このウェブサイトはクッキーを使用しています。このサイトを使用することにより、プライバシーポリシーに同意したことになります。

日本
ホーム 医療関係の皆さま 医療ライブラリ VINCENT Case Report「呼吸器臨床画像解析の最前線」

VINCENT Case Report「呼吸器臨床画像解析の最前線」

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

国立大学法人 京都大学医学部附属病院
呼吸器内科・リハビリテーション科
病院講師 佐藤 晋 先生
奈良県立医科大学
呼吸器内科学講座
教授 室 繁郎 先生

(左)佐藤先生(右)室先生

画像診断は呼吸器診療にとって欠くべからざる診断手法である。悪性疾患の質的・定量的評価に必須であることに加えて、COPD、気管支喘息、閉塞性細気管支炎など、良性疾患の病態評価・鑑別診断にも大きな威力を発揮する。
今回は、京都大学医学部附属病院の症例を対象に、SYNAPSE VINCENTを用いて行った病態解析の一端を報告する。

慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の病態解析
気管支拡張薬による肺容量減量効果

近年のCOPDの評価指標として、閉塞性障害だけではなく肺容量の変化も重要視されるようになっている。肺容量の増加は肺過膨張とも呼ばれ、労作時呼吸困難などと密接に関連するが、簡易な呼吸機能検査では計測しがたい。そこで胸部CTを活用した肺容量変化の定量評価が応用できる。
通常の深吸気撮影の胸部CT画像から測定する肺容量(CT-TLC)は呼吸機能検査で実測した全肺気量(TLC)と極めて良い相関を示し、気管支拡張薬によって得られる過膨張の改善、つまり肺容量減少効果(volume reduction)がCT-TLCの減少でも確認できる。視覚的な評価も可能である(図1)。

図1:LAMAによる肺容量減量効果

さらにSYNAPSE VINCENTでは自動肺葉分割機能により肺葉別の解析も容易に行うことができ、治療前後、経時変化の評価も可能である。重症COPD患者では正確な肺葉分割が難しい事例があり、若干のマニュアル補正を要するが、当施設がVINCENTの機能を応用し考案した方法は補正処理の影響を最小限としてより正確に比較可能である。
本方法は正規の方法では無いが、具体的には比較する2つのCT画像の片方を先に肺葉分割・マニュアル補正し、VINCENTの肺換気解析機能を用い前後の画像を非剛体位置合わせする(図2)。

図2:VINCENTを用いた肺葉別解析

これによりもう一方はマニュアル補正は不要となり、手作業の手間とエラーが回避され、葉別の容量変化がより容易に算出可能となる(表1)。

表1:LAMA/LABA 開始1年後の葉別肺容量変化

この手法を活用した結果、治療前後の評価(図3)では、下葉の変化はより顕著であるが患者間差が大きく、コントロールに比べて上葉の肺容量減量効果が有意に認められた。

図3:LAMAによる肺葉別減量効果

吸気呼気 CT 画像を用いた肺換気解析と応用
small airway dysfunction(SAD)の評価や換気シンチグラフィーとの比較

SYNAPSE VINCENTの「肺換気解析」では、吸気位と呼気位のCT画像を非剛体位置合わせの手法を用いることによって、呼吸による変化の評価が可能である(図4、5)。
 

図4:吸気呼気CTの非剛体位置合わせ画像処理アルゴリズム

図5:気管支喘息症例の肺換気解析の例

従来の肺換気評価の標準手法は換気シンチグラフィーであるが、VINCENTによる解析と、Xeによる換気シンチグラフィーの両方を実施した閉塞性細気管支炎(BO)症例を図6、7に示す。相対的にかなり換気が不良であるが、換気シンチグラフィーで良好な換気を示している領域は、VINCENTによる換気解析でも概ね良好な容量変化を示しており、吸気呼気CTによる換気解析の妥当性を示唆する結果であった。しかしながら、両者の結果が必ずしも一致しない症例もあり、今後の症例の集積と検証が必要である。

