要があります。ですが、免税事業者側としては課税事業者に転換することで消費税の納税義務が課されるなど、金額の負担面に影響が出てしまいます。そのため、場合によっては免税事業者が「転換しない」という選択を取る可能性もあることを想定しなくてはなりません。

転換しないという対応を免税事業者が取った場合、課税事業者は今後その免税事業者とどういった取引を続けていくべきか検討しなくてはならないでしょう。

経理事務の業務負担が過度に増えていないかを確認

インボイス制度に対応すると軽減税率の計算や、適格請求書とそうでない請求書の仕訳など経理事務の負担増加が想定されます。実際に制度が導入されるにあたり、どの程度の負担が想定されて、負担に対して既存の人数でどの程度対応できるのか確認しおきましょう。

経過措置期間を有効活用して業務負担を確認後、制度に対応した会計システムを導入するべきかどうか、人数を追加する必要があるかどうかを検討することを推奨します。

インボイス制度は2023年10月からスタートしましたが、激変緩和措置として経過措置期間が設けられています。経過措置期間は、インボイス制度開始までの期間は全額控除、開始後の6年間は50%以上の控除が受けられます。そのため、各事業者は経過措置期間中にインボイス制度に対して、どういった対応を取るべきか検討しておきましょう。

特に免税事業者との取引形態を今後どうしていくべきかは、仕入税額控除や取り扱う取引内容に大きな影響を与えるので、経過措置期間を活用して社内で吟味することが求められます。