このコンテンツは医療従事者向けの内容です。
診療放射線技師
日向寺 義則 先生
腰椎疾患(腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症)の病態評価や、腰椎神経根の奇形や走行異常の形態評価は実臨床において重要であり、診断、治療方針の決定、手術手技の安全性を高めるために必要不可欠な行為である。正確な評価を行うためには、従来では2D画像で描出した腰神経(硬膜管と腰神経根)を読影者が脳内で立体な画像として構築する必要があった。そこでワークステーションを用いて3D画像を作成することにより、読影技術のある医師だけではなく、コメディカルや患者までもが病態や神経の状態をシンプルに把握し易くなると考えられる。
しかし、腰神経3D画像の作成はテクニックと時間を要するため、一部の施設でしか実施されていなかった。今回、簡便に腰神経を描出するために富士フイルム社のAI技術ブランドREiLI(レイリ)のディープ ラーニング技術を用いて設計した腰神経自動抽出機能の使用経験を報告する。
使用機器 | GE社 Signa EX-HDxt 1.5T |
---|---|
使用コイル | CTLコイル |
画像種類 | MERGE |
撮像時間 | 5:19 |
2D/3D | 3D |
SE/GRE | GRE MERGE |
撮像断面 | Coronal
|
TR | 57 |
TE | Min Full(19.8-63) |
FOV | 230 |
Locs per slab | 36 |
slice thickness | 1.6 |
gap | -0.8 |
matrix | 320×224 |
NEX | 1 |
その他 | Flow compensation,Spectral Special RF, ZIP2 |
Receive Bandwidth(kHz) | 31.25 |
腰神経抽出は、汎用アプリケーションである3Dビューワに搭載された自動抽出機能であり、ワンクリックで腰神経3D画像を作成できる。さらに、CT画像から作成した腰椎3D画像を組み合わせることでCT・MRIそれぞれの長所を生かした画像が得られ、腰椎疾患の評価、診断、手術手技の決定に大きな利点をもたらす[画像2]。また、フュージョンを用いることで、一つのモダリティでは表現することが困難だったKambin’s triangle(safety triangle)の形状を3D画像で容易に確認できるようになり、FED(Full-Endoscopic Discetomy:完全内視鏡下腰椎椎間板摘出術)など手技決定の一助となっている[画像3]。
撮影には体位による湾曲の影響を最小限に抑えるため、CT撮影時には両手を挙上させずに腕をクロスさせ両肩に添えて撮影している。また、CT、MRIともに同一の膝枕を使用し挿入位置が極力同じになるように微調節しながら検査を行っている。
フュージョン画像はMRIによる腰神経3D画像とCTによる骨の3D画像をそれぞれ作成し、汎用アプリケーションからマルチ3Dを選択することで簡便に作成できる。
ここで、側弯症・脊柱管狭窄症患者の当院での画像作成事例を紹介する。
側弯症や椎間板ヘルニアの症例に対して作成した画像を示す。骨と重ね合わせることでそれぞれの位置関係を立体的に把握でき,病変部を容易に観察できる[画像4、5]。
腰神経走行異常の症例画像を示す[画像6]。椎間板ヘルニアが存在し、2D画像だけでは腰神経の走行異常を確認し辛い症例であったが、3D画像を作成することで術前に視認することができた一例である。
当クリニックでは腰神経抽出機能を使用することで腰神経3D画像が短時間で作成できるため、外来患者の腰椎MRI撮像全例に即時対応している。また、全内視鏡下腰椎椎体間固定術(PETLIF:ペトリフ)という新しい手術手技を考案し実用化しており、この手技の安全性確保のためKambin’s triangleから椎体間ケージの挿入シミュレーション画像を作成し、医師へ提供している。
腰椎疾患の手術において腰神経、骨および病変の3次元的な位置関係を事前に把握することで、手術の低侵襲化(局所的な骨切除や病変摘出)に繋がるのではないかと考えられる。
MRIとCTの3D画像が整形外科分野の手術技術躍進に多大な影響をもたらすことを期待し、腰神経抽出ならびにSYNAPSE VINCENTのさらなる機能の向上・拡張を望みたい。