AI-OCRの認識精度の最新動向:手書きとファクス受信文書データ化の可能性を探る

2025.12.16

AI-OCRの認識精度の最新動向:手書きとファクス受信文書データ化の可能性を探る

紙の注文書や申し込み書など、紙ベースの業務が残る現場では、データ化に多くの時間と手間がかかります。こうした課題を解決する手段として注目されているのが、AI-OCRです。

しかし、「AI-OCRの認識精度はどのくらいなのか」「どの業務まで自動化できるのか」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、AI-OCRの仕組みや従来のOCRとの違い、導入効果を最大化するためのポイントまで解説します。

AI-OCRの認識精度はどれくらい?

AI-OCRの認識精度を理解するには、以下の内容をおさえる必要があります。

  • AI-OCRとは
  • 従来のOCRとの違い
  • ファクスや手書き文字も読める?
  • AI-OCR導入で効率化できる業務範囲

AI-OCRとは、AI(人工知能)を組み合わせたOCR(光学文字認識)システムのことです。

そもそもOCRとは、手書き文字や印刷された文字をスキャナーなどで読み取り、コンピューター上で扱えるテキストデータに変換する技術を指します。

紙の注文書や申し込み書をスキャンして画像データとして取り込み、そのなかから文字情報を自動的に抽出する仕組みです。

AI-OCRが従来のOCRと異なるのは、AI(人工知能)の学習機能を活用している点です。これにより、多様なフォントや手書き文字の正確な読み取りが可能になりました。

従来のOCRは、あらかじめ設定されたフォーマットや印字文字を前提に文字を認識しています。そのため、書類のレイアウトが異なると正しく読み取れないことが課題でした。

一方、AI-OCRはAIが大量の文書データを学習し、文字の形状や文脈のパターンを理解することで、より柔軟に認識結果を推測します。手書き文字や、ファクス送信によってかすれたり潰れたりした文字でも高精度な読み取りが可能です。

AI-OCRは、ファクスや手書き文字の読み取りにも対応しています。従来のOCRでは難しかった筆跡の癖やかすれ文字も、AIが学習を重ねることで高い精度で認識できるようになりました。

さらに近年は、傾き補正やノイズ除去などの画像補正技術が進化し、解像度の低いファクス画像でも読み取り精度が向上しています。

ファクスや手書き文字も読める?(1)

ファクスや手書き文字も読める?(2)

ただし、読み取り精度は画像の鮮明さや筆跡に影響を受けるのが特徴です。文字が極端に崩れていたり、ファクス送信時の解像度が低かったりすると、認識結果に誤差が生じることがあります。

それでも、近年はAIの学習精度が向上しており、適切なスキャン設定や明瞭な原本を用いることで、ファクスや手書き文字でも実用レベルの精度を実現できるようになっています。

AI-OCRの認識精度が高い理由

ここでは、AI-OCRが従来のOCRと比べて高い認識精度を実現できる理由について解説します。

  • ディープラーニング(深層学習)による認識精度の向上
  • 文脈理解によって誤認識を補正できる

AI-OCRは、ディープラーニング(深層学習)技術によって文字の特徴を自律的に学習することで、従来のOCRよりも高い認識精度を実現しています。

ディープラーニングとは、大量のデータを解析し、そのなかから共通する特徴を自動的に抽出するAI技術です。人がルールを設定しなくても、AI自身が「どのような形が文字らしいか」を理解できるようになります。

従来のOCRは、人間があらかじめ定義したルールに基づいて文字を認識していたため、学習データにないフォントや筆跡には対応しにくいという課題がありました。

一方、AI-OCRはディープラーニングによって文字の本質的な特徴を学習するため、未知の書体や手書き文字にも柔軟に対応可能です。その結果、従来よりも正確で実用的な文字認識を実現しています。

AI-OCRは自然言語処理を活用し、前後の文脈から文字の意味を推測します。そのため、見た目が曖昧な文字でも、文章全体の流れを踏まえて正確に認識できます。

たとえば「ソ(そ)」と「ン(ん)」や「エ(え)」と「工(こう)」などは形状が酷似しており、従来のOCRでは誤判定が起きやすい文字でした。これは、文字を1文字ずつ独立して処理する仕組みだったため、前後の関係を考慮できなかったことが原因です。

