富士フイルムビジネスイノベーション

有志で始めた「Kaggle部」は幼馴染の一言がきっかけだった。挑戦と失敗で血肉になる、最先端のAI技術

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ガッツポーズをする三人

世界最大級のデータ分析・機械学習のオンラインコミュニティ・プラットフォーム「Kaggle(カグル)」。そこでは、企業や組織が出題するデータ分析のコンペティションが開催され、第一線で活躍するデータサイエンティストや機械学習エンジニアが日々、磨き上げたAIの精度を競いあっています。

2024年11月に発足した「Kaggle部」は、部署を越えた有志が集まり、コンペを通じて最新技術に触れ、各自が自由に挑戦する技術交流の場となっています。直近では、「Vesuvius Challenge - Surface Detection」という古代の巻物のCTスキャンの画像から巻物を検出するコンペティションで、1391チーム中35位と上位3%の成績を収め、銀メダルを獲得するなどの成績を残しています。

最初は仲間内の活動として始まったKaggle部も、今では若手から中堅社員まで10名ほどが活動に参加するなど、AIに対する情熱を持ったメンバー同士が切磋琢磨できる環境が整っています。

Kaggle部の立ち上げ背景や活動で得られた手応え、そして未来への展望について、中心メンバー3名にお話を伺いました。

鈴木 太一さん

鈴木 太一

Taichi Suzuki

ビジネスソリューション事業本部 コアテクノロジーラボ

2023年電機メーカーに入社。故障解析・統計解析を専門としてカメラ画像センサーの品質保証・信頼性技術開発に従事。2024年10月、KaggleがきっかけでAIに強い興味を持ち富士フイルムビジネスイノベーションに転職。LLMのモデル開発/LLMの業務利用に関するテーマに従事。営業支援AIや保守DXに関するテーマの技術開発を行う。

宮崎 紘平さん

宮崎 紘平

Kouhei Miyazaki

ビジネスソリューション事業本部 コアテクノロジーラボ

2023年入社。技術開発Gに配属され、機械学習および最適化問題に関するアルゴリズム検討に従事。2024〜2025年はソフトウェアの商品開発部門に異動し、「FUJIFILM IWpro Intelligent Assistantオプション」の開発を担当。2026年1月よりコアテクノロジーラボへ異動し、LLMのモデル開発および業務活用に関するテーマに取り組んでいる。

小早川 周平さん

小早川 周平

Syuhei Kobayakawa

ビジネスソリューション事業本部 コアテクノロジーラボ

2013年入社。物理学専攻の出身で、主に研究部門に在籍。入社後数年間は複合機の物理現象の解析を担当。その後、リスキリングでデータ分析/AIを学んだ。現在は、機器の保守支援AIや、機器設定を最適化するAIなどの開発リーダーを務める。

幼馴染の一言から始まったKaggle部の活動

インタビューに答える鈴木さん

── まずは2024年11月に「Kaggle部」を設立した背景について教えてください。

鈴木 私が富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)へ入社する前に、「AIに取り組みたい」という思いからKaggleに挑戦し、そこで一定の成果を出すことができたのが原体験になっています。

前職ではAIに直接関わらない部署のメンバーも含め、さまざまなバックグラウンドの人たちがKaggle部の活動に有志で参加し、技術を磨き合う文化がありました。私自身もその活動に参加しており、部署や部門を超えて切磋琢磨できる環境にとても魅力を感じていました。そこで、同じような活動を通じて富士フイルムBIでもAIや技術力を高めたいと思い、周りに声をかけ始めたのがきっかけですね。

実は宮崎くんとは幼少期からの幼馴染で、お互いデータサイエンスが好きだと知っていたのもあって、最初に声をかけたんですよ。

インタビューに答える宮崎さん

宮崎 自分も大学院の頃からKaggleに取り組んでいましたが、鈴木くんから、「一緒にKaggleやろう」と声をかけてもらい、Kaggleの大会に出て銀メダルという実績を獲得することができました。そこから、「富士フイルムBIの中でKaggleをもっと盛り上げていけたらいいな」という淡い期待を持っていたなかで、鈴木くんが「Kaggle部」として正式に設立まで引っ張ってくれたんです。

── 小早川さんは後からKaggle部に参加されたのですか?