図6:換気シンチグラフィーとCT画像による換気解析

図7:Xe-scintigraphy vs. CT analysis(Lay summation image)

また、この肺換気解析の非剛体位置合わせ機能を活用し、近年注目されているsmall airway dysfunction(SAD)と呼ばれる末梢気道の病変の指標についても検証を行っている。SADは元々「吸気と呼気のCT値変化が乏しい=air trappingが生じている」という考え(図8)に基づくが、実際には吸気CT(-950HU)と呼気CT(-856HU)では異なる閾値を用いて判定を行う(図9)。近年の研究ではSADが肺気腫の前駆病変であるという説もあり、今後COPDの病態解析において注目すべき画像指標と考えられる。
 

図8:small airway dysfunction(SAD)の考え方

図9:VINCENTを用いた気腫病変、SADの解析
吸気CT-950HU、呼気-856HUを閾値とし気腫(赤)とSAD(緑)を定量評価

気道病変評価アルゴリズムの検証
~気道Phantomと超高精細CTを用いた検証~

気道病変の評価に関して当施設では従来よりオリジナルソフトを用いた定量解析を行っており、同じ手法を用いてSYNAPSE VINCENTの気道計測の検証を行っている。アクリル製の気管支を模したチューブ(気道Phantom)を用いた検証により、すでに従来CT画像(Conv-CT;matrix size 512×512)では気道径が2mm程度の細気道の計測は誤差が50%以上となることを報告しているが、VINCENTでも同程度の誤差で収まることを確認した(表2)。

Error of measuring lumen area(%)
  Conv-CT U-HRCT
Matrix size 512×512 1024×1024
Slice thickness 0.5mm 0.25mm
ID=3.0 mm(WT=0.7 mm) -25 9
ID=2.0 mm(WT=0.5 mm) -30 -8
ID=1.6 mm(WT=0.5 mm) Failure -1
ID=1.3 mm(WT=0.5 mm) Failure -2
ID=1.0 mm(WT=0.5 mm) Failure -24
ID=0.8 mm(WT=0.5 mm) Failure -40
ID=0.8 mm(WT=0.3 mm) Failure -80
ID=0.5 mm(WT=0.3 mm) Failure Failure
ID=internal diameter; WT=wall thickness

表2:気道Phantom解析結果(文献6より引用)

さらに、近年当施設で導入された超高精細CT(U-HRCT;matrix size 1024×1024)のPhantom画像においても検証を行っている(図10)。
U-HRCTでは従来法と比べ、より精細な画像が得られ、細気道の計測がより正確に行えることが示された。例えばConv-CTでは計測困難な径1.0mm、壁厚0.5mmでも誤差が20%程度であり、内径0.5mm(矢印)でもU-HRCTでは視覚的に内部の開存が確認できるが、従来法では小粒状影にしか見えないことが判る。

図10:気道Phantomを用いた検証

気腫病変の定量評価とフラクタル次元D

SYNAPSE VINCENTでは肺気腫の定量評価として、低吸収領域(Low attenuation area(LAA)もしくはLow attenuation volume(LAV))の計測が可能である。当施設では以前より自施設で開発したオリジナルソフトを用いて気腫病変の定量評価と、さらにフラクタル解析を行っていたが、VINCENTでもクラスター解析を用いたフラクタル次元Dの算出が実施可能である(図11)。

図11:気腫病変の分布が異なる患者とクラスター解析
2つの例はともに%LAV 30%程度だが、クラスター分布が異なり、Dに差が認められる。

気腫病変の重症度(%LAV)とフラクタル次元Dを用いることでCOPD患者の予後や増悪リスクの推定が可能かを検証したところ、Dの低値は将来の増悪リスク、%LAV高値は生命予後不良因子となることが示された(図12)。

図12:COPD患者130例の増悪リスクと生命予後解析
D低値は増悪リスク、LAV高値は生命予後リスクとなる(文献4より引用)

