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日本
動物医療コラム

イヌ抗CD4抗体を用いたリンパ腫組織型分類の取り組み

このコンテンツは獣医療従事者向けの内容です。

第168回日本獣医学会学術集会が2025年9月3日(水)~6日(土)の4日間、シーガイア・コンベンションセンター(宮崎県宮崎市)で開催されました。本コラムは9月3日に行われた一般演題内の発表内容です。

東京大学との共同研究とリンパ腫組織型分類の課題

イヌやネコのリンパ腫は、病理組織診断が比較的多く行われる腫瘍の一つです。富士フイルムVETシステムズでは、病理組織検査の約4.3%をリンパ腫が占めています。しかし、リンパ腫と診断された症例のうち、免疫染色を行い組織型分類まで実施されるケースは少なく、組織型分類と予後に関する情報は十分ではありません。そこで、当社では2021年より東京大学との共同研究により、リンパ腫の組織型分類および予後情報の収集に取り組んでいます。

これまでに収集した症例は600例を超え、その中で組織型分類における課題も明らかになってきました。その一つが、動物において組織型分類に使用できる抗体が限られていることです。ヒトのリンパ腫では、腫瘍細胞の免疫表現型、遺伝子変異、ウイルス感染の有無などに基づく分類が行われていますが、動物では免疫表現型を調べるための抗体が少なく、体系的な分類の整備が進んでいません。

抗体による組織型分類と、予後の違い

例えば皮膚リンパ腫の場合、動物のWHO分類ではT細胞性皮膚リンパ腫は上皮向性と非上皮向性の2型に分類されています。一方、ヒトの皮膚リンパ腫は14型に細分されており、その多くは腫瘍細胞の免疫表現型に基づいて分類されています(図1)。

図1 皮膚T細胞性リンパ腫

菌状息肉腫と呼ばれる組織型がヒトと動物ともに分類されていますが、ヒトでは腫瘍細胞の多くがCD4陽性であるのに対し、イヌではCD8陽性が優勢とされ、同じ組織型でも由来細胞が異なる可能性があります。ヒトの皮膚リンパ腫の中には、CD8陽性の「原発性皮膚進行性表皮向性CD8陽性細胞傷害性T細胞リンパ腫」があり、この組織型は菌状息肉腫と比べて5年生存率が著しく低く予後不良です(図2)。 

図2 皮膚リンパ腫の病型別5年生存率

T細胞はCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞に大別されます。CD8陽性細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞を攻撃するキラーT細胞に分化し、CD4陽性細胞は様々な免疫応答を助けるヘルパーT細胞に分化します。これらの機能の違いがリンパ腫の予後に影響すると考えられ、動物の皮膚リンパ腫においても、異なる免疫表現型が混在している可能性があります。

当社での抗CD4抗体の開発と臨床現場への応用

しかし、T細胞のサブセットを調べるには、生材料を用いたフローサイトメトリー検査が必要であり、ルーチン検査としてはハードルが高いものでした。そこで当社は、イヌおよびネコのホルマリン固定パラフィン包埋組織で使用可能な抗CD4抗体を作製しました。これにより、病理組織検査と併せて免疫染色によるCD4発現の有無を確認できるようになりました(図3)。

図3-1 CD4抗体での免疫染色像(イヌのリンパ節)

図3-2 CD4抗体での免疫染色像(ネコのリンパ節)
CD3陽性(緑)とCD4陽性(赤)が同じ細胞に発現(黄)していることが確認できる。

T細胞性リンパ腫を腫瘍細胞の免疫表現型に基づいて分類できるようになることで、リンパ腫の体系化はさらに前進すると考えられます。また、ホルマリン固定パラフィン包埋組織でCD4抗体が使用可能になることで、リンパ腫のみならず、自己免疫疾患やアレルギー疾患など、さまざまな疾病の病態解明への応用も期待されます。

【執筆:富士フイルムVETシステムズ 診断医(病理) 二瓶和美】