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日本

泌尿器科領域における3D画像解析システム“SYNAPSE VINCENT”の活躍について

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

鳥取大学 医学部 器官制御外科学講座 腎泌尿器学分野

眞砂 俊彦 先生
教授 武中 篤 先生

眞砂先生

はじめに

現在、腎部分切除術はT1aの小径腎癌に対する標準的治療として位置付けられており、同手術において、低侵襲手術として腹腔鏡下腎部分切除術(laparoscopic partial nephrectomy:以下、LPN)が行われるようになったが、その術式の難易度は高く、特に腫瘍切除、腎実質縫合で高度な技術が必要とされた。ロボット支援下腎部分切除術(robot-assisted partial nephrectomy:以下、RAPN)は、2004年に開始され*1、手術支援ロボット(Da Vinci surgical system)のもつ高解像度3D視野、多自由度鉗子により、温阻血時間の短縮が可能となり、さまざまな施設でその良好な治療成績について報告されている*2~*5

当院では、2011年8月から2014年6月までに29症例にRAPNを施行しており、2013年から、腫瘍の位置と腎動脈・静脈の走行など3D可視化した画像をdaVinci Siコンソールに入力することで、術者がコンソール画面を覗いたまま術中に同画面で閲覧することができるといったナビゲーションシステムを導入し、可能な限り腫瘍切除に関わる腎動脈分枝のみを阻血する選択的動脈阻血を試みている。今回富士フイルムメディカル社製のSYNAPSE VINCENTを用いたナビゲーションシステムを使用し、安全かつ容易に腫瘍切除を行うことができた症例を経験したので報告する。

症例

52歳、女性。
主訴:右腎腫瘍精査加療目的。
既往歴:糖尿病、高血圧。腹部手術歴なし。

現病歴:健診にて右腎腫瘍を指摘され、精査加療目的で当科紹介となった。画像所見では右腎中部に1.5cm大の腫瘍性病変を確認した。同部は早期相、遅延相でlow densityを呈し、嫌色素性腎癌、腎血管筋脂肪腫が疑われたが、画像所見のみでは両者を判別することはできなかった。renal nephrectomyscoreは1+1+1+a+1=4a,lowで腎動脈は1本であった(Fig.1)。術前にVINCENT version3を使用し3D再構築を行い、腫瘍の深達度、腎動脈、静脈の位置関係を確認した(Fig.2)。

手術所見:体位は健側を下にした左下側臥位で軽度ジャックナイフ型とした。経腹膜到達方法で行い、ペイシェントカートは臍真横のラインから15度頭側に傾けたラインから刺入しドッキングを行った。3Dナビゲーションシステムとして、OsirixとVINCENT version3を併用し、同一コンソール内に画像を投影することで、腫瘍の位置、腎血管群の走行をリアルタイムに確認することができた(Fig.3)。本症例では腎動脈分枝と本幹をテーピングした後、腹側の第2分枝のみをクランプして部分阻血を行った。手術時間221分、コンソール時間119分、温阻血時間17分、切除重量は5gであった。病理組織結果は腎血管筋脂肪腫であった。

考察

ロボット支援腎部分手術における3D高解像度画像は、腎動脈の血管の走行並びに腫瘍の位置を立体的に把握することができ、術前のシミュレーションおよび術中手術操作において非常に有用なツールと考える。今回我々が使用したSYNAPSE VINCENT version3では腎動静脈を同一画面上で提示することを可能にしたが、腎動静脈が同一画面に確認される状態で腫瘍切除の際の底面のイメージングを行う事ができないとういう点で実用性に欠ける点も認められていた。それでも血管の走行が手術の同一視野でほぼ完全に一致して見える事は大変有用であった。

近年発売されたSYNAPSE VINCENT version4では、以下の3つの点で改良されており、非常に有用なツールと考える。一つ目は任意のポート位置をバーチャル画像で設定することができ、そのポート位置から確認される術野をリアルに視覚化することができる点(Fig.4)、二つ目は腫瘍切除の底面の様子について、腎動静脈を同一画面に提示し、任意の断面像で再現することができる点(Fig.5)、三つ目は腎動脈分枝の血流分布について視覚化を可能とした点(Fig.6)である。

本術式では、ポート位置が手術の成否を決定するといっても過言ではなく、そのため、個々の症例で十分に検討して対応する必要があったが、任意のポート位置からの具体的な視野のイメージ可能となることは、適切なポート位置の設定を容易に行う事ができ、また手術に対する詳細なシミュレーションを可能にすることが期待される。

諸家の報告で、選択的動脈阻血の有用性について指摘されている*6。術中の腫瘍切除における断端陰性の回避は絶対条件であるが、腫瘍を含めた正常腎実質の切除マージンを最小限に留めることは術後の腎機能の温存に重要であり、その精度を高める意味で腫瘍底部の様子がより明確にイメージできることは大変意義のある事と考える。当科ではこれまでに3D画像を用いて、腎動脈分枝のみをクランプした部分阻血を9症例に施行しており、全阻血群20症例と比較したところ、腎機能の改善の点では現段階で明らかな有意差を見出すことはできなかった。解剖学的見地より、腎動脈分枝以下の血流支配を明確に示した報告はなく、今回SYNAPSE VINCENT version4が呈示する腎動脈分枝の血流分布自体も、肝臓手術に応用されたボロノイ法に基づいたもので*7、実際の血流分布の変化との一致については今後も十分に検討する余地があると思われる。

現在当科では腎動脈分枝レベルでの部分阻血を積極的に行っており、実際の術野における本システムの血流分布の変化の一致について、腎機能変化と併せ症例を重ね検討している段階である。ロボット支援下腎部分切除術における3D高解像度画像システムは術前シミュレーション並びに術中の血管、腫瘍の位置を把握するナビゲーションとして大変有用であると思われた。

参考文献

  • *1 Gettman MT, Blute ML, et al. (2004) Robotic assisted laparoscopic partial nephrectomy : technique and initial clinical experience with Da Vinci robotic system. Urology 64 : 914-918
  • *2 Benway BM, Bhayani SB, Rogers CG, et al. (2009) Robot assisted partial nephrectomy versus laparoscopic partial nephrectomy for renal tumors: a multi-institutional analysis of perioperative outcomes. J Urol 182 : 866-872
  • *3 Wan AJ, Bhayani SB (2009) Robotic partial nephrectomy versus laparoscopic partial nephrec tomy for renal cell carcinoma: single-surgeon analysis of >100 consecutive procedures. Urology 73 : 306-310
  • *4 Pierorazio PM, Patel HD, Feng T, et al. (2011) Robotic assisted versus traditional laparocopic partial nephrectomy : comparison of outcomes and evaluation of learning curv. Urology 78 : 813-819
  • *5 Khalifeh A, Autorino R, Hillyer SP, et al. (2013) Comparative outcomes and assessment of ” Torifecta” in 500 robotic and laparoscopic partial nephrectomies : a single surgeon experience. J Urol 189 (4) : 1236-1242
  • *6 Mihir M, Andre L, Scott L, et al. (2014) Robotic partial nephrectomy with superselective versus main artery clamping: a retrospective comparison. Eur Urol Jan 25 epub ahead of print
  • *7 Makuuchi M, Kosuge T, Takayama T, et al. (1993) Surgery for small liver cancers. Semin Surg Oncol 9 : 298-304