参照文献
  1. Tanabe N, Muro S, Sato S, et al. Fractal analysis of low attenuation clusters on computed tomography in chronic obstructive pulmonary disease. BMC Pulm Med 2018;18:144.
  2. Tanabe N, Sato S, Oguma T, et al. Associations of airway tree to lung volume ratio on computed tomography with lung function and symptoms in chronic obstructive pulmonary disease. Respir Res 2019;20:77.
  3. Tanimura K, Sato S, Sato A, et al. Accelerated Loss of Antigravity Muscles Is Associated with Mortality in Patients with COPD. Respiration 2020;99:298‒306.
  4. Shimizu K, Tanabe N, Tho NV, et al. Per cent low attenuation volume and fractal dimension of low attenuation clusters on CT predict different long-term outcomes in COPD. Thorax 2020;75:116‒22.
  5. Shima H, Tanabe N, Sato S, et al. Lobar distribution of non-emphysematous gas trapping and lung hyperinflation in chronic obstructive pulmonary disease. Respir Investig 2020;58:246‒54.
  6. Tanabe N, Shima H, Sato S, et al. Direct evaluation of peripheral airways using ultra-high-resolution CT in chronic obstructive pulmonary disease. European Journal of Radiology 120 (2019) 108687
自動マッチング機能を用いた気道病変の評価

SYNAPSE VINCENTの位置合わせ機能を用いることにより、異なる時期に撮像されたCT画像において、気道経路ごとの気道指標の比較・評価が可能である。VINCENTの自動マッチング機能を利用して同じ気道経路を選択し、前後で同じ分岐部位での評価を行うことができる(図13)。当施設では、気管支喘息患者の治療前後の気道壁肥厚の変化を評価している。
気管支喘息の治療薬は吸入ステロイド製剤(ICS製剤)が主であるが、ICS製剤には粒子径が比較的大きいドライパウダー製剤(DPI製剤)と、噴霧式で径が比較的小さい粒子も含むMDI製剤がある。これら径の違う粒子は気道への沈着・分布に違いがあると推定されており、同じ力価の薬剤でも異なる製剤により治療効果に差が見られる可能性が示唆される。

図13:自動マッチング機能を利用した気道解析の実際

実際に当院通院中の気管支喘息患者において、治療前後のCT画像解析結果を図14に示す。予想に反し両者に明らかな差を見いだし難かったものの、分岐ごとの解析結果では中枢気道においてはMDI製剤がDPI製剤よりも良好な治療効果を発揮する可能性が示唆されている。

図14:Ratio of WA% after/before treatment(Comparison within group)

肺外病変の評価と生存解析

SYNAPSE VINCENTには、気道解析や肺解析以外にも多数の画像解析ツールが準備されている。COPDは肺外の併存症も重要であるため、胸部CT画像を用いて、併存症の評価も行っている。例えば肺動脈径と大動脈径との比(Pa/Ao比)を用いた肺高血圧症の評価(図15、16)や、椎体のCT値から骨密度低下・骨粗鬆症、そして骨格筋横断面積から筋量減少・サルコペニアといった病態の評価が可能である。

図15:Pa/Ao比の計測

図16:Pa/Ao比による生存解析

我々は抗重力筋である脊柱起立筋横断面積(ESM CSA)に注目し、検討を行っている(図17)。男性COPD患者130例を対象とした検討では、1/3の患者が同年代の健常人の平均-1SD未満より低下しており、ESM CSA低値は強い予後規定因子であった。さらに行った縦断的解析ではESM CSAが3年で10%以上低下した患者の予後は不良であった(図18)。

図17:重症度2期のCOPD患者2例のESMCSA計測の実際

図18:3年間のESMCSA (%ΔESM)による生存解析

当施設では、このように多数の定量的画像解析手法を応用し、呼吸器疾患患者の病態評価を行っている。定量的画像解析は、研究、臨床の両面において極めて有用かつ有望な画像解析ツールとして期待される。