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日本

内視鏡医の声

赤のわずかな色差を強調して診断をサポート
〜 腫瘍性病変の拾い上げ率が向上し、検診での活用にも期待 〜

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

朝日大学病院 消化器内科学 教授 八木 信明先生

朝日大学病院の消化器内科の特長は。

当院は40年以上前から内視鏡診断に注力し、特に上部消化管内視鏡の専門性については広く知られています。同時に、近年は上部以外の内視鏡診断・治療についてもプロフェッショナルの医師 がそろい、消化器疾患全般にわたって先進的な診断・治療に取り組むとともに、長い歴史の中で培ってきた地元の方々からの信頼に応える医療の提供に尽力しています。

粘膜の微妙な“色”に着目し赤の色差を強調することに成功

LCIに携わった背景は。

LCIの開発初期段階から評価した経緯には、私自身の内視鏡医としての経験が大きく関係しています。

今から30年前、医師になって3年目を迎えた私は朝日大学歯学部附属村上記念病院(現・朝日大学病院)に赴任しました。同院は、当時から内視鏡検査が盛んで、インジゴカルミンを用いた色素内視鏡検査を早期胃癌の診断と治療に積極的に応用していました。そこで行う内視鏡検査は、患者さんにインジゴカルミンを飲んでもらってから検査を行うというもので、粘膜の模様はよく見えるものの、本来のピンク色の粘膜の色調は認識できませんでした。そうしたある種、特殊な方法で3年間にわたって内視鏡検究を行っていたことで、粘膜の“色”に対する意識が特に強くなったのだと思います。その後、京都府立医科大学に赴任して、通常の白色光観察で胃のピンク色の粘膜を見た時は感動しましたね。ただ、やはりインジゴカルミンを散布しなければ模様をしっかりと確認できないと感じたため、同時に粘膜の模様に対する興味も深めていきました。

それからしばらくして、2008年頃から富士フイルムのレーザー内視鏡とBLIの評価に携わることになり、研究チーム内の胃の分科会に参加しました。そして、2010年頃から開始した臨床研究でBLIの有用性を確認して論文化し、2012年にLASEREOが発売された後もBLIの有用性を確認したデータが次々に論文化されていきました。

このような流れの中、BLIはある意味で色を省いていますが、私はこれまでの経験から粘膜の色を分かりやすくすることも必要ではないかと考えていました。また、BLIはがんを細かく観察して、範囲や深さを診断しますが、こうした難しい診断を行うプロフェッショナルの医師は各都道府県に数人いれば十分です。それよりも何十万人、何百万人が受ける検診やスクリーニングで、容易に早期がんが発見できる画像強調内視鏡が必要だと考えていました。LASEREOが発売された2012年には、富士フイルムから「BLIとは違う新たな画像強調機能を検討したい」との提案を受け、かねてから考えていた「色の変化で簡単に早期がんが見つけられる画像強調内視鏡がほしい」という想いが重なり、共同研究がスタートしました。

開発のコンセプトは。

胃の中は全体的にピンク色をしていますが、その中に少しだけ白い、少しだけ赤いといった微妙な色の違いがあります。その色の違いを強調できれば、ピロリ菌に感染した胃における腺境界の判断に有効だと考えました。そこで当時、富士フイルムの開発者と新しい画像強調機能の共同研究を行っていて、富士フイルムから提示される色々なアイデアを評価していたが、なかなか良いものがでてこなかったため、根気よく評価を続けていたところ、ようやく「これは!」というものがあり、それがLCIでした。

その後の研究の進展は。

2013年の8月から、若手を含めた10名で白色光とLCIで腺境界の判定に差が出るかを検証しました。しかし、ほとんど差が出なかったため、症例画像を見直していたところ、50例のうち20例は胃底腺が赤く、30例は胃底腺が白いことに気づきました。もともとLCIは腺境界を観察する目的でスタートしたのですが、腺境界よりも胃底線が赤くみえたものは全例ピロリ菌現感染でした。

