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日本
医療AIの現在と未来

進化が続く医療AI。画像診断の性能向上や解析根拠の言語化など、さらなる発展に期待高まる

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

医療AIは医療機器に搭載され画像診断や診療・治療などを支援するなど、医療業界の多様な領域で貢献していますが、いまだ発展の余地が多く残されており、今後さらなる進化が見込まれています。
未来の医療の一端を担うことが期待される医療AIにはどのような可能性が秘められているのでしょうか。
今回は医療AIの展望について先端技術を取り巻く国際情勢とともに紹介します。

医療AIは日進月歩で進化を遂げている

2017年に厚生労働省が「AI開発を進めるべき重点6領域」として(1)ゲノム医療、(2)画像診断支援、(3)診療・治療支援、(4)医薬品開発、(5)介護・認知症、(6)手術支援を選定してから5年以上が経過しました。各領域は比較的早期の実用化が見込まれていたこともあり、医療AIはここ数年で医療現場や研究機関への導入が進み、医療現場では医療AIによる支援効果が確認されています。

(2)画像診断支援に関しては、胸部単純X線画像の所見検出や肺がん・肺結節の経過観察、胸部CT画像の肋骨骨折箇所の検出などで有用性を発揮しています。医療AIによる診断業務のサポートと効率化は、医師の負担軽減や医療施設としての診断能の均質化など、医療サービスに携わる個人・組織にメリットがあります。

医療現場への貢献が確認されている医療AIは現在も進化が続いています。(3)診療・治療支援を例にすると、近年は、医療AIを用いて大腸内視鏡検査時のポリープなどの病変を検出するソフトウェアが発売され、現在は同技術が、上部内視鏡検査にも展開されています。国民の健やかな生活を守り、医療現場を多岐にわたり支援するため、医療メーカー各社は新たな医療AIや医療AIを搭載した医療機器の開発を推進しています。

世界各国が医療AIの開発に注力

医療AIの有用性は世界各国で注目されており、日本同様に研究開発や導入運用が進んでいます。その成長推移は市場規模に表れており、医療画像向けAIの市場規模は2021年から2030年にかけて10倍以上に拡大するという試算も出ています。

医療AIの貢献性と市場成長性には、世界的IT企業も注目しています。グーグルと親会社のアルファベットはAIの医療分野への応用を進めており、巨額の資金を投入して画像診断や医療事務などに関わる医療AI製品の開発に注力しています。

医療AIの進化と普及への機運が高まるなか、その動きを加速させる環境も整備されつつあります。世界最大級のテクノロジーファンドのソフトバンク・ビジョン・ファンドは、内視鏡領域のAI支援システムを手掛ける企業への資金提供をはじめ、AI関連企業への投資を行なっています。また、政府はAIを活用した画像診断ソフトの早期承認に向けた新制度を検討しています。現状の手続き・審査期間が簡略化されることで、医療AI開発の国際競争力を高まり、既存ソフトウェアの機能向上や新たな医療AI機器の誕生が加速すると考えられています。

期待される医療AIのさらなる進化

今後、医療AIはどのような発展を遂げるのでしょうか。期待されるのが、がんをはじめとしたメジャーな疾患に対する特化型AIの開発です。特化型AIは特定業務において医師と同様に処理することができます。がんは医療ニーズの高い疾患であり、各メーカーが積極的に開発を推し進めることで、近い将来医療機器に認可されることが予想されます。また、今後も画像診断の検出性能が向上すれば、読影分野の活用がさらに進むと考えられます。

医療AIの発展には、医療AIの学習素材となる大量の医用データが必要です。そのため、AI自体の開発と並行して、各医療施設が様々な疾患の所見や画像を収集・蓄積する仕組みづくりが急務となります。医療AIの成長は診断領域だけでなく、類似症例から特定要素を抽出してレポート作成を支援するなど、ワークフローの効率化にも寄与することが見込まれます。また、学習データが蓄積されていくなかで、希少疾患の診断・治療の糸口が見つかる可能性は大いにあります。

進化を続ける医療AIですが、クロスドメインAIがひとつの到達点になるのではないでしょうか。クロスドメインAIとは、X線画像単体といった特定データを解析する現行性能からスケールアップし、画像と所見文、バイタル情報と所見文、X線画像とCT画像など異なる特徴をもつデータを組み合わせて解析する機能を有します。いわば“医師の頭の中”と同じ処理ができる医療AIであり、実現されれば診断・診療へのさらなる貢献が期待できます。

医療AIは医師のサポート役として重要性が高まる一方、患者から納得や信頼を得られる存在へと発展することが求められます。医師が医療AIの検出・解析結果をもとに診断を下す場合にはその根拠を示す必要がありますが、現在の医療AIは根拠を説明できないことからブラックボックスと言われています。将来的に質的診断を担うシステムとして医療業界全体に普及するうえでは、解析結果の根拠を言語化・数値化して説明できるAI(XAI)の開発も不可欠です。

メーカー各社は、それぞれの強みを活かした医療AIの開発を進めています。医療施設ごとに医療AIによる支援が必要な診療科や業務は異なるため、自院の課題や希望と合致する製品を取り扱うメーカーに相談することが、効率的な導入準備につながります。AIを搭載する医療機器のトライアルとして初期投資を抑えられるクラウドサービスなどのデモンストレーションを通じて医療AIの機能や導入に向けたプロセス、そして医療施設に寄り添うスタッフの姿勢を体感してみてはいかがでしょうか。

【企画・編集 株式会社 広瀬企画/2023年7月公開】