東京の南からおよそ1,000kmの位置にある小笠原諸島は島固有の生き物が多く生息し、独自の生態系を織りなす世界遺産です。

アカガシラカラスバト
写真提供:環境省小笠原自然保護官事務所
小笠原諸島には、希少な鳥たちが多数生息していますが、一部の地域ではその生息数が減少しています。例えば、小笠原諸島にしか生息していないアカガシラカラスバトは、一時期その生息数が約 40 羽まで激減していたといわれています。生息数減少の理由としては様々な可能性がありますが、もともと島内にいなかった猫が人為的に持ち込まれたのちに野生化し、鳥を捕食していることが原因のひとつであると考えられています。
そこで、環境省、林野庁、東京都、小笠原自然文化研究所、東京都獣医師会などの様々な組織や企業が協力し、島内の野生化した猫を保護する「小笠原ネコプロジェクト」を立ち上げました。島内の飼い猫および、野良猫の調査や、ノネコの捕獲保護活動を行った結果、2024年現在でのアカガシラカラスバトの生息数は、約400羽~600羽までに回復したことが確認されています。
「小笠原ネコプロジェクト」によって保護されたノネコの数は、現在1,000頭を超えています。保護された猫たちは本土に搬送され、動物病院で健康チェックを受けたのちに、避妊去勢などの適切な処置をされます。さらに、人慣れなどの訓練後に新しい里親へと譲渡され、第2の猫生(にゃんせい)を歩みます。

新たな猫生を満喫している元ノネコのつみれくん(愛称:つみちゃん)

新たな猫生を満喫している元ノネコのピーターくん
受託検査と動物用医療機器を主として取り扱う富士フイルムVETシステムズは、「小笠原ネコプロジェクト」において、保護されたノネコの健康チェックをサポートしています。受託検査の 血液検査では、一般的な生化学検査、血球計算はもちろん、一部の感染症についても感染の有無を調べることができます。
我々は、小笠原で保護されたノネコの新しい飼い主さんが安心して猫との新生活を始められるようサポートしたいと考えています。猫の健康チェックに必要な医療サービスの提供を通じて、人と猫の良好な関係づくりに貢献することを願っています。
2005年小笠原諸島の母島と父島で野生化した猫によって海鳥の貴重な繁殖地が消滅寸前であることが発覚し、それをきっかけに小笠原の野生動物研究者が中心となり、行政や地元住民などの協力を得てノネコの捕獲が始まりました。
飼い猫の適正飼育の推進や捕獲したノネコの新たな貰い手家族の受け入れ事業を、富士フイルムVETシステムズは2022年度より健康管理を通じてサポートしています。
新しいご家族が安心して保護猫を受け入れることが出来る環境づくりに貢献するとともに、人と動物のより良い共生社会の構築を目指しています。
当社は、動物医療用機器ならびに関連機材の販売や、動物検体受託検査サービスなど、動物医療の総合商社であることを自負しています。その事業の中で獣医の先生方に対し医療(検査)に関する貢献はしているものの、「人と動物が安心して健やかに暮らせる社会に貢献する」を企業理念の元、自然環境の保全や伴侶動物を安心して飼うことのできる環境作りなど、もっと大きな意味で社会に対して貢献したいという思いがありました。
そんな時に、当時の東京都獣医師会会長の村中先生を通じてご紹介をいただいたのが「小笠原ネコプロジェクト」でした。
詳しく話しを伺い感銘を受け、すぐに協力させていただく様お願いをさせていただきました。
健康管理のサポートを開始してから、社内アンケートより「自然環境を保護する活動に参加する会社に入れてよかった」などの反響があり、この活動を通じてもっと社会貢献することを考える気運が高まりました。
また、今年はラジオやSNSでも紹介をさせてもらうことが出来、多方面から保護猫活動を知ってもらえる機会が増えました。今後もこのような活動を行っていきたいと考えております。
家族全員動物が大好きで、猫を飼いたいと思っていたところ、東京都獣医師会 中川先生の動物病院で小笠原のノネコが子猫を2匹生んだというので写真を見せてもらいました。それがもう可愛いくて…。1匹だけのつもりが結局2匹一緒に迎えることにしました。飼育の苦労はほとんどありませんが、当時飼っていたフェレットは一日中子猫たちに追いかけまわされてとても迷惑そうでした。それ以外は家族円満を支えてくれる大事な存在です。身近な人にこの子たちを紹介するときは小笠原のことも話すのですが、少しでも多くの人に知ってもらうきっかけになればと思っています。
飼っていた猫を病気で亡くし、気落ちしていた時に声を掛けてもらったことがきっかけで、生後数か月ほどのノネコを迎えました。私の元に来るまでどのように過ごしたか、保護された時の状況や毎日の体調の変化、兄弟猫と遊んで過ごす様子など細かく記したお手紙も一緒にいただきました。最初はあまりの小ささにケージの間からすり抜けてきたり、壁の隙間に閉じこもったりと戸惑うこともありましたが、よく食べてとっても元気いっぱいの子で、今も毎日にぎやかに過ごしています。
今後もこのような取り組みを通じて、人と動物がより良い形で共生できる社会の構築を目指してまいります。
- 堀越和夫ら(2020)「小笠原諸島父島における外来ネコ対策後のアカガシラカラスバトの個体数増加」『日本鳥学会誌』69巻 1号 p.3-18
山田 めぐみ(やまだ・めぐみ)
富士フイルムVETシステムズ株式会社
新規事業推進部
初出:いきもののわ/(株)緑書房
本記事は2024年11月時点の内容です。