コラム

WEBマーケティング新時代
~成果が出るパーソナライズ実践事例~ 事例編1

アドビ株式会社 様

アドビ株式会社 望月 ありさ氏

デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング部

プロフィール

ウェブ制作・アクセス解析からキャリアをスタートし、プロジェクトマネジメント、運用組織・業務設計、品質管理など、長年大企業のオウンドメディア運用支援に携わる。その後、東京理科大学大学院にてMOTを取得。お客様と一緒に、ビジネスとテクノロジーの両面から心躍る顧客体験の創造を目指す。

マーケティングの潮流として外せないのがパーソナライズ。これまでの記事では、パーソナライズの実施は、もはや企業の責任であるとも言える状態になってきているため、パーソナライズをこれから導入する企業様に向けて、どのような視点で仕組みを選定したら良いかについてお話いたしました。

事例編となる当記事では、パーソナライズ施策はすでに始めているけれど、現状の運用に不安がある、成果が出ていないという企業様に向けて、パーソナライズ施策におけるよくある課題と、その解決策についてお話しさせていただければと思います。フォーチュン100社の企業のうち、7割以上の企業がアドビのパーソナライズ製品を導入、活用しています。今回はそのような既にアドビのパーソナライズソリューションをご活用頂いている企業様から抽出した具体的な施策の内容からも、今後実施される施策のヒントにしていただければ幸いです。

視点なぜ企業の多くがパーソナライズの運用に不安を感じているのか

まず、多くの企業様がパーソナライズの運用に不安を感じている本質的な理由として、必ず踏まえておかなければならないことは、パーソナライズに正解はない、ということです。

事例はあくまで事例であり、正解ではありません。どのメッセージを、どの人に、どのチャネルで、どんなタイミングで、どのようなコンテンツにして届けるべきなのかは、企業様とその先のお客様との対話で生まれるものであり、それは企業様独自のものです。

もちろん、一般的に守るべきルールは存在します。例えば心理学的な背景から考える心地よいUIや、どのチャネルにおいてもメッセージの一貫性は必要、など、このような守るべきコミュニケーションのお約束事はパーソナライズにもありますが、それが具体化された施策については、全ての企業で同じ方法がうまくいくとは限りません。そこがパーソナライズ運用の難しさであり、不安を感じる要因かなと思います。

現実として多くの企業がパーソナライズやその拡張に苦労している印象

アドビが、2021年にパーソナライゼーションの状況を評価するために、インシィブという調査会社に依頼して調査を行なった結果では、パーソナライズが進んでいる業界においても、パーソナライズやその拡張に苦労している印象がありました。

調査の対象は、北米、欧州、アジア太平洋地域の小売業および旅行業の企業611社でした。小売業や旅行業は、店舗やコールセンターなど、お客様との接点も多く、リアルタイムなコミュニケーションが求められているため、他の業界に比べ、パーソナライズが進んでいると言えます。それでも、データの統合ができない、社内のリソースが限られているなどの理由で、カスタマージャーニーの半分以上をパーソナライズしている企業は37%にとどまっていました。

また、パーソナライズしている企業をエリア別に見ると、北アメリカが46%、ヨーロッパが41%と進んでいるのに対し、日本を含むアジア諸国は18%となっており、日本ではまだパーソナライズ自体が進んでおらず、今後パーソナライズを活用することで、さらに顧客体験を豊かにできる可能性を秘めていることがわかります。

日本企業がパーソナライズに苦労しているのは、企業文化が関係している?

ここからは、私の個人的な印象を多分に含んでいますので、ぜひみなさまにもご意見をいただきたいところですが、日本企業がパーソナライズに苦労している背景には、その企業文化とも密接に関わりがあるかもしれない、と考えています。

こちらは、組織論の研究をしてきたミシガン大学のロバート・クイン教授とキム・キャメロン教授が1980年代初頭に提唱した、競合価値観フレームワーク(CVF:Competing Value Framework)です。

まず、それぞれの文化をご説明すると、クラン文化(Clan)は仲間や親密性を重んじる文化です。手前味噌で恐縮ですが、アドビはここに位置していると考えています。

次に、アドホクラシー文化(Adhocracy)は、変化や創造を重視する文化で、スタートアップや外資系のIT企業、日本でも、個別に部署に裁量権があって、最適化された組織がイメージできます。
そして、ヒエラルキー文化(Hierarchy)は安定、統制を重視する官僚的文化で、日本の古き良き企業、業界でいうと、あくまで私のイメージですが、公共系や金融系を連想させます。
最後に、マーケット文化(Market)は、目標達成、収益性を重視する文化で、競争に勝ち抜こうとする文化です。こちらも私のイメージですが大手のコンサル業界が頭に浮かびます。

企業の文化を上記のような4象限にわけるとすると、私の経験の範囲ですが、日本企業の文化は、ヒエラルキー文化やアドホクラシー文化が多い印象を受けました。でも、パーソナライズがうまくいきやすい企業文化を私が個人的に挙げるとするならば、クラン文化とマーケット文化になります。その理由を、ひとつずつ説明していきます。

まず、アドホクラシー文化ですが、パーソナライズの導入は早いし、改善サイクルも回っていくので、導入から初期の運用は良いペースで進むのですが、企業全体にパーソナライズを拡張し、最適化していこうとした時に、大きな壁にぶつかる印象があります。なぜなら、個別の部署で裁量権もあるので、各部で異なるソリューションを導入していることがあり、全体で統制を取ることが難しく、途中で行き詰まってしまうことがあります。

次に、ヒエラルキー文化ですが、まず導入から運用の定着に時間がかかる印象です。施策内容自体の承認が必要で、施策を行う前に承認が必要だったり、施策の実行後には、詳細レポートを社内に提示しなければいけなかったりして、改善サイクルの高速化が困難な印象があります。