一方でAI-OCRは、文字を文や単語の連なりとして系列的に解析し、文脈に沿って自然な文字を統計的に推測します。個々の文字の形だけでなく「文として正しいか」を基準に判断できるため、誤認識を減らすことが可能になりました。

AI-OCRの課題


ここでは、AI-OCRが抱える課題について以下の2つを紹介します。

  • ファクス・手書き文字の認識精度に限界がある
  • 読み取り前後の作業は人の手が必要

AI-OCRは、印刷文字だけでなく手書き文字やファクス 文書の読み取りにも対応可能です。

しかし、ファクス の解像度や送信時のノイズ、筆跡の個人差などの影響により、認識精度には一定の限界があります。

また、利用するAI-OCRツールによっては、手書き文字の読み取りに対応していない場合もあります。導入を検討する際は、対応範囲や実際の精度を事前に検証することが重要です。

AI-OCRを導入すれば、文字の認識作業そのものは自動化できますが、読み取り前後の一部の工程では、人の手による対応が欠かせません。

たとえば、紙の帳票をスキャンする作業や、複数の帳票が混在している場合の仕分け、スキャン画像の品質確認といった事前準備は人が行う必要があります。

また、読み取り後も認識結果の確認・修正、システムへの登録、例外的な処理などには人による判断が求められます。

AI-OCRを導入する際のポイント


ここでは、AI-OCR導入を成功に導くためのポイントを紹介します。

  • 認識精度100%はないことを前提にする
  • AI-OCR前後の処理も含めて効率化する
  • 運用ルールを定めてエラー時の対応を明確化する

AI-OCRを導入する際は、「100%の精度で文字を読み取ることは不可能」である点を理解しておくことが重要です。

AI-OCRは高精度な技術ですが、帳票の状態や筆跡、画像品質などの影響で誤認識が発生する場合があります。そのため、「業務をすべて自動化できる」と過度に期待すると、誤認識された文字が登録されるなどのトラブルにつながる可能性があります。

導入する際は最終チェックを人が行う体制を整えたり、自社の帳票にあわせて設定したりするなど、現場にあわせた運用設計が欠かせません。

AI-OCRを導入する際は、文字を読み取る工程だけでなく、その前後の業務プロセスも含めて効率化を検討することが重要です。AI-OCRを単体で導入しても、前後の作業が手作業のままでは業務全体の効率化は実現できません。

たとえば、帳票の種類を自動で識別して分類する機能や、AI-OCRで抽出した文字データを項目名・並び順・区切り文字などを指定してCSV出力する機能があれば、基幹システムへ取り込み作業が簡素化され、効率化が見込めます。

一方、前後工程に対応する機能がない場合、帳票の仕分けやデータの変換作業といった作業が残ってしまい、別途RPAを導入してデータの変換や加工を行うために追加のコストが発生する場合もあります。

そのため、前後工程にあわせた機能をAI-OCRサービスが搭載しているかを見極めることが重要です。

富士フイルムビジネスイノベーションのAI-OCRは、文字認識だけでなくデータ取り込みパターンの豊富さや、基幹システムにあわせたOCR結果の出力ができることが特長です。

AI-OCRを効果的に運用するには、エラー発生時の対応ルールをあらかじめ定めておくことが重要です。対応手順を明確にしていれば、誤認識やシステムエラーが起きても、現場の混乱や業務停止を防げます。

たとえば、「誰が」「どのタイミングで」「どのように修正するか」を明文化したマニュアルを作成しておくと安心です。さらに、月次または四半期ごとに誤認識データを分析し、頻発するエラーパターンを特定することで、再発防止や精度向上にもつながります。

運用ルールを整備しておくことで、AI-OCRを導入して終わりではなく、継続的に改善・成長させる仕組みとして運用できます。

AI-OCRを選ぶ際の比較ポイント


ここでは、AI-OCRツールを選定する際に確認すべき比較ポイントについて紹介します。

  • 自社の帳票に適しているか
  • 読み取り精度は十分か
  • 前後工程を補完する機能はあるか
  • セキュリティー要件を満たしているか
  • 誰でも簡単に使えるか
  • コストと運用効率は妥当か

