バス業界や交通業界において、人手不足や高齢化、地方における利用者減少などが課題に挙げられています。そのようななか、業界の持続可能性を高める手段として注目されているのがバスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。
本記事では、バス業界におけるDXの取り組みや、交通業界に広がるGXとの関係について解説します。バスのDXが進む背景や導入技術、成功事例も紹介しているので、交通分野のDXに取り組みたい方はぜひ参考にしてください。
バスのDXは、バス事業においてデジタル技術を活用しながら課題解決や利便性向上を目指す取り組みです。近年、都市部だけでなく地方においてもDXの流れが加速しており、国の支援や補助金制度の実施も各地で行われています。
DXとは、デジタル技術の活用により、業務の効率化やサービスの質の向上を目指す取り組みのこと。近年、バス業界においてもDXの取り組みが進んでいます。
例えば、GPSを活用したバスの位置情報の共有や、AIによる運行ルートの最適化、キャッシュレス決済の導入などもバスDXの一例です。
DXにより運行の正確性が高まるだけでなく、業務負荷の軽減や顧客満足度の向上も期待されています。
近年では、バス業界だけでなく公共交通機関全体でDXの取り組みが進んでいます。都市部ではスマートシティ化の一環として、地方では過疎化への対応策として導入が進んでいます。
特に注目されているのが「MaaS(Mobility as a Service)」。電車やバス、タクシーなど、異なる交通手段をひとつにまとめて、スマートフォンなどから検索・予約・支払いを一気通貫に行える仕組みです。
また、DXの取り組みから発展した取り組みとして、交通GXも推進されています。
GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、現在の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心の構造に転換させ、脱炭素社会を目指す試みのこと。日本も気候変動枠組条約の締結国として、2030年には2013年比で46%のCO2排出量削減、2050年にはゼロを目標に掲げています。
交通機関のDXにより運行データの収集・分析が進むことで、無駄なルートや空車運行を減らし、CO2排出量の削減が期待されています。日本政府は公共交通のDX・GXを推進するため、「交通DX・GXによる経営改善支援事業」として補助金制度の設置や、地方公共団体とともに実証実験を進めています。
そのほか交通GXとして、EVバス(電気バス)やハイブリッドバスの普及も期待されています。
バス業界でデジタル化の取り組みが進む背景には、さまざまな課題があります。ここでは、以下の観点からバスDXが進む背景について解説します。
- バス業界の人手不足
- 少子高齢化による利用客の減少
- 利用者のニーズの多様化
バス業界では、運転手や案内スタッフの高齢化が進み、新たな人材の確保が困難になっています。不規則な労働時間や長時間勤務のイメージも影響しており、若年層から敬遠されがちな職種となっているのが現状です。実際に、運行ダイヤの見直しや路線の廃止を余儀なくされる事業者も増えています。
こうしたなかで省人化や自動化を進めるために、デジタル技術の活用が重要視されているのです。バスの位置情報をリアルタイムで把握できるシステムや、遠隔操作による運行管理システムなどがその代表例です。
少子高齢化による利用客の減少も、バス業界のDXを後押しする背景のひとつです。
地方を中心に、バスの利用者数は年々減少しています。若年層の都市部への流出や高齢者の外出機会の減少により、日常的にバスを利用する人が少なくなっているためです。
また、高齢者が免許を返納した後に移動手段を確保できない問題も深刻です。停留所までの距離が遠い、時刻表がわかりにくいといった理由で、外出そのものを控えてしまうケースも見られます。
そのため、DXにより持続可能な運行を維持するとともに、高齢者でも安心して使えるバス交通の整備が求められています。
バスを利用する人のニーズも多様化しています。高齢者や外国人観光客、障がいのある方など、利用者の層が広がったことで、それに似合った利便性や情報提供が求められています。
しかし、このようなニーズに対応するためには、従来の紙の時刻表やバス停の表示だけでは不十分です。多言語対応の案内や、視覚的にわかりやすいサイン、音声による情報提供など、さまざまな手段を組み合わせる必要があります。
こうしたニーズに応える形で、デジタルサイネージ型のバス停や、スマートフォンアプリの導入などが進んでいます。
バスのDXにおいては、MaaSによる複数事業者が利用できるオープンなデータ・システム基盤の構築が肝要となります。
紙をはじめ、アナログベースで実施していた業務領域においても、DXによる業務改善が進んでいます。位置情報など、バスの運行に関わるデータを標準化・オープン化することにより、都市単位で公共交通の利便性が飛躍的に向上する可能性が拡がります。
ここでは、バスDXにおいて導入が進められている、代表的な技術やシステムを5つご紹介します。
- バスロケーションシステム|バスの運行状況のリアルタイム発信