一方、パーソナライズがうまくいく企業文化、クラン文化とマーケット文化では、どちらもパーソナライズ施策の改善サイクルがうまく回りやすい印象を受けました。企業文化としては全く異なるのですが、クラン文化では、パーソナライズ施策の改善サイクルを現場で自由に回せるその裁量権がちょうどよく、マーケット文化では、強いトップダウンで現場が動くため、現場はとにかく改善サイクルの高速化に集中できます。

このように、その理由は異なりますが、クラン文化とマーケット文化については、どちらもパーソナライズにマッチしているという仮説を持っています。つまり、パーソナライズがうまくいくかいかないかは、パーソナライズ施策がどれだけ円滑に高速化できるかにかかっている、と言い換えることもできるかもしれません。みなさまの企業は、いかがでしょうか?

ただ、企業文化はこのような4象限にきれいに分かれるわけではなく、2つ以上が混ざり合っているとも言われていますので、これだけで判断するのは難しいですし、たとえ企業文化に関連があったとしても、企業文化は一朝一夕で変えられるものではないため、次からは、具体的なよくあるお悩み3つについて、その解決策をご提示させていただきます。

お悩み1:施策のアイデアが思いつかない

パーソナライズ施策を運用し続ける中で「今週は施策のアイデアが思いつかない」ということもあると思います。

まず直ぐにできるアプローチとして、パーソナライズもお客様とのコミュニケーションの一貫ですので、Webサイトのコンテンツ制作担当に相談したり、営業の方やカスタマーセンターの方々と、どこでパーソナライズするべきなのか議論をしてみると良いでしょう。普段は個々で考えがちですが、それぞれの役割から見える視点で議論してみることで色々な案が出てきます。

が、それでも施策のアイデアが出ない、そんな時は、世界を見渡してみると良いと思います。
まずは、競合他社でベンチマークしているところや、UIの観点から、同じロゴカラーのサイトや、同じカラートーンのサイトを見つけてみるのもいいかもしれません。また、日本にはまだ少ない印象ですが、企業のマーケターやチームが直接情報発信しているところもあります。

あとは、自社の業界で使用する製品を英語にして、同業界の海外の会社を探してパーソナライズの施策を探ってみることもできますし、Personalization、Personalize、A/B Testなどのテキストで検索するとたくさんヒントがあります。もちろん、アドビの海外チーム注1も発信していますので、ぜひご参考にしてみてください。新しい刺激を受けて、アイデアが浮かんでくると思います。

お悩み2:改善サイクルが遅い

パーソナライズ施策の運用は、カスタマージャーニーに沿ってパーソナライズ施策の案を考え、それを受けてコンテンツ制作チームがコンテンツを作成し、コンテンツが決定したらパーソナライズの仕組みに設定・配信し、配信されるコンテンツを確認して最適化、さらに分析して新しいインサイトを発見するという、高度な反復プロセスで成り立っています。

この反復プロセスを、パーソナライズ施策の改善サイクルと呼んでいますが、これが遅い原因は、マーケターで完結する範囲が少ない、コンテンツ作成・管理が煩雑、セグメントをマーケターで自由に操れないなど、色々と考えられます。

課題があると、ひとつひとつを場当たり的に目の前から取り除くことを考えがちですが、改善サイクルが遅い場合は、仕組み自体を見直すことも視野に入れることをお勧めいたします。セグメントを作るためにクエリが書ける人材が必要、AI機能などなくすべて手作業で行わなければならない、パーソナライズされた結果を深く分析できないなど、ソリューションを変更するだけでたくさんの課題を解決できるケースもあるからです。

一度導入した仕組みを手離す判断はなかなか難しい決断になるかもしれませんが、改善サイクルが遅いということは、競合に遅れをとることであり、お客様により良い体験を提供し続けるタイミングが遅くなり、せっかくのビジネス機会を失うことにも繋がりかねません。パーソナライズ施策の改善サイクルが遅いということは、それほど重い問題だということをご認識いただければと思います。

お悩み3:成果が出ていない

成果が出ていない、というお悩みも、アドビによくあるご相談としていただく内容のひとつですが、これについては、Marriott InternationalのVice President of Personalization and Product PerformanceのSusan Bloomberg様がおっしゃった、「お客様が求めていないことを知ることは、正しいことを知ることと同じくらい、いやそれ以上に大きな影響を与えることがあるのです。」という発言を引用させていただきます。

彼女は「私は、テストが収益にマイナスの影響を与えたとしても、そこから統計的に有意な学習が得られるのであれば、それは勝利だと考えています。時には、お客様が私たちに何を望んでいないのかを学ぶこともあります。」と仰っていました。つまり、パーソナライズに失敗はないということです。ひとつのパーソナライズ施策のコンバージョンでA/Bテストを行った時、それがデフォルトコンテンツに勝てなかったとしても、それは失敗ではなく、お客様が求めていないことを知った、というひとつの成果だということです。

編集後記

当記事はご参考になりましたでしょうか。事例編2では「すぐに使えるパーソナライズ施策Tips」として「訪問者に興味を持たせる」「カスタマージャーニーを円滑に進める」「コスト削減のアイデア」「カスタマーロイヤリティの構築」のテーマで事例をご紹介いたします。

富士フイルムビジネスイノベーションが提供するマーケティングDX支援サービス「Marketing Cockpit」は、アドビ社のパーソナライズツールを利用した伴走型アウトソーシングサービスです。パーソナライズについて何から始めたらよいかお悩みのマーケターの皆さま、ぜひお気軽にお問合せください。