紙を知る ~紙の特性~

◆紙には「目」があります……でも紙に見つめられることはないですよ。

◆表裏があります……同じに見えても違うんです。

◆親水性(水に弱く、湿度により伸縮します)……便利だったり、厄介だったりする性質です。

◆保存性が良い……大宝元年(701)の戸籍が残っているくらいですから保存性は証明済み。

◆再生利用できる……今や再生紙は当たり前。奈良時代から行なわれていました。

 

それでは一つずつご紹介しましょう

紙には「目」があります

新聞紙を破いたことがある人なら、破れやすい方向と、破れにくい方向があるがあるのをご存知だと思います。なぜ向きによって破れやすさが違うのかご存知ですか?

これは、紙を抄く機械によるものです。抄紙(しょうし)機は和紙のように型に入れて四角い紙を抄くのではなく、長く長く紙を抄いていきます。巨大なトイレットペーパーを想像するとわかりやすいかもしれません。最初に、紙の原料であるパルプを機械に噴射するのですが、その噴射する向きによって繊維の流れが決まります。繊維が向いている方向が「紙の目」なのです。

タテ目・ヨコ目

抄紙機

繊維の流れに沿って破れば破れやすく、反対に繊維の横から破ろうとすれば、破れにくいというわけです。「破れやすい方向=タテ目」「破れにくい方向=ヨコ目」となります。 また、紙の長辺の方向に繊維の流れが平行している紙を“タテ目”の紙といい、短辺の方向に繊維の流れが平行している紙を“ヨコ目”の紙といいます。

機械を通す紙にとって「目」はとても重要です。紙はヨコ方向に伸びやすい性質があるため、たとえば本をヨコ目の紙で印刷すると、本文が丸まり揃わなくなってしまいます。 しかし、最近のコピー機用に開発された紙は、丸まるのを防ぐため、「目」がないように工夫されているそうです。破いてみるとどの方向からでも同じように破れますよ。

表裏があります

滑らかな方が表で、そうでない方が裏なんだそうですが……。海苔の表裏みたいには見た目にはわかりませんね。そこで填料(添加物の回でご紹介しています)が含まれている紙なら、一円玉を使えば簡単に見分けることができます。

まず、紙を一枚用意し、表面と裏面両方が見えるように少し折ります。そして、一円玉で両方の面をまたぐように一直線にこすります。 すると、こすった跡が表面は濃い跡になり、裏面は薄くなります。

表裏

紙は金網の上で抄くのですが、金網に触れている面は微細な繊維が抜け落ち、添加物である填料の含有量も少なくなります。金網の織り目もついてしまうため、表面が粗くなるためこちらが裏面だとわかります。ちなみに、一円玉(アルミ)でこすったのは、填料の含有量の差を見るためでした。

これで表裏があるのは証明されましたが、「表面にプリントするべき?」とか「両面印刷すると差があるの?」と不安になった方も多いのではないですか?ご安心ください。見た目だけで区別が付きにくいように、どちらの面にプリントしてもほとんど変わりません。普段は気にせずお使いください。

親水性

水につけると、紙はボロボロになりますよね。この性質を利用して紙を作り、そして再生しています。一方困った性質を持っていて、水に漬けないまでも湿度で伸縮してしまうのです。この性質のために、多色印刷では、 紙の伸縮に注意を要しますし、また、湿度を一定にした環境下でなければ重量が量れません。

保存性が良い

和紙は1000年、洋紙は100年と言われていました。その差は何でしょう?

答えは、和紙は「中性紙」、洋紙は「酸性紙」だからです。

ではどうして同じ紙なのに酸性と中性があるのでしょう?また、どうして酸性だと長持ちしないのでしょうか?

洋紙には添加物の回でご紹介したように、にじみ防止のためにサイズ剤が使われます。古くからサイズ剤として松脂が使われてきましたが、この成分を紙に定着するためにさらに硫酸バンドという薬品が必要で、これが紙を酸性にする犯人です。紙のpHが4~5の酸性となり、長期間保存しているうちにこの硫酸の成分が繊維を犯して紙をボロボロにしてしまいます。現在では、硫酸バンドを使用しないサイズ剤も開発されたおかげで、洋紙でも長期保存が可能になってきました。一方、和紙はもともと酸性になるような添加物を使っていないので、中性となります。 簡単な見分け方は、燃やして灰を見比べると、黒っぽいのが酸性紙、白っぽいのが中性紙です。

いかがでしたか?紙はその特性を活かし、さらに添加物で補強し、現在のように活躍の場を広げています。

 

<今回のポイント>

●紙には「目」や「表裏」がある
●保存性を左右する紙のpH

 
 

おまけコーナー

Q.紙で作った服は洗濯できますか?

 

A.できるものもあります。

紙なのに?と思われるでしょう。確かに、何も加工しなければ紙は水に漬けるとバラバラにほぐれてしまいます。でもそこが暮らしの知恵。実は紙で作る服の歴史は古く、木綿の着物より前から使われてきました。少しご紹介しましょう。 まず一番有名な紙衣(かみこ)は和紙を、耐久性のあるコンニャク糊で貼り合わせて着物や帯を作ったものです。これに、柿渋を塗って耐水性をもたせると、なんと雨合羽にも使えます。でも残念ながらこの紙衣は洗濯できません。

では洗濯可能な紙の服とは? 「紙布」と言います。細く切り取った紙をよってきわめて細い「こより」を作り、連続した糸にします。これを「紙糸(しし)」といい、これで織ったのが紙布です。紙衣より軽くて肌触りも良いため、旅行用や女性の夏の衣料として人気があったそうです。 現存する最古の紙布は、戦国武将の上杉謙信の陣羽織です。ちなみに、松尾芭蕉は紙衣を持って旅をしていたとか。歴史を感じますね。

 

紙に文字が書けたり、印刷できるのはなぜ?