小早川 そうですね。おふたりが最初に部活動としてKaggleを始め、その後メンバーを増やそうということで、職場内のチャットで呼びかけてもらい、自分も参加させてもらうことになりました。

私はもともと物理学系が専門で、入社後もその分野で仕事をしていましたが、途中からAIの仕事に移りました。しかし、AIに深く携わる前のタイミングでリーダー業務にシフトしてしまい、実際に自分でAIを実装する経験が十分に積めていませんでした。そんななかで、最新のAI技術を学び、実装を積むためのスキルアップの場としてKaggle部は非常に適していると思ったんですね。

インタビューに答える小早川さん

コンペを通して場数を踏むことで、「技術の引き出し」を増やせる

── 「Kaggle部」の主な活動内容や、有志にもかかわらずに人数が増えていった理由を教えてください。

鈴木 Kaggle部では強制的なルールは特に設けておらず、基本的には興味のあるコンペを各自が選んで、自分のペースで進めていくスタイルです。週1回の定例で進捗確認を行い、それ以外の時間で作業を進めることが多いですね。業務の忙しさや状況はメンバーそれぞれなので、あくまで「有志で参加したい人が自由に学べる場」にしています。

最初は席が近い人や身近な同僚に声をかけたのですが、自然発生的に人数が増えていったのは、「Kaggleをやってみたいけれど、機会がなかった」という人たちが参加してくれたのが大きかったと思います。また、半期の終わりに活動実績を部署内で報告し、Kaggle部を知ってもらったことで、新たに参加する人も出てきましたね。

宮崎 この活動が盛り上がっている背景には、AIや最新技術を自分で扱ってみたいという人が多いのもあると思っています。さまざまな視点で調査したり実際に何かを作ってみたりするなかで、考え方の多様性が広がっていき、結果として活動の熱量が加速しているように感じます。

語り合う三人

── 活動への参加を通して得られた気づきや学びはありましたか?

鈴木 自分が中途入社だったこともあり、普段の業務で直接関わる人以外とコミュニケーションを取る機会があまりなかったのですが、Kaggle部の活動に参加してからは普段接点のない人たちと交流し、「どのような仕事をしているのか」を知ることができたのはとても有意義でした。

技術的な面では、社内でまだ扱っていない領域の技術に触れるなど、新しい技術をどう実装に落とし込むかを試す機会があり、技術者としても大きな学びになっています。昨年に実施した活動のアンケートでも、「普段は使わない技術を別の領域に応用できるのが良かった」という声が多く寄せられました。

Kaggleの解説をする宮崎さん

宮崎 Kaggleでは扱うデータの種類がかなり幅広くて、画像やExcelなどの表形式から動画、音声まで多様なデータを扱うことができます。これらのデータを、どのようにAIへ入力して出力を得るかという一連のデータ処理の流れが、Kaggleコミュニティ内で共有されています。ただ本を読むだけのインプットよりも、実際に手を動かしながら学べる点が魅力的で、かつ技術も身についている実感があってとても面白いと感じています。

小早川 実際にKaggleをやってみて感じた魅力は、実務で触る機会のなかったAIの技術に取り組める点です。Kaggleのコンペに参加し、これまで経験のない技術に触れることで、自分の中の「使える引き出し」を増やしていけるのが利点だと思います。

やはりマネジメントやリーダー寄りの立場になると、技術の采配を考える場面も多くなるため、基礎的な理解を広く持っておくことが重要になります。Kaggleは参加者が最新技術を試し、議論する場であるため、AIを社会実装する“場数を踏める”のが魅力的に思っていますね。

また、数年現場を離れると、進化の著しいAI業界のスピードに追いつけなくなってしまう。そうしたなかで、Kaggleでは「スコアが伸びた」「結果が出た」という達成感を楽しみながら、最新の技術を楽しく学び直せるのが大きな価値なのではないでしょうか。

AIへの心理的ハードルを下げ、気軽に失敗できる場としての役割

── 印象に残っているコンペは何かありますか?

宮崎 思い出に残っているのは、強化学習を使ったインベーダーゲームのようなコンペに参加したときです。相手の船を倒す戦略をAIで学習させるもので、当初はルールベースで強い戦略を見つけ、それをAIで強化学習する計画でしたが、結果的にはルールベースの戦略の方がAIを上回ってしまったんです。銅メダルは取れたものの、正直くやしさが残りました。一方で、この経験は『AIの強みは何か』を改めて考えるきっかけになりました。Kaggleは失敗してもすぐにやり直せるので、そのくやしさも含めて次の挑戦につなげるための良い機会になったと感じています。

Kaggleの解説をする鈴木さん

鈴木 Kaggleの開催期間中は公開されているデータで評価されますが、最終順位はコンペ終了後にまだ見えていない未知のデータで決まります。銅メダルを獲ったコンペでは、公開データでのスコアが3,000人中5位くらいまで順位が上がり、手応えをつかんでいたのに、コンペ終了後に蓋を開けたら1,000位台まで順位が落ちてしまいました。この経験から、本質的な課題に対して『未知のデータを活用して、いかに汎用的なAIを作れるか』といった意識を持つことの重要さを体感しました。この考え方は、実務でもとても大切にしています。

小早川 Kaggle部では、自分より一回り若いメンバーたちと一緒にコンペに出ているのが印象深いですね。社内チャットで、平日夜や土日に取り組みの進捗や成果を共有し合うのが純粋に楽しいと感じるポイントでした。

加えて、「気軽に失敗できる」こともKaggleの楽しさのひとつです。仕事だと、限られた時間の中でエンジニアとして一定の成果物を作ることが求められますが、Kaggleではリスクを気にせずに新しい技術を試しながら、自由に挑戦できる点に面白さを感じています。