当時からピロリ菌に感染した胃は、びまん性発赤が認められやすいとされていましたが、白色光では全体が赤く見えるため判断が難しいと言われていました。LCIは胃底腺の色を際立たせるので、びまん性発赤の判断が容易になる。これが分かったことで、研究が一気に進み、2014年10月にLCIが搭載された経鼻内視鏡が発売されました。

ピロリ未感染例

除菌歴(-)、ドックHp抗体陰性
胃底腺ポリープ

ピロリ感染例

除菌歴(-)、RUT陽性
慢性胃炎

ピロリ除菌後

除菌歴(+)、除菌成功
萎縮性胃炎

[提供]朝日大学病院 八木 信明 先生

LCIは検診において効果的と考える下部でも活用可能性がある

LCIの有用性は。

我々のデータでは、エキスパートの内視鏡医のびまん性発赤の診断精度は白色光で約70%ですが、LCIでは約85%になります。15%というとわずかな差と思う方もいるかもしれませんが、検診においてはこれが大きな差となって現れてくるでしょう。また、色の領域を広げたことによる副次的な効果として、背景粘膜との対比によってわずかな色調差を呈するがんの発見が容易になると期待されます。

下部においては便汁が薄い黄色に見えるので、便汁の下にあるポリープや毛細血管の途切れが発見しやすくなります。また、慢性の炎症性腸疾患を母地に発生し、非常に発見が難しいとされるcolitic cancerの診断にも有効と考えられます。
 

先生ご自身のLCIの使用方法は。

BLIで口の中から食道を観察し、胃に入ったらすぐにLCIに切り替えて、十二指腸までLCIで観察する。その後、ピロリ菌感染の疑いがなければそのままLCIで観察を続けます。一方でピロリ菌感染が疑われる症例や除菌後の症例ではインジゴカルミンを散布して白色光で観察します。これはLCIを評価しはじめた当初から変わっていません。胃内のスクリーニングはLCIで十分と考えていますが、本当にインジゴカルミンが不要なのかどうか個人的な興味があります。

LCIの腫瘍性病変の拾い上げ率は白色光の1.67倍

「LCI-FIND (LCI-Further Improving Neoplasm Detection in upper GI) 」の概要と結果は。

北海道大学の加藤元嗣先生(現・函館病院)を中心に、川崎医科大学の春間賢先生、東京医科歯科大学の河野辰幸先生(現・草加市立病院)、私の4名でLCIを用いた上部消化管腫瘍性病変に関する多施設共同前向き研究を実施しようというところから始まり、最終的には19施設が参加し、約1500例を集めた大規模な研究となりました。

結果は、白色光とLCIを比較すると、LCIの方が1.67倍、腫瘍性病変の拾い上げ率が高いというもので、私自身この結果には非常に驚かされました。

LCI-FINDの結果は、とりわけ検診におけるLCIの活用可能性を明確に示すものだと感じています。今後、少なくとも検診においてはLCIを取り入れるべきではないでしょうか。その際、限られた検査時間の中で白色光の時間を減らすのか、インジゴカルミンをかける手間を省くのか、さまざまな考え方があると思いますが、LCI-FINDは検査時間と拾い上げ率のバランスを考えればLCI単独での検査が有効であるという方向性を示しています。

これに対し、対策型胃内視鏡検診では白色光が基本とされていますが、現在は過渡期だと考えられます。今後、LCIや経鼻内視鏡をさらに普及させるとともに富士フイルムが中心となって対策型胃内視鏡検診マニュアルの画像強調版と言えるものを作成していくべきでしょう。食道はBLIで10枚、胃の中はLCIで20枚、残りの10枚は個人の判断で撮影する。こうした検診がスタンダードになっていくと思いますし、これがLCI-FINDが示した未来像だと考えています。