- ダイナミックルーティング|AIによる運行管理
- ICカード・キャッシュレス決済
- バス停サイネージ
- 運転支援システム
バスロケーションシステムは、バスの現在位置や到着予測時刻をリアルタイムで把握し、利用者や運行管理者に提供する仕組みのことです。スマートフォンやデジタルサイネージを通じて、バスの運行状況を簡単に確認できます。
バスがどこにいるのかすぐにわかるため、利用者はバスの到着を待つまでの不安を解消できます。停留所や事業者への問い合わせも減少し、利用者・運行側双方の負担軽減が期待できるでしょう。
ダイナミックルーティングとは、AIを活用することで、乗客の出発地や目的地に応じてバスのルートやダイヤを自動で決定する仕組みです。従来のように固定のバス停を巡回する方式ではなく、利用者のニーズに応じてルートを柔軟に変えることができます。
利用者は既存のバス停よりも希望に近い場所で乗降できるメリットがあり、移動の手間も軽減されます。特に過疎地においては、無駄の少ない移動手段を提供する仕組みとして注目されています。
近年では、現金以外の支払い方法も普及しつつあります。交通系ICカードのほか、スマートフォンによるQカード決済や国際標準の非接触型クレジットカードなど、多様なキャッシュレス手段が導入されています。
現金を持たない観光客や支払いの簡略化を求める利用者にとって使いやすく、スムーズな乗車体験を実現できます。運賃回収の際の業務負担も軽減されるため、事業者側にとってもメリットの大きい取り組みです。
バス停サイネージとは、デジタルサイネージ上に時刻表やバス接近案内、路線図などを組み合わせ、利用者が必要な情報を一目でわかりやすく表示するシステムです。画面上にはバスの運行情報に加えて、周辺施設の案内や観光情報なども表示できます。
紙の時刻表では対応できない突発的な変更にも対応できる点や、視認性の高いデザインによって視覚的にわかりやすい案内が実現できる点がメリット。多言語対応を進めることで、インバウンド対策としての効果も見込まれています。広告表示機能の併用で、維持管理コストの低減や新たな収益基盤としている事例もあります。
バスの安全運行を支える技術として、運転支援システムの導入も進んでいます。運転支援システムでは、カメラやセンサーを使って周囲の状況や乗務員の状態を常に監視します。
ドライバーによる脇見運転や眠気などの危険を検知した際に警告を出し、必要に応じて自動的にバスを減速・停止させる機能も備えています。
万が一の際には、車内外へ異常を知らせる仕組みも整っており、乗客の安全確保にもつながります。視認性を高めるライトや運転の操作性を向上させる設計なども含めて、安心して利用できるバスづくりが進められています。
最後に、交通業界におけるバスDXの成功事例をご紹介します。
- 山形市 企画調整部 公共交通課
- 京王電鉄バス株式会社
- 箕面市地域公共交通活性化協議会
山形市では誰もが使いやすい公共交通の実現を目指して、市内7か所に多機能型デジタルサイネージ(バス停サイネージ)を設置しました。バスの運行情報だけでなく、市政情報や観光案内も発信できるようになり、交通とまちの新たな接点づくりが進められています。
導入されたバス停サイネージでは、多言語対応や音声案内、市政情報の発信機能も備えています。地域住民はもちろん、観光客にとっても使いやすい公共交通インフラが整いました。
京王電鉄バス株式会社では、2022年3月に京王府中駅前のバスロータリーにバス案内用サイネージシステム「MORA FOR BUS STOP」を初めて設置。その後は、JR武蔵小金井駅前にも導入を広げています。
MORAは、動的表示・静的表示・プリント表示を使い分ける設計により、案内の視認性を高めているのが特長です。京王電鉄バスでは、特に運転免許試験場行きの路線案内がわかりやすくなったことから、乗車方法に関する問い合わせの減少にもつながっています。
大阪府箕面市では、主要施設や新駅のバスターミナルに16台のバス停サイネージを設置しました。複数のバス事業者の運行情報を1画面で表示できるようになったことで、乗客はバスの種別に関係なく「最も早く出発する便」を見つけられるようになりました。
あわせてGTFSデータを活用した運行管理の効率化も進み、業務のデジタル化とサービス品質の向上を両立しています。
本記事では、バス業界におけるDXの取り組みについて解説しました。人手不足や高齢化、利用者ニーズの多様化といった課題に対して、バスのDXは有効な手段となりつつあります。
富士フイルムが展開する「MORA FOR BUS STOP」は、こうしたバス停のニーズにこたえるソリューションです。複数のバス事業者の運行情報を統合し、わかりやすい運行案内を実現します。
サイネージに最適化した美しいデザインと、高解像度かつ低反射のディスプレイが特長です。また、ダイヤ改正の自動更新や自動リブート機能など、現場の運用負担を軽減する工夫が施されています。
交通サイン事業で培ったスムーズな工事オペレーションを活かし、導入から運用までを一貫してサポートします。さらに、広告販売支援を含めた運用支援体制も整っており、導入後の収益面にも寄与します。バス停のデジタル化を検討中の方は、ぜひお問い合わせください。