Kaggle部で磨いた「ひらめき」や「発想」を自社のAI技術力向上につなげていく

モニターを指さす鈴木さん

── Kaggle部を始めてから得た成果や手応えについてお聞かせください。

鈴木 これまでに5つのKaggleコンペに参加し、銅メダルを1つ獲得できました。この経験を通じて、「挑戦し続ければ結果が出る」ということに気づいて、部のメンバーとは「次は金メダルを狙おう」といった前向きな声が出るようになりました。

また、Kaggleにはメダル数に応じたランク制度があり、「Grandmaster(グランドマスター)」「Master(マスター)」「Expert(エキスパート)」といった階級がありますが、自分と宮崎はメダルを1枚獲得してエキスパートに到達することができました。個人的には、きちんと取り組んできたなかでの一つの節目に立てた感覚があり、素直にうれしかったですね。

今後は、この活動に共感する人が増え、その中から上位メダルを狙えるようなメンバーが育っていくことで、結果的に富士フイルムBI全体のAI技術力の底上げにつながれば理想的だと考えています。もちろん、自分自身もさらに上を目指して日々学び続けながら、組織全体に良い影響を与えられるようになれたらと思っています。

AIやKaggleについて語る小早川さん

小早川 AIやKaggleに触れる最初の一歩は、どうしても心理的なハードルが高いと感じてしまう人も多いと思います。ただ実際に始めてみると、そこまで高いレベルが求められるわけではなくて、何かきっかけさえあれば、もっと多くの人が入りやすくなると思っています。だからこそ、Kaggleの部の活動は「きっかけづくりの場」としても意味があると言えるでしょう。

もちろん、私たちの所属するコアテクノロジーラボは、高いレベルでAIを開発することが求められますが、AIがいろんな商品に組み込まれる未来を見据えると、グループ全体でAIを理解している人材を増やしておくことも大事になります。そうした裾野を広げる取り組みとして、この活動は非常に有効だと考えています。

宮崎 Kaggleへの参加を通じて、データを起点に「どんなことができそうか」と考える習慣が身につきました。この経験を活かし、自分のひらめきや発想を富士フイルムBIのAIとして確立できると最高だなと思います。AIの精度がものをいう技術開発はたくさんあると思うので、Kaggleでの取り組みのように実験を繰り返しながら、より良い成果を目指すサイクルを根気強く回していきたいですね。

AIに触れるきっかけを作り、全社的なAI利活用の推進に貢献したい

腕を組む三人

── Kaggle部が今後目指す方向性や、取り組んでいきたいことはありますか?

鈴木 富士フイルムBIでは、AIを実際に「形」にしていくことに注力しており、その実現に向けてAIを商品にのせていく技術が肝になると考えています。そこで、AIに興味のある人が気軽に参加できるKaggle部を通して、AI技術に触れるきっかけづくりができればいいですし、結果としてメンバーがメダルや良い成績を目指すことにつながれば理想ですよね。

Kaggleに取り組む人を「Kaggler(カグラー)」と呼んでいますが、部員メンバーそれぞれ得意分野や経歴が異なるため、お互い補い合いながら活動しているんですね。そのため、AIを始めたばかりの人でも違和感なく参加できる。自分も最初はコードも書けない状態でしたが、Kaggle部があったことで挑戦できましたし、この部が自主的に学びたい人が自由に集まれる場所でありたいなと思っています。

小早川 やはりAIの技術をラボから開発部門に渡すにしても、受け取る側に理解があると連携がスムーズですし、開発のキーマンがお客さまの要望と技術チームの間をつなぐことで、ひいては全社的なAI推進や利活用が円滑に進み、結果としてお客さまにより満足してもらえるサービスを提供できる好循環を作れるでしょう。

また、Kaggleの活動は技術力を高めるという点に加えて、さまざまな面で成長の土台になっていると思います。富士フイルムBIでは社員教育も行っていますが、Kaggleのコンペのような「他流試合」に参加することで、社内だけでは測りにくい技術レベルを外部と比較しながら確認することができます。このように、自分のレベルがどこにあるのかを客観的に把握でき、その意識を持った人がチームに増えていくことは、コアテクノロジーラボとして非常に価値のあることなのではないでしょうか。

宮崎 自分はKaggleで表形式のデータを扱うコンペに取り組むのが好きで、学生時代から続けていました。入社2年目になって研究から商品開発へ異動した際には、富士フイルムBIの技術として表形式のデータを扱う製品を出す担当になり、学生時代から楽しんで取り組んできた知識がそのまま活かされ、「IWpro Intelligent Assistantオプション」の開発につながったんです。

こうした経験から、Kaggleでのチャレンジも単なる遊びではなく、将来的に製品や実務に結びつく可能性があるかもしれないと“妄想”しながら楽しめるのも大きな魅力だと感じていますね。

写真
山野一真
古田島大介
編集
ヤスダツバサ(Number X)