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日本

SYNAPSE VINCENTのMMAR(Mycrocardial Mass At Risk)機能を生かしたCTO-PCI治療

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

大阪大学大学院 医学系研究科
国際循環器学寄附講座
寄附講座教授
角辻 暁 先生

心臓CTは心疾患特に冠動脈疾患の発見・評価に広く用いられている。しかし心臓CTの可能性はさらに大きい。我々は現時点では心臓CTのみが詳細な「心筋情報」と「冠動脈情報」を持つことに注目し冠動脈任意点における心筋灌流量(Myocardial Mass At Risk: MMAR)の計測法を開発し過去の剖検心データとの比較でその妥当性を示した*1。本稿ではCTO-PCI治療戦略の決定にMMAR情報が有用であった症例を紹介する。

症例1

70代男性、不整脈が頻発することから心精査が行われ、心臓CTにて石灰化の強いLADの閉塞が疑われた(図1)。LADが灌流する領域の左室壁厚は心尖部の非常に限局した部分以外は保たれており(図2)、血行再建の適応と考えた。本症例でのLAD領域のMMAR評価を図3に示す。LAD 全体のMMARは左室心筋の49%と大きく(図3左・LAD)、閉塞遠位断端から分枝している対角枝のMMARは左室心筋の15%(図3右・D9a)、つまりLAD領域のほぼ3分の1を占めていた。このMMARの結果からLADのCTO-PCIにおいては対角枝の血行再建も行いうる治療戦略を選択すべきと判断した。

この対角枝のような「側枝に対する血行再建の判断」には側枝灌流領域が重要であるが、冠動脈造影による側枝灌流領域評価は側副血行路の程度や撮像条件(撮像時間や方向)により影響を受けやすく正しい判断が難しい場合も多い(図4)。一方、心臓CTでは側副血行路の描出が冠動脈造影より良好であることに加え血管構造そのものを評価するため正確な側枝灌流領域評価が可能であり、MMARによる定量評価を加えることで正しい治療戦略の決定が可能となる。

本症例ではMMAR情報をもとにLADだけでなく対角枝の血行再建を念頭においたCTO-PCI治療を開始、パラレルワイヤテクニックでのLADへのワイヤ通過ののち対角枝に対しリバースドワイヤテクニックを行い(図6)、最終的には対角枝を含めた完全な血行再建を行うことができた(図7)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8

症例2

40代男性、これまで2回LADを責任血管としたACSを発症し2つのステントが留置されている。最近の心エコー検査にて前壁を中心とした新たな壁運動低下が指摘され心精査として心臓CTが行われた。この心臓CTにてLAD近位部のステント内閉塞を認めたが(図7)前壁領域の壁厚は保たれており(図8)、血行再建の適応と考えた。この症例でも閉塞病変内に対角枝が認められ(図7・矢印)、MMAR情報を用いた治療方針決定を行うこととした。

MMAR評価では、LAD閉塞部の灌流領域は左室全体の29%(図9左・L7TO)、閉塞部から分枝する対角枝の灌流領域は左室全体の8.6%(図9右・D9a)、つまりLAD閉塞部の灌流領域の約30%を占めていることが示された。

図9

このMMAR情報から本症例においても対角枝の血行再建を含めたCTO-PCI治療を行うこととし、LADへのワイヤ通過ののち対角枝に対しIVUSガイド・パラレルワイヤテクニックを用いてワイヤを通過させ(図10)、最終的には対角枝領域を含めた完全な血行再建を行い得た(図11)。

図10
図11

まとめ

本稿ではCTO-PCI治療の2症例においてMMAR情報の活用方法について述べた。MMARの基礎は肝切除や肺区域切除で使われているVoronoi法であり、上記領域での正確性・妥当性はさまざまな方法で確認済みである。心臓領域においても我々による剖検心との比較*1・動物実験、愛媛大学倉田先生による心筋シンチとの比較*2が報告されている。MMARは冠動脈上の任意の場所における灌流領域を算出可能であるためCTO-PCI以外でもさまざまな血行再建治療に有用な情報である。心筋灌流領域を定量的に評価できるMMARを実臨床で使っていただき、効果的なPCI治療をしていただければ幸いである。

(筆者とともに本稿の症例の治療に携わるとともに情報提供を快く承諾していただいた秋田中通総合病院の佐藤誠先生・阪本亮平先生に心より感謝する。)

  • *1 CVIT 2016;31;218 Sumitsuji et al. Reproducibility and clinical potential of myocardial mass at risk calculated by a novel software utilizing cardiac computed tomography information
  • *2 EuroRadiol 2015;25;49 Kurata et al. Quantification of the myocardial area at risk using coronary CT angiography and Voronoi algorithm-based myocardial segmentation