AI-OCRを選定する際は、自社で扱う帳票の種類に適しているかを確認してください。

帳票にはレイアウトが完全に固定された「定型帳票」、項目は同じでも配置が異なる「非定型帳票」、そして自由記述が多い帳票など複数のタイプがあります。製品によって得意・不得意が異なるため、自社の運用実態に合うかを慎重に見極める必要があります。

とくに、手書き文字や罫線と重なった文字など、読み取りが難しい帳票をサンプルとして用意し、複数のベンダーに提供して認識精度を比較するのがおすすめです。

その際は、ベンダーが用意したデモデータではなく、自社の実際の帳票を使ってPoC(概念実証)を行うのがポイントです。

AI-OCRを導入する際は、実際のビジネスで求められる精度を満たしているかを確認することが重要です。「文字認識率99%」といった数値は一見高精度に思えますが、これはあくまで文字単位の評価にすぎません。

ビジネスの現場で重要なのは、注文書や契約書などに記載された金額・日付・氏名といった重要項目を正確に読み取れるかどうかです。そのため、導入前には「全体の認識率」だけでなく、項目ごとの正答率を確認してください。

とくに、金額や日付の誤りは業務の正確性や信頼性に直結します。これらの項目を重点的に検証し、自社の運用に耐えうる精度かを見極めてください。

AI-OCRを導入する際は、帳票の読み取りだけでなく、前後の工程を補完できる機能を備えているかを確認することも重要です。

実際の業務では、注文書・納品書・請求書など複数の帳票が混在してスキャンされるケースが多く、これを人手で仕分けるのは負担になります。

そのため、前工程を支援する「帳票の自動仕分け機能」が搭載されているかをチェックしてください。この機能があると、AIが帳票の種類を自動で識別し、適切な処理フローへ自動的に振り分けられます。

一方、後工程では「データ検証ルールの設定機能」の活用がおすすめです。税金を含めた計算チェックや取引先マスタとの照合を自動化できると、人手による確認作業を削減できます。

さらに、後工程の効率を高める機能として 「CSVファイルへの出力形式を柔軟に設定できる」機能も有効です。システムごとに求められる項目名・並び順・区切り文字などは異なるため、出力の自由度が高いほど、後続の基幹システムや会計ソフトへの取り込みがスムーズになります。

AI-OCRを導入する際には、セキュリティー要件を満たしているかも確認する必要があります。クラウド型のAI-OCRで処理する場合、データが外部のサーバーに送信されるため、情報漏えいや不正アクセスのリスクがあるためです。

自社のセキュリティーポリシーおよび業界の規制要件を明確にしたうえで、それらを満たすAI-OCRのみを候補として選定することが重要です。

どれほど高性能なツールでも、操作が複雑で現場に定着しなければ、導入効果は得られません。そのため、ITの専門知識がなくても直感的に操作できるデザインであることが求められます。

たとえば、帳票の原画像と抽出されたデータ項目を並べて表示できるレイアウトや、誤認識された項目を最小限のクリックで修正できる仕組みは便利です。

また、AIが認識に自信のない箇所を自動的に色付けして表示するハイライト機能も、確認作業を効率化します。

誰でも簡単に使えるか

導入する際は、実際にツールを利用する現場担当者の意見を取り入れながら選定することが大切です。

AI-OCRの料金体系には、従量課金制(帳票枚数単位・項目単位)やサブスクリプション制(月額・年額の固定料金)、ライセンス買い切り型など、さまざまな形があります。

自社の利用パターンに合わない料金体系を選ぶと、想定以上のコスト負担が発生するおそれがあります。

そのため導入を検討する際は、初期費用だけでなくシステム構築・連携費用、ハードウェア費用(スキャナーなど)を含めた総コストを算出することが大切です。

また、読み取り結果の確認や修正を行う人件費など、運用段階で発生するコストもあらかじめ見積もっておくと安心です。

まとめ

AI-OCRは、従来のOCRでは困難だったさまざまな手書き文字や表記ゆれにも対応できる技術です。文脈を理解する機能により、まぎらわしい文字も項目名や前後関係から正しく判断できます。

導入時は精度だけでなく、自社帳票との相性や前後工程の効率化機能、セキュリティー要件などを総合的に比較することが重要です。

AI-OCRの導入を検討中の方は、ぜひ富士フイルムビジネスイノベーションまでご相